from ヘルシンキ - 12 - ある家族の物語。

(2010.08.16)

「フィンランド女性に学ぶ 幸せ力」
File.11 Minna(49歳)&Sanna(42歳)

お久しぶりです、ヘルシンキからのリポートです。
フィンランドは6月下旬から夏休みモード。
日本の感覚からすると驚きですが、
7月いっぱい約1カ月間の休暇をとる人が多く、
このリポート活動も便乗して(?)
休止状態でした。失礼いたしました。
フィンランドの人々の代表的な夏休みの過ごし方は、
都市部から離れて、
森や湖のそばのサマーコテージ(別荘)で
のんびりすること。
リポート再開第1弾の今回は、
森のサマーコテージで夏休みを楽しむ
ある家族を取材しました。
女性同士のパートナーMinnaさんとSannaさん、
そして2人のお子さんOnniくんです。

 
Partnership:ケンカはします。でも、基本的な価値観は同じ。

*Minna
私とSannaは約20年間パートナーとして一緒に暮らしてきました。
ほかのカップルと同じようにケンカをしますが、基本的な価値観は一緒です。
フィンランドでは2002年にやっと同性カップルにも、「結婚」と同等の法的保障を
認める法律「登録パートナーシップ法」ができ、結婚(登録)できました。
同性カップルという理由で、暮らしにくいと感じたことはありません。
フィンランドが個人の自由や平等を大事にする国だから、ということもありますが、
私たちが周囲に対して、いつも堂々とオープンに、自然体でハッピーに
ふるまっているからだと思います。
たとえ問題視する人がいたとしても、それは彼らの問題であって、
私たちにとっての問題ではありません。

*Sanna
昔は2人で船に乗って、フィンランド中の島々に冒険に行きました。
船の中では「船長」が、操縦、トラブルが起きたときの判断など一切を決めます。
私たちは平等にしようということで、交代で「船長」をつとめました。
Minnaは何事もすぐに決断できるタイプなのに対して、私は「船長」担当の日でも、
Minnaに相談していました。
あるときOnniが「我が家のリーダーはMinnaだね」と言いましたが、
確かにそうかもしれません(笑)。

コテージの裏の丘の上で。左 Minnaさんと愛猫Sohvi 右 Sannaさんと愛猫Risto

 
Work:1年間の休暇で家族と人生と向き合う(Minna)/近い将来常勤の仕事に(Sanna)

*Minna
学生時代は、芸術史と陶芸を学びました。そして、陶芸の道に進んだのですが、
あるとき、手だけでなくもっと頭を使いたいと思うようになり、
ストックホルムとヘルシンキの大学で再度勉強。現代アートの美術館で働き始めました。
現在は、美術館で教育活動を展開する部署の部長を務めています。
12年間仕事に没頭してきましたが、この夏から1年間の休暇を取得しました。
ジョブシェアリングの制度を利用した休暇で、私が不在の1年間は失業者が雇用され、
私はその間手当を受給します。
50歳を目前に、1年間家族との時間を大切にのんびり過ごして、
これからの人生について考えたいです。

*Sanna
大学でメディアコミュニケーション学という分野の講師をしています。
仕事は非常勤で時間的に余裕があるので、私が家事を担当することが多いです。
Onniが生まれるまでは、臨機応変にお互い協力していましたが、
今はOnniの保育園などのスケジュールを基準に、役割分担を決めて動くことが増えました。
Onniがもう少し大きくなったら、非常勤ではなく常勤の仕事に就きたいと考えています。

庭にある工具小屋はOnniくんの作品が並ぶギャラリーにもなっています。

Turning Point: Onniの誕生は、夢が叶った瞬間でした。

子どもを持つことは長年の夢でした。クリニックの協力によりドナーを得て、
5年半前にSannaがOnniを出産しました。夢が叶った瞬間でした。
彼には彼の誕生の歴史をすべて話しています。彼の友人やその家族も理解しています。
しかし、あるとき保育園の友人が、何気なく「きみにも父親が必要だ」と言いました。
それに対してOnniは「私の家族には空いている場所はない。Minnaの場所を
他の誰かにとられたら嫌だ」と言って泣きました。
彼は途中で父親を失ったわけではなく、私たちは最初からこの家族なのです。
Onniが生まれてからは、私たちはいつもOnniのことを最初に考えるようになりました。

庭にはOnniくん専用の小さな小屋が……!

小屋の入口にはOnniくんが育てているイチゴ。

友達がよく遊びに来て、ここはまるで子どもたちの「秘密基地」!

 
Happines:Onniはフィンランド語で、幸せやラッキーという意味。

Onniはフィンランド語で幸せやラッキーという意味。
まさに、私たちの幸せは、Onniとともにあります。
人生全体について言えば、幸せであるためにはバランスが大事です。
仕事とプライベートのバランス。特に、家族や友人と過ごす時間、健康は大切。
そして、自分の中のバランス。アイデンティティを保つことも大事だと思います。

近所の人たちもよく庭に来て一緒にお茶を……。

Dream For Next 10 years:大それたことではなく、家族と過ごす幸せを守ること。

*Minna
大それたことではなく、この良き人生を維持すること。Onniが幸せに育つことが夢です。
私はいつも、リアルなゴールを考えます。不完全燃焼に終わらないためには、
遠すぎる目標ではなくて、近くにあることに目を向けるのが大事だと思っています。
目の前にある幸せに気づき、感謝できる人でありたいです。
あとは、この10年働きづめだったので、次の10年はもっと休息と人生を大事にしたい!

*Sanna
今ここで家族と一緒にこうして過ごせることが幸せそのものです。
この山小屋で過ごす時間は本当に穏やか。
普段暮らしている都心部と違って、水道もなく原始的な生活ですが、
ここには静けさがあります。
都心部育ちのOnniも、「この静けさがとても好きだ」と言っています。
この幸せを大切にしたいです。
あとは、常勤の仕事を見つけたいです!

家族で過ごす時間が一番幸せ

Message:受け入れる我慢強さ、変える勇気。

*Minna
スウェーデンの作家アストリッド・リンドグレーンが生んだ童話『長くつ下のピッピ』が
私の原点です。
ピッピが教えてくれた「強い人間は、人に優しくなれる」を、いつも信じています。
そして、もうひとつ、自分へのメッセージでもありますが、
「仕事ばかりでなく、もっと人生を生きること」も大事にしていきたいですね。

*Sanna
いつも思い出すのは、ある学者の言葉から学んだ考え方です。
「変えられないことを受け入れる我慢強さ、受け入れられないことを変える勇気、
そして、その2つを判別する知恵を持つこと」

 

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■取材後記

3人が夏休みや休暇を過ごすコテージはとっても素朴。
築何十年もの小屋を丁寧に手入れして使っています。
水道はなく、トイレは木くずを利用したバイオトイレ。シャワーは雨水を活用。
裏山になるベリーの実や、庭になるりんごを食べながら、
家族や友人とのんびり過ごす時間が、ここでの暮らしの何よりの贅沢です。
自然を愛し、家族の絆、友人や新しい出会いを大切にする3人の暮らしに触れて、
エネルギーを充電させてもらいました。

周囲の自然

3人が休暇を過ごすサマーコテージ。

トトロが出てきそうな小道

 

※この内容は、2010年8月取材当時の情報です。