平城遷都1300年祭に涌く、古都奈良へ。

(2010.05.26)

古き良きものに憧れる30代

あるテレビ番組で、「奈良のよさは30歳になってから」といったようなことを言っていた。なるほど、まさに三十路にどっぷり浸かった今、私は、奈良にはまっている。

奈良県には、「法隆寺地域の仏教建造物」や「古都奈良の文化財」、「紀伊山地の霊場と参詣道」など、世界遺産になっている場所がいくつもある。

「奈良のよさは30歳になってから」私は、奈良にはまってしまいました。

中でも奈良の大仏は、銅像で唯一の世界遺産とのことだ。そんな歴史を感じさせる建造物もさることながら、奈良には、原生林がそのまま残るという春日山などあり、自然環境がまた落ち着く。東京では滅多に味わえない真っ暗な「闇」。古代の人も今と同じような山に浮かぶ月を目にしたのではないか、と歴史に思いを馳せ、その風景を想像するのが楽しい。

京都・奈良にしても、寺社めぐりをしたといえば、修学旅行のときに駆け足で回った記憶しかない。しかも、初夏の蒸し暑さにうんざりしながら、集団で機械的に歴史散策コースを歩く……当時、まだ子どもの自分は、動きのあるもの、近代的なもの、新しいものばかりを追いかけ、古いものや静かなものにはまったく興味がなかった。寺や仏像を見ても何一つ面白くもなく、解説を理解できず、その努力もしなかった。

それから約20年。桜が咲き誇る3月下旬。日本の魅力を再発見しようということで奈良ツアーを企画。16名で奈良を散策した。

車も機械もない時代の先人たちの知恵と技

まずは、東大寺へ。
自分でツアー内容を企画しておきながら、幼い頃の退屈な印象が濃く、ここは1時間くらいあれば十分だろうと思い予定を組み込んでいた。

しかし、実際はまったく時間が足りない! のだ。
庭の桜の華が色を添える、世界最大級の木造建築、大仏殿。その大きさ、存在感にまず圧巻された。中で座っている大仏の高さは、約15m。鼻の穴の部分だけでも、中柄の大人が屈んで通れる程の大きさがある。この大仏にしても、子どもの頃より今の自分の方が体は大きくなっているはずなのに、以前よりずっと大きくどっしり見えるから不思議。

当たり前のことだが、1000年以上前の人たちは、車もない、機械もない時代に暮らしていたはずだ。それなのに、よくぞこんな繊細で大胆で豪快なものを作ったものだ、と改めて驚いた。今、私に同じ材料を与えられ「作りなさい」と言われたとして、こんな風に建てられようものか。

東大寺の建立は752年。源平の戦いと、戦国時代に二度焼失したが、それぞれ鎌倉と江戸時代に再建され、創建当時そのままのものは数少なくなっている。大仏殿の横幅が、元の87mから57m程に小さくなり、大仏の体と頭の銅の色が違うのはそのためだ。

奈良県には観光ボランティアガイドさんがいる。なんと、1人1日につき100円(10人未満の場合は1000円)で案内してくれる。
http://www.e-suzaku.net/

このガイドさんに東大寺の案内をお願いしたのだが、たとえば、鏡池を通りすぎるとき、「陸地になっている部分が手鏡みたいでしょ?」と。「なるほど、鏡池」。
何もわからずに見ているだけでは通りすぎてしまうことも、おもしろおかしく教えてくれた。

ある会で、東大寺のご長老の話を聞く機会があった。たくさんのお話の中で、「観音世界の1日は人間世界の400年」という言葉があった。アラフォーだなんだっていうけど、観音様の1日にしたら、まだまだ朝起きたばかりじゃないか。がんばるぞ!


今の時代にこそ贅沢でありがたい日本旅

歴史背景云々という前に、一目でうならせた大仏。
最近これほど感動したものに出会わなかった、ということは、私に刺激が少ないからなのか、それとも1000年前の人たちを超えられないということなのだろうか……。

『江戸三』の丸窓から見えるのは自然が描く絵画のよう。

そんな思いで、奈良公園の中にある明治創業の料理旅館『江戸三』で昼食をとった。数寄屋風建築の建物が点在する。その一つ、通された部屋の丸窓から、うすピンク色の桜が飛び込んできた。季節毎に違った風景が描かれる自然の絵画というわけだ。料理は、ミニ懐石コース。江戸切子のグラスに注がれた桜のお酒がまず食前酒としてだされ、四季の食材による彩り豊かな皿が運ばれるた。

今、家事も仕事も連絡も、いかに楽に、効率よく、早く……、そんな日常だからこそ、余計に贅沢でありがたく感じる日本旅。

せめて今晩の夕食くらい、彩りを考えパセリでも添えてみようかな……。

江戸三
http://www.edosan.jp/

 

 

筆者プロフィール

田畑 則子(たばた・のりこ)

フリーライター

1971(昭和46)年埼玉県生まれ。 短大児童教育学科卒。カード会社に勤務の後、ワーキングホリデイにてオーストラリアに1年間滞在。現地ツアーデスク、日本語教師などを経験。帰国後、出版社勤務などを経て、1995年、フリーライターとして独立。著書に、『起業本能~夢を生み出す女性たち~』(サンマーク出版)共著に、『笑うアジア』『女ひとり旅読本(シリーズ第一弾)』『HAPPY HAWAII(シリーズ第一弾)』(共に双葉社)、『ワーキングママのための時間管理術』(阪急コミュニケーションズ)など。日本の魅力再発見! をキャッチフレーズに『AJ~ADVENTURE JAPAN~』(株式会社Adventure JAPAN発行)、英語、中国語、タイ語、仏語の五カ国語(日本語含)で発信する同名のサイトを運営。
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