from 山形 - 3 - カルトーラ、そして「駆る虎」。

(2010.12.17)

私は山形ブラジル音楽普及協会(通称山ブラ)という会を運営していますが、ブラジル音楽を紹介するにあたって、とても歯がゆく思うことがあります。それは、ブラジル音楽はボサノヴァしか聴かないという人(ほとんどの人は聴いたことも無い)が実に多いことです。小野リサさんは聴くけど、ジョアン・ジルベルトは聴くけれど、そこから先には進まないという方々が多いのです。

ボサノヴァも、もちろんリサさんもジョアンも私は大好きで、今もよく聴きます。でも、そこから先に進まないと、ブラジル音楽と言う恐ろしく巨大な密林の、ほんの入口に居るのと同じこと。そういう人達に例えばサンバを紹介しようとすると、「ああ、あのカーニバルの? 羽根をつけて踊るやつね?」という、これも予想通りの反応が返って来ます。こんな時、私がそういう方に紹介するのが今回のテーマ、「カルトーラ」。カルトーラ(故人: 1908-1980)は、サンバ界を代表する作曲家。苦渋に満ちた生涯の中で、多くの美しい曲を残しました。ボサノヴァとはまた違う次元でブラジルらしい粋を感じさせるアーティスト。そんなカルトーラからサンバの世界の扉を開いたという方は、数多く居るはずです。

カルトーラの名盤『Verde Que Te Quero Qosa』。

そして今年はカルトーラの没後30周年ということで、事後報告では在りますが、「All About Cartola」というイベントを11月20日に開催いたしました。ブラジル音楽界の大御所中原仁さんをお招きして、毎年山ブラが主催している”Noite do Brasil”の10回目として、カルトーラについての講演をして頂きました。カルトーラの世界を、代表的名曲10曲の詩の内容をも含め、詳細にお話しいただき、改めてカルトーラの音楽に向き合う素晴らしい講座となりました。
 

「Noite do Brasil 10」のフライヤーです。
中原仁さんの講座風景。絵にもご注目下さい。

さてこの右の写真に写っている絵ですが、気付かれましたか? そう、この絵にはカルトーラのジャケットが描き込まれています。ちなみにこの場所、私のクリニックの待合室です(笑)。この絵はクリニックの開院時に、山ブラ名誉顧問の神保亮画伯に無理矢理お願いして書いて頂いたものです。さらに皆さんお気付きだと思いますが、今回のイベントのフライヤーに映っているお酒のラベルにもこの絵が使われています。

実はこのお酒、前回の記事で紹介した正酒屋『六根浄』の熊谷さんが、カルトーラの没後30周年でかつ寅年の今年に、耽溺するカルトーラの名前を冠したお酒を作ってしまったのです。その名も熟成純米酒「駆る虎」。カルトーラの音楽をイメージして作ったお酒なのです。暴走族的な漢字の当て字を平仮名の「る」が救っていますね(笑)。

残念ながらこのお酒、限定120本で、ブラジル音楽ファンの圧倒的支持を受け、既に売り切れています。せめて素敵なラベルだけでもじっくりご覧下さい(笑)。デザインはもちろん神保亮さん。クリニックの絵を基に製作して頂きました。もちろん「All About Cartola」の打ち上げでは虎の子となった取り置きの「駆る虎」を頂きました。というわけでイベントとお酒の見事なタイアップと相成ったのでありました。ちなみにこの「駆る虎」、ヘナート・モタ&パトリシア・ロバートや、ホベルタ・サーのバッキングで来日したホドリゴ・カンペーロなどの手にも渡っています。
 

神保亮画伯による、熟成純米酒「駆る虎」のラベル。
「駆る虎」の完成を喜ぶ神保亮画伯(右)と、熊谷太郎さん(左)
「Noite do Brasil 10 – All About Cartola」の打ち上げ風景。カルトーラを語った人(中原仁さん:左)と、「駆る虎」を作った人(熊谷太郎さん:右)。
Cartolaがfavorite artistの一人というRodrigo Campello。「駆る虎」は果たして彼の口にあっただろうか。