from パリ(石黒) – 19 - 旅手帖(2)コニャックへ。

(2010.09.10)
貯蔵庫にびっしりと並べられた樽の中には、何が眠っているのか、わかりますか?ヒントは、壁や天井の色…。答えは記事内に。

フランスが誇る食文化の一つとして、日本にすっかり定着した感のあるワイン、シャンパーニュ。しかし、フランスのアルコール飲料は他にも、ノルマンディー地方の林檎酒シードル、カルヴァドス、ガスコーニュ地方のアルマニャック、南仏で夏に良く飲まれるパスティス…多種多様とあります。そんな中、1970、80年代のバブルな日本に、大量に輸入されていたフランスのアルコール飲料を皆さんは覚えて(知って)いますか?

その飲み物とは、今回旅したフランス南西部シャラント県のコニャック地方(Cognac)で造られるブランデー、その名もずばり、コニャック。

ちなみに、なぜかこの地方の町、村の名前は、-ac(-アック)で終わる事が多いよう。ミッテラン大統領出身の街Jarnac(ジャルナック)を始め、Souillac(スイヤック), Beurac(ブーラック), Mérignac(メリニャック), Réparsac(レパルサック), Nercillac(ネルシヤック)…。どの地名を見渡しても、アック、アック言っていて、私的には、かなり笑いのツボ。

Le Peyrat(ル・ペラ)で、1705年から代々ブドウ畑を守りつつ、コニャックを造り続けているのが、ロー(Rault)家。現在の家長であるジャン=フランソワは、先祖から受け継いだ伝統を踏襲しつつ、80年代からBio栽培に興味を持ち始め、コニャックでいち早くABマークのビオ認定を受けた生産者。

畑を案内してくれるジャン=フランソワ。3月のブドウ畑は、枯れたブドウの樹に見えるものも、これから新芽を伸ばすために樹が内部にじっくりと、英気を充実させている。畑に自然と生えていたこの草は、雑草ではなく、マーシュと呼ばれてフランスではお馴染みのサラダ菜。ジャン=フランソワいわく、ビオの畑に生えているマーシュなだけに美味しく、畑から取っていく人もいるくらいなのだとか。

アラジンの魔法の壺のような曲線が美しいこの銅製の装置は、アランビック(alambic)と呼ばれる伝統的なコニャックの蒸留器。2度蒸留することによって、より精製されたアルコール飲料となる。蒸留は収穫の翌年3月31日までと決められています。

樽に詰めていたコニャックも、年間で生産量の約2%あまりが自然蒸発してしまうのだとか。夜な夜な隠れて、呑兵衛な天使たちが飲みに来るせいなのだそうで、la part des anges(天使の分け前)と呼ばれています。お茶目。

コニャックでは、壁や屋根が煤のように黒ずんでいる家というのは、お金持ちの証拠。コニャック貯蔵庫では、蒸発するアルコール分を養分とする、特殊な菌(Torula compniacensis)が生息しており、壁一面に黒く定着するのだそう。だから、壁が黒くなっている家=沢山のコニャックが貯蔵されている=財産がある、という図式。

コニャックの樽が貯蔵されているこの倉庫の壁は、やはり、煤がかかったように黒い。写真中央に見えるように、樽には、何年ものといった表記はしないのだとか。というのも、盗難に備えて、どの樽に古い年代のコニャックが入っているかがわからないようにするため。写真右は、ジャン=フランソワが、壁に菌の名前を書いてくれているところ。

ロー家に伝わる何十年、おそらく19世紀もののコニャックを見せてくれるジャン=フランソワ。写真中央は、倉庫を整理していたら出てきたという1929年の帳簿。奥ゆかしい筆ペンの文字が、なんとも歴史を感じさせる。写真右は、蒸留所入口に飾ってある写真。ブドウ畑を耕す彼のお爺さんの写真が使われたポストカードを引き伸ばしたものなのだとか。

今回は友人の紹介で個人生産家を訪ねましたが、コニャック市内の著名なコニャックメーカーでも、醸造期間中限定ですが、見学ツアーを開催しています。コニャックは高級アルコール飲料なだけに、とってもラグジュアリーな感じ。あるいは、コニャックの歴史や製造方法、そしてコニャックをテーマにした展覧会を開催する美術館もあり、見ごたえ十分。

コニャックはちょっと強すぎる…という方には、ポルトにも似た感じの、ピノ・デ・シャラント(pineau des Charentes)がお勧め。甘めとはいえ、冷やすと、すっきりと飲める。食前酒として心地よい味わい。ピノ・ブラン(白)とピノ・ルージュ(赤)がある。メロンやフォアグラなどと共に楽しむのも良し。

コニャック地方をゆったりと横切るシャラント川は、大西洋にまで続く。河沿いには、中世から残る古城も多い。また、毎年1月に行われるBD(Bande dessinée、ヨーロッパの漫画)の国際フェアが行われるアングレームも、この河沿いの街。シャラント川では、カヤック競技や、ボートでの川遊びなども行われ、大切な観光資源の一つ。開放的な海も大好きですが、川は街に落ち着いた表情をもたらす気がします。もちろん治水の英知によって、私達は今こうして穏やかな生活を川と共に送れるわけですが、コニャック地方の田園風景、そして市内と、水のある風景に、心が和む街でした。
 

写真左が、コニャックの歴史にはじまり、製造方法、機械、そして輸出産業としてのコニャックなどを丁寧に解説しているコニャック美術館。厳しい規格のあるワインボトルと違って、コニャックはボトルデザインも、重要なブランディングの鍵。パッケージコンセプト、製造なども、地元でまかなわれているのだとか。写真右が、有名コニャックメーカーの一つ、レミー・マルタン。この時期は見学ツアーは開催れていませんでしたが、エントランスやレセプションを見た感じから、やはり高級感が漂います。

 
 

3月の川辺は、肌寒いながらも、少しずつ春の訪れが感じられる。散歩をしていて、よく見かけたのが、白鳥。羽にはじかれた水滴まで目に見える距離まで近づいて白鳥を見たのは初めて。ある夕暮れ時の散歩時には、白鳥の番が川べりを歩く私たちに30分近くついて来て、あまりの非日常の景色に、まるで夢の中かと思うほど幻想的。

河沿いの『レストラン、ラ・クルティーヌ(La Courtine)』では、シャラント地方特産のエスカルゴを。ガーリックとパセリが濃厚なバターで熱々を食べる。ピノをジンジャーエールで割り、ライムを散らしたオリジナルカクテルも良し。

 
 

河沿いの『ラ・リボディエール(La Ribaudièr)』は、ミシュランで星を獲得しているレストラン。ラウンジ系のような内装で、独創的かつ地方の特産物をふんだんに使用したメニューを展開。

 

オーガニック・コニャックを生産しているディスティルリ・ル・ペラ(Distrillerie Le Peyrat)

ディスティルリ・ル・ペラのコニャックをお求めの場合は、オーガニックワイン、ビオディナミワインを専門に扱う以下のサイトからどうぞ(販売はフランス国内のみ)。
ARDONEO

【information】

コニャック観光局
コニャック市
コニャック美術館