from パリ(田中) – 34 - ビュシー通りのカフェと、ランボーの家。

(2009.12.21)

先日、ベルビルBelleville(パリ北東19区、20区、11区の境目あたり)のギャラリーを友人のホソキさんの案内で巡ったあと、中華街でベトナム・フォーを食べて、(私、パリのアジア料理大好き)サン・マルタン運河沿いのカフェへ入った。6時半、ディナーにはまだ早い時間帯。外は雨で寒かったので店内奥のカウンター丸椅子に掛ける。私はカフェ、ホソキさんはビールを注文。一休みして勘定したら、私のカフェ、1ユーロ。安い! そういえば、カフェはテラス席とカウンターで値段が違うって、イナバさんに聞いていたのを思い出した。それにしても1ユーロ、これからはカウンター派?(パリは場所にもよるが2ユーロちょい?くらい)

私が住んでいるサン・ミッシェル界隈もカフェが軒を連ねる。散歩の途中の一休みに寄ることが多いので、家が近いと利用する機会が少なくちょっと残念。カフェを使いこなすほど、まだパリに馴染んでないってことかな。私がよく行くパン屋の2軒隣りに、その名もCafé de Parisという(なんとか銀座みたいな名前)海鮮料理がウリのカフェがあって、テラス席はいつも観光客で賑わっている。今は牡蠣がシーズンだが、人通りの多いテラスで食べるのはどうも落ち着かないな。「地球の歩き方」を見ると、このカフェは載ってないが、どうやらこのあたりにランボー(あの、詩人のアルチュール)が住んでいたらしい記述がある。パリ6区、ビュシー通り10番地(10 rue de Buci)に。

ビュシー通りの真ん中、セーヌ通りとの交差点。直角に交差してないので迷いやすい。いつもここで観光客が地図を広げている。私は今では、目をつぶっても歩ける、かな。
いちばん人通りが多くなるのは、午後3時過ぎあたりから。ビュシー通りと、それに続くサンタンドレ・デザール通りには、12月からイルミネーションが輝く。このあたり(右側)が8番、そして10番地。パリの通りの番地は、片側が偶数、反対側が奇数。なので8番の隣は10番。
10番地のカフェのオヤジは、いつもシャツにネクタイの洒落者。向かいにも海鮮レストランがある。
ビュシー通りで朝いちばん早いのは、もちろんパン屋。12月は、朝明るくなるのが8時過ぎ。寒くなったし、買いに行くのが辛くなった。新聞売りにも会うことがある。彼の足元は、隣の椅子の張り替え屋のサンプル。

名所旧跡だらけのパリ、詩人が住んだ家ならば解説付きのプレートが立っているはずだが……、それらしい表示は見あたらない。放浪していた、あるいは短期間で住んだとは認定されない、またはヴェルレーヌの家に入り浸っていたから、とか。上の階の古びた窓の風情がいかにもって雰囲気ではあるのだが。カフェがある10番地の建物の門が開いていたので入ってみる。想像していたより広い中庭は、表通りのカフェの喧噪がウソのような静けさ。突き当たりにお洒落な美容院が見えるが、ランボーの消息は不明。ガセネタだとは思えないのだが、なんだかホシのウラが取れなくてすっきりしないデカの気分。そういえばディカプリオ(若かりし)主演のランボーの映画があったなあ、『太陽と月に背いて』。それはともかくこのビュシー通り、表は観光地でありながら、裏にはたぶん昔と変わらないであろう、ちょっと猥雑な生活の匂いが漂っていて、私はすごく気に入っている。メトロ4番線のサン・ジェルマン・デ・プレからサン・ミッシェルへの近道だ。オデオンや、10番線のマビヨンからも近い。短い通りの両側に、いったい何軒のカフェがあるのだろうか?

ビュシー通り10番地(10 rue de BUCI)カフェの横の門をくぐると、そこは別世界。不思議の国のアリスのタイムトンネルみたいだ。
COIFFEURは床屋。女性名詞の COIFFEUSEは美容院。ここでは両方営業中。店名は英語のFIRSTを引っかけた駄洒落かな。床屋からふらりと、ランボーが出て来たりは、しないか、やっぱり。

12月になっても、コート姿のままテラス席に座る客も多い。室内ではタバコが吸えないという事情もあるが、パリの人(むしろ観光客?)は外で飲み食いするのが本当に好きだ。この通り、夏は道路をまっすぐ歩けないほどの混雑ぶりだった。狭くても歩道さえあれば、椅子を出すって感じだ。細い歩道のベンチに客が無理矢理座っていたカフェ・ジェルマンも、さすがにこの季節は室内の方が多い。この通りでいちばん間口が広いと思われる花屋も、よく見るとカフェ並みに歩道まで花があふれている。歩道の使用に関する法律とかどうなっているんだろうと、警察みたいな固いこと言っちゃいけません、パリでは。いつも美しい花と香りを存分に楽しんでいる私です。

Bar du Marchéという名の、角の店。バーとカフェの違いは何だろう? 柱のモザイクが目印。雨の日は客の入りが悪いが、きょうも元気なマリオみたいな兄さん、ボンジュール! この店の前はパン屋(PAUL)、はす向かいは八百屋、その前はチーズ屋、肉屋。このあたりマルシェ(市場)の雰囲気。サン・ジェルマンのマルシェもすぐ近くだ。
先々週あたりまでチューリップがいっぱいだったのに、今はアネモネ、ヒヤシンス(フランス語ではJacintheジャサーント)、もちろんバラは、いつもうっとりするほど。
どのツリーを選ぶか、花屋の前で品定め中の家族連れ。私はここで花を眺めて、向かいのパン屋でバゲットを買うのが朝の定番コース。花の香りと焼きたてのパンの匂いで、目が覚める。贅沢。
リードがなくても“待て”ができるよ、ボク。雨の日は足が濡れていやだなあ。お座りすると、お尻も濡れちゃうし、シロがグレーになっちゃうし。

ビュシー通りにはカフェだけでなく、ドイツのアート系出版社TASCHENの直営店もこの時期はカレンダーを並べた棚を店先に陳列してるし、隣のアイスクリーム屋のベンチは夏のままだし、ブティックもあれば荒物屋もある。眼鏡屋、ケイタイ屋、ホテル、オリーブオイル専門店、スーパーマーケット、総菜屋、サンドイッチ屋、土産店は絵はがきのスタンドを並べてる、パテ屋、チョコレート屋、椅子の張り替え屋、八百屋、シャンパン屋、たまに車道をクルマが通るけど、毎日が歩行者天国ですね、ここは。

折角だったら、ベンチに座って舐めたほうがいいと思うのですが、おとーさん、余計なお世話か。右が美術書専門書店TASCHEN 現在壁面の改装中。
お兄さん、手袋無しでも慣れた手さばき。
パリでは有名な建築プロデューサー?(コスト兄弟)が手がけたというカフェ、ジェルマン。(GERMAIN)ここだけ六本木? 狭い歩道にもベンチ席が! マダム、迫力だなあ。