Par-delà le Pont – 9 - Pont de l’Archevêché聖母の背中から伝う愛が染み渡る
アルシュヴェシェ橋。

(2011.06.20)

こんにちは! 今年は梅雨に入るのが早かったですね。関東では、平年より12日も早いそうです。「しばらく太陽見てない~」という地域のみなさん、そしてそのほかの地域のみなさんも、お元気ですか? でも雨が続く季節、晴れ間が覗いた時の嬉しさは格別ですよね。

ところで今は、6月21日の夏至に向かって、1年で一番陽が長い時期。梅雨と重なる6月は、太陽の印象が薄いまま過ぎていきますが、実はいったん晴れの日となればいつもより長く太陽を楽しめる月でもあります。

私は夏が始まる直前の今の時期が、小さい時から大好きです。子供の頃の夏って特別で、お祭りみたいに感じられるけれど、お祭りは始まってしまったら終わるだけなんですよね。夏の終わりは何だか寂しすぎる気がするんです。ベランダに捨ててある、やり終えた閃光花火みたいに寂しいです。だから始まる前、期待に胸が膨らんでいるこの時期を一番気に入っていたんです。

小さい頃と違って夏を何度も過ごした今は、「あ~、終わってもどうせまた同じような夏が来年も来るだけだけどね~」とも思いますが、まあ決して同じ夏は来ないわけですよね。多分ね。

フランスでは、夏至の日は「音楽祭」とされていて、色々な音楽のイベントが開かれます。しかもすべて、ただ。パリにいらっしゃる音楽好きの方は、お見逃しなく。

セーヌ川に架かる、パリ市内30本の橋を追っていく連載。「マレ/シテ島地区」シリーズ・第9回目の今回は、アルシェヴェシェ橋を渡ります。どうぞよろしく、お付き合いいただけたら嬉しいです。

パリで一番狭い「大司教館の橋」

前回ご一緒したシャンジュ橋を右岸からシテ島に渡って、島の北側を東に戻りながら5回目に渡ったアルコル橋を通り過ぎると、道が右へ迂回していって左にはシテ島とサン・ルイ島を繋ぐサン・ルイ橋が見えてきます。そしてそのままジャン23世広場を抜けるようにしてシテ島の東端を南下すると現れるのが、シテ島の南と左岸を結ぶアルシュヴェシェ橋です。

このアルシュヴェシェ橋の建設が始まったのは、1828年4月1日。完成は、当時のフランス国王、シャルル10世の誕生日にあたる11月4日なので、わずか7か月という短い工期で架けられたことになります。

工期が短かったのは、橋が小さいせいもあるかもしれません。そう、アルシュヴェシェ橋はパリでもっとも狭い橋なんですね。そしてセーヌの支流にある橋の中で、もっとも低い橋でもあります。3連になる石造アーチの高さはそれぞれ15、17、15m。低くて船が通る時に邪魔なので、1910年に架け替えの決定がされたのをはじめとして、いくつもの架け替えプロジェクトが立ち上がったんけれど、まだ低いまま。これは大丈夫なんですかね?

さて、「アルシュヴェシェ橋」とは「大司教館の橋」という意味です。かつてはシテ島の東の端、ノートルダム大聖堂とセーヌ川の間に大司教の大きな館があって、それが橋の名前の由来となりました。しかし大司教館は、橋の完成の3年後、1831年に早くも壊されてしまったわけです。「いったいどこが『大司教館橋』だよ、館があったのは最初のうちだけじゃねえか」と言いたくもなりますが、大司教館としては建物の姿がなくなっても、名前だけは橋に残ったということで、嬉しい気持ちで自分の子供のように今もどこかで橋を見守り続けているのでしょう。


ラブラブカップルの最新スポット?

ところでセーヌ川の橋では、その柵や金網に南京錠がぶら下がっている光景を見ることがあります。これは、「恋人同士が橋に南京錠をぶらさげ、ロックをかけて鍵を川に捨てると、絆は永遠に続いていく」というジンクスを信じているロマンチストカップルさんたちの仕業ですね。ただロマンチストカップルさんたちも、どの橋でやっても構わないというわけではなく、ずっとアール橋(芸術橋とも。アルシュヴェシェ橋から少し西に架かっています)や、次回こちらで紹介するドゥブル橋がお気に入りだったのですが、最近ではこのアルシュヴェシェ橋が旬の橋になったそうで、金網には所狭しと南京錠が並んでいるらしいです。

聖母の背中から語られるメッセージ

そんなわけで、このところは金網がロマンチストカップルさんの聖地になっているものの、もともとアルシュヴェシェ橋は小さいし、どうも話題性に欠ける橋であったようです。私の手元の本でも「地味で目立たない橋です」という感じに3行で解説が終わっているんですね。3行って、あんまりですよ。3ページにわたって絶賛されている橋への情熱を、ちょっとでも分けてあげたらいいのにね~。

ただ、ノートルダム大聖堂の後ろ姿を見るのには、この橋以上に優れたポイントはないようです。「いや、わざわざ後ろ姿? 地味な橋から地味なものを見てもねえ」という気分にもなりますが、素敵な建物というのはその背中もなかなか悪くないものです。

人間の場合、「男は背中で語る」とか言ったりして、まあ男でなくてもいいんですが、とにかく背中にその人が現れるということはある気がします。自分で見えないものは覆えないということで、本音が露わになるのは確かなのでしょうね。

ノートルダム大聖堂の──聖母マリアの本音はどんなものなんでしょうか。聖母というからにはきっと裏表はなくて、表裏一体となって愛を表現していそうです。そして橋から大聖堂の背中を眺めた時には、表からでは分からないもっと深い愛が透けて見えてくるのでしょう。彼女は、背中であれこれと語りだすイメージはないですが、言葉はなくても愛で包んでくれることが何よりも雄弁に、希望に満ちたメッセージを伝えてくれる気もしますよね。

大司教館が(多分)守護霊のように守ってくれている大司教の橋では、ラブラブカップルも疲れたカップルもシングルさんも、聖母の予想以上に優しい愛のメッセージをダイレクトに受けて、自分の暖かい未来を予感する勇気が出るのかもしれません。

ドゥブル橋へ

シテ島の東から左岸に架かるアルシュヴェシェ橋、いかがでしたでしょうか。次回は、アルシュヴェシェ橋の西でノートルダム大聖堂の膝元に架かる、ドゥブル橋を渡ります。

 

Pont de l’Archevêché
アルシュヴェシェ橋

竣工:1828年
長さ:68m
幅:17m
建築家:
形式:アーチ橋
素材:石
最寄駅:Maubert-Mutualité駅(メトロ10号線)
付近の観光スポット:ノートルダム大聖堂