from ミュンヘン – 3 - 世界最古のビール醸造所、長寿には訳がある

(2010.07.21)

 
ドイツからグーテンターグ! 

先ごろ終了した2010年ワールドカップは日本チームの大健闘でしたね。日本も盛り上がっていたと思いますが、サッカー大国であるドイツは南アと時差がなかった関係もあって、連日連夜パブリックビューイングが開催され大盛り上がりでした。試合のたびに増えていくビールの量、その結果できてしまったビール腹のツケを払うべく、お酒は控えめにしているこのごろです。

ドイツでアルコールといえばビールですが、ぼくが住んでいるミュンヘンを中心とするバイエルン州一帯は特にビール作りが盛んで種類も豊富なことで有名です。そして数ある醸造所のなかでもミュンヘンっ子のご贔屓ブランドの一つが世界最古を誇るビール醸造所「Weihenstephan(ヴァイエンシュテファン)」です。その工場はミュンヘン郊外のフライジングにあるのは以前から知っていたのですが、工場見学ができるということを最近新たに知り、先頃行ってきたので今回はその様子をレポートしようと思います。

ブランド名の「ヴァイエンシュテファン」、最初は読みにくいですが慣れると簡単に発音できます。
フライジングという街の高台にあり眺めがよい。
上がヴァイエンシュテファンのブランドロゴで下がバイエルン州の紋章。オリジナルは同じところから来ているのだと容易に想像がつきます。

「Weihenstephan(ヴァイエンシュテファン)」は、725年にベネディクト派の修道院がビールをつくりはじめ、1040年に正式に醸造所として認可されたことから始まりました。19世紀にはバイエルン王家直属の醸造所として、そして現在はビールのラベルからもわかるように「Bayerische Staatsbrauerei(バイエリッシェ シュターツブラウアライ/バイエルン州立醸造所)」として運営されています。ちなみに、次に古い醸造所も同じバイエルン州にあるテーガンゼービールで1050年創業です。日本には長寿企業が多いと話題になることがありますが、実はドイツも長寿企業が多く、その多くがビール醸造所だというのは素直に頷いてしまいます。

工場見学は70分コースと120分コースがありましたが、今回は120分コースにしました。最初にこれまでの歴史を紹介するビデオを鑑賞した後、ガイドさんとともに①煮出し②発酵③ろ過④樽/瓶詰めの一連の工程を巡りました。施設はもちろん見学者用に作られているわけではないため、リアルな製造過程を間近に見ることができました。ガイドさんはその日の参加者によってドイツ語か英語のどちらかで説明するとのことでしたが、今回は残念ながら得意でないドイツ語でした。

煮出しの部屋。
参加者は15名ほど、皆真剣に聞いていました。
発酵の部屋。

最初の煮出しの部屋は6つの巨大な窯が稼動していてまさにボイラー室のようであり、熱気と麦茶のような麦特有のにおいに包まれながらの説明でした。ぼくが行った日は気温が30度以上ととても暑かったのですが、説明後に部屋から出た時は暑かった外でさえとても涼しく感じられました。ヴァイエンシュテファンのビールは、ドイツの有名なビール純粋令を忠実に受け継ぎ、大麦、ホップ、水だけを用い、さらに酵母入りのビールを新鮮な状態に保つスイミング・イーストという技法によって生産されています。使用される大量の水はフライジングの地下水を汲み上げ、舌触りを良くするために硬水から軟水への処理をしているということで、美味しいビールづくりはこういった技術的な裏づけがあるのだと感心しました。

続いて発酵の部屋では、麦汁の煮出しで生じたタンパク質やホップのかすなどを取り除いた後、ビール酵母を加えて10℃に冷やされます。1週間の酵素発酵により糖はアルコールと炭酸ガスに変化し「Jungbier(ユングビアー/若いビール)」が出来上がります。そのあと、ユングビアーは修道院の庭、地下15メートルのところにある貯蔵所に移され、約30日間熟成されます。

熟成が終わると、たんぱく質と酵母を取り除くためのろ過作業を行い(ヴァイスビアはこの工程を省略します)、樽やビン詰にされて出荷されます。ドイツはビール瓶のリサイクルが進んでいるので大型の瓶洗浄機もありました。過去にミュンヘンの他の大手醸造所の見学にもいったことがありましたが、ロジスティックの自動化はまだまだ人を介した作業が多いものの、製造の自動化に関しては大手にも負けないほどの施設なのだと感じました。出荷される国はやはり欧州諸国が中心のようですが、日本や中国にも輸出されているそうです。

日本でもおなじみのビン詰めの工程。部屋中にガラスの音が響きます。
ミュンヘン工科大学の研究所。ビールを図る容器が並んでいました。

今回のガイドさんは夏休みが始まったばかりのミュンヘン工科大学の醸造学部の学生さんで、もう3年も勉強していると話していました。彼の話によると、ヴァイエンシュテファンは1930年からミュンヘン工科大学と技術提携関係にあり、醸造学部にはビールづくりを学ぶために世界中から学生さんが集まっていて、日本人の方もいるようです。ヴァイエンシュテファンがビールを提供し、その素材をもとに研究した大学の研究データが次の製造にフィードバックされるということで、世界最古の醸造所として伝統と格式がありながらも、最先端の技術を併せ持っていることに驚かされました。こういった継続的な“カイゼン”が長寿の秘訣なのかと一端を見た気がしました。

120分のコースでは見学終了後に施設内のホールで試飲ができます。ヴァイエンシュテファンでは、12種類のビールを製造していますが、酵母入りのビールであるヴァイスビア(白ビール)がもっとも有名で、ぼくも好んで飲んでいる種類です。ヴァイスビアは、日本で主流であるピルスナーと違い苦味がなく、甘くクリーミーな味わいが特徴で女性にも飲みやすいと思います。この日の試飲ではヴァイスビアのほか、修道士が1000年前のその昔作っていたものを再現したという『コルビニアンビール』を飲みましたが、濃い味でほのかに甘さも感じられ、とても美味しかったです。試飲に使用した小さなオリジナルグラスはお土産として持ち帰れるので記念にもなります。余談ですが、以前この醸造学部に通う知人が話していたのですが、教授のお手伝いをするアルバイトの報酬がビール瓶2ケースだというのを聞いたことがあります。その話を聞いたときは、さすがドイツだと妙に納得したのを思い出しました。

試飲ではコルビニアンビールほか何種類も試すことができました。
スーパーでも人気ブランドです。

ドイツでは水よりビールのほうが安く、スーパーでは500ml瓶が75セント(85円)ほどで売られています。ドイツ人が毎日ビールを飲んでいるは美味しいのに加えてこの魅力的な値段も大きな理由なのです。日本では、同ブランドをサーバーから飲めるところはまだまだ限られていますが、最近ではECサイトの普及でここのブランドのビール瓶を国内でも購入できるようです。年間の生産量は他のミュンヘンの大手醸造所の1/4ほどとスーパーで見つける機会も少ないブランドですが、ミュンヘンっ子に根強い人気のあるビールブランドなのでどこかで機会があれば是非飲んでいただきたいです。

 

『Bayerische Staatsbrauerei Weihenstephan(バイエリッシェ シュターツブラウアライ ヴァイエンシュテファン)』
住所:Alte Akademie 2, 85354 Freising
Tel:+49 (0) 8161-536-0
ホームページ: http://www.brauerei-weihenstephan.de/
工場見学:月曜10:00〜、火曜10:00〜、13:30〜、水曜10:00〜
*要予約、参加者15名以上の場合のみ催行。
*敷地内にビアグラスなどのオリジナルグッズを扱うショップやビアガーデンあり。