from パリ(たなか) – 65 - アンファン・ルージュでクスクスを。

(2010.08.02)
アンファン・ルージュ市場にあるアンティル料理を出す店の屋台は、客もリゾート気分。

パリではいつもどこかでマルシェと呼ばれる市場が立っていて、買い物客や観光客で賑わっています。広場や大通りの歩道などに仮設テントを張り、毎週2、3回定期的に開く朝市(夕方になると撤去される)もあれば、屋根のついた常設の市場が(なぜかセーヌ右岸に多い)今でも現役で残っていて、野菜や肉、魚、乳製品などの生鮮食品を買うことができるのですごく便利です。とは言え常設の市場でも夕方になると店じまいするところが多いので、夜でも買い物出来る所といえば、やっぱりスュペルマルシェ(スーパーマーケット)になりますが。

3区、マレ地区の北側にあるマルシェ・デ・ザンファン・ルージュ(アンファン・ルージュ市場)は、パリで最初に出来た(なんと17世紀)屋根付きの市場だそうです。年月を経て老朽化したので近年に大規模な改造工事が行われ、10年ほど前に再オープンしたらしい。野菜やチーズなどの食品も当然揃っているけれど(ここでもBIOの野菜が目立つのは最近の流行か?)、それほど広くはないこの市場の特徴は、私にとっては、なんと言っても市場の中に食堂があることです。知っているだけで4軒、よく探せばもっとありそう。で、私のお気に入りは、クスクスの店です。

北アフリカ系料理のクスクスは、モロッコ料理専門の店に行かないまでも、パリのレストランのメニューでよく見かけます。パリでは普通の人気料理なのだと思われる。蒸した粒状のパスタ、スムールに、肉と野菜を煮込んだスープをかけて食べる、いたってシンプルな料理だ。スープはトマト味で汁っぽいもの、こってり系、野菜くたくた煮込み系など様々だし、スムールの粒もさらさら系、プチプチ系、粘着系、粒の大きさも微妙に違っていて、語り出すと奥が深そうな料理だが蘊蓄はそこそこにして、日本の丼ものみたいな単純明快さが私は好きだ。ごはん(小麦)とおかず(肉、野菜)がセットになって、栄養バランスも良さそうだし、ことさらに微妙な味を期待するわけでもないので大きなハズレもないし、とにかく高くないし。レストランで、立派な皿とスープカップに分けられた状態で食べるのも悪くはないが、カレーライスのような一皿盛りの方が料理の雰囲気に合っているような気がする。買い物客が脇を通るような市場の屋台で食べるクスクスは、食事をするロケーションとして気分は最高、そしてこの店の味も私の中では最高点です。
 

やっぱり子羊がいちばんだが、鶏肉やソーセージのクスクスもたまには試してみたら?
白と青のタイル張りのテーブルで、きょうは鶏肉のクスクスにしてみようか。
タイルがきれいなクスクス屋さん。もちろんテイクアウトもできる。
煮込んだ野菜と、ドーンと鶏肉が載ったクスクス。アリサ(harissa)という柚子胡椒みたいな辛味調味料は、刺し身のワサビのように欠かせない。
ENFANTS ROUGESアンファン・ルージュは、赤い(服の)子どもの意味。
むかしこの付近に、救済院付属の孤児院があったのが名前の由来らしい。シャルロ通りに面したこの入口は閉まっていることが多い。

この市場のクスクスの店とは反対側に、シェ・タエコという日本料理の店があって、パリに住んでいる日本人の間ではちょっと有名です。煮物やおひたし、刺し身、揚げ物などの、普通の日本の家庭料理が食べられる、と聞いたのでトライしたことがあるのだが、閉店時間(たしか午後4時ごろだったかな)にあたって残念な思いをした経験がある。おかずの持ち帰りも出来るし、店の横の屋台でフランス人が器用に箸を使って食べているトンカツ定食のようなものを見ていると、築地の場外にでもいるんじゃないかと錯覚し、いやが上にも食べたいモードになってしまう。次回はお昼の早い時間に行って、ぜひトンカツ定食に挑戦しないと。いや、海鮮丼も良さそうだし、何度か通わないといけないかな、やっぱり。そんなこんなで、パリの食堂横町のようなアンファン・ルージュは、私が時々、強烈に行きたくなる市場です。
 

シェ・タエコの店頭には日本人が多い。パリにはsushi やyakitoriの店が嫌というほどあるが(何だかいかがわしくて、私は一度も食べたことがない)、普通の日本家庭料理を出す店がもっと増えてもいいと思うのだが。自然志向で健康的だし、フランス人にも受け入れられるんじゃないだろうか。
シェ・タエコの屋台。文化の交流は食事から、ですね。