焼きものの郷へ Vol. 4 九谷 器の中で絵画を楽しむ九谷焼のちょっと贅沢な世界。

(2010.06.14)
上絵の色を作り出す調合は秘伝。コバルト、マンガン、珪酸、カオリン、鉄など、門外不出の調合ノートに沿って、材料をすり合わせて色を作る。

4つ目に訪れたのは世界でも知られる「九谷焼」の郷。ここは有田と同様、器の成形を担当する「窯屋さん」と絵付けをする「画工」さんとの分業が進んでいる産地。その絵付けの技術は、日本を代表する工芸として、芸術として色や絵柄が、代々引き継がれています。絵には染め付けと上絵の2通りがあります。呉須で描くきれいな藍色の染め付け、その上にさらに色を載せるカラフルな上絵。上絵の代表は五彩(ごさい)と言われるアオ(緑)、アカ、キナ(黄)、ムラサキ、コンジョウ(紺)を使ったまるで絵画のようなもの。

銀泉窯は、親子3人の画工さん。門外不出の色(調合)を使っての上絵は三浦銀三さんと美津子さんが。息子さん・晃禎(てるただ)さんは藍九谷の名工・山本長左さんの元で身につけた繊細な染め付けを担当。3人はそれぞれの好みのポジションで器を持つと、すらすらーっと滑らかに筆を動かしていきます。下書きのほとんどない素焼きの器に模様を書き入れている晃禎さんの正確で緻密な筆運び、左手を固定して右手の先を細かく動かして色絵の線画を描く銀三さん、次々に手早く色を塗る美津子さん、黙々と淡々と時間は流れ、作品ができあがっていきます。染め付けに色絵の線画、そこに透き通る五彩が塗られ、何日もかけて絵画のような九谷焼の器が完成するのです。

色ができると何度も試し焼きをして銀泉窯の色かを確かめる。五彩のうち、赤以外はガラス状で透き通っている。
いくつもの色を調合したもの。その場ですりながら上絵を塗る。
上絵の色を乗せて、焼成すると右のように鮮やかな色が現れる。
呉須での下絵(染め付け)。この細かい模様をさらさらと描き上げる晃禎さん。
銀三さんは上絵の黒い線描き。極細の筆を使ってミリ単位の線を書く。
美津子さんは上絵の色をのせる。のせる量で色合いやふくらみ、表情も変わる。

そんな芸術品である九谷焼の窯元・商社として金沢にお店を構えるのが『九谷焼 鏑木商舗』。8代目の鏑木基由さんは、骨董の目利きとして活躍、先代がヨーロッパへ輸出していた鏑木の印の付いた作品を買い戻したり、日本に散らばっている数々の九谷焼の骨董をコレクションし、展示しています。同時に、「窯元」として新しい器作りにも取り組んでいて、最近ではヨーロッパのグラスと九谷焼のステムを組み合わせた新しいワイングラスを作っています。

「夢は日本の伝統工芸である『九谷焼』を世界中の人に知ってもらうこと。ヨーロッパやアメリカで、九谷焼の器で食事を楽しんでもらえるようになれるといいですよね」と語る鏑木さん。九谷焼が再び世界に羽ばたく日は遠くないのではないでしょうか。

ヨーロッパから逆輸入した金襴手の九谷焼。鏑木の印があるものも。
目利きになるためにはとにかくたくさんの骨董を見ること、という8代目鏑木基由さん。
日本の古い九谷焼。五彩があざやか。
ワイングラスと九谷焼のステムが組合わさった。
ワイングラスの底には、窯元・鏑木、画工・龍山、グラス・シュピーゲラウの3つのサインが。
武家屋敷が残る金沢の長町にお店を構える『九谷焼 鏑木商舗』。

九谷焼 鏑木商舗

写真/斎藤亜由美 ©felissimo

 

 

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