from パリ(石黒) – 8 - パリ、アート散歩。《5》パリで見る日本(1)

(2009.11.10)

昨年2008年は、日仏通商修交条約締結150周年記念にちなみ、日本に関する展覧会が目白押しでした。プチパレでの「相国寺—金閣寺・銀閣寺 京の禅と美」「黒澤明デッサン展」、ギメ美術館での「北斎展」「金毘羅宮—海の聖域展」、セルニュスキ美術館での「出光コレクション、浮世絵展」…。パリで見る日本。改めて日本文化の奥深さに感心することもあれば、日進月歩の技術革新に目を見張ることもあり。同じテーマでも日本とフランスでは見せ方が違うだろうなと考えさせられたり、フランスでの日本展だからこそ、新たに加えられている部分があったり。今回のパリ散歩は、そんな事をちょこっと頭の片隅に留めつつ、「日本への視線」にまつわる展覧会を二つ紹介します。

11月3日、日本は文化の日。この日の夕刻、パリのフランス国立ギメ東洋美術館で、「源氏物語の糸を辿って-山口伊太郎巨匠へのオマージュ展」 (Au fil du Dit du Genji-Hommage à Maître Yamaguchi)のオープニングセレモニーが行なわれました。

今年で120周年を迎えるフランス国立ギメ東洋美術館(Musée national des arts asiatique Guimet)は、パリは16区のイエナ広場に本館を構えるヨーロッパでも随一の東洋美術専門の美術館。リヨンの実業家エミール・ギメのコレクションをもとに、所蔵品は中東から極東まで、アジア全域をカバーしています。
19世紀の雰囲気をそのまま残すギメ美術館の旧図書館で行なわれた、オープニングセレモニー。

京都・西陣織の巨匠、山口伊太郎氏(1901-2007)。70歳を超えた頃から、“手仕事による織物技術や創造性を後世に遺したい”という積年の願いを実現するべく、日本文学・美術の粋である『源氏物語』の絵巻を、ジャガード織の技法を取り入れた西陣織で再現しようと、1970年から取り組みはじめます。山口氏は、自身の全生涯の集大成とも言える『源氏物語錦織絵巻』を、ジャガード織の考案者、ジョゼフ=マリ・ジャカール(Joseph Marie Jacquard, 1752-1834)の祖国フランスに寄贈したいと願いました。1992年、すでに完成していた二巻が、フランス国立ギメ美術館ギメ美術館へ寄贈されることになり、1995年には、山口氏94歳にして初めて飛行機に乗り、二巻の巻物を携えフランスを訪れたそうです。続けて第三巻が、2002年に美術館へ届けられます。

最後の四巻の完成を前に、山口氏は惜しくも逝去されましたが、山口氏の残した綿密な指示に従って、2008年に完成。日仏修好150周年、また「源氏物語千年紀」にあたる2008年に、『源氏物語錦織絵巻』を締めくくる第四巻がギメ美術館へ寄贈されるという、不思議な歴史との深いえにしを感じさせる作品でした。

第四巻完成の後、日本では、京都・相国寺の承天閣美術館、東京・ホテルオークラの大倉集古館にて、展覧会が開かれています。フランスでは今回が全巻揃っての初公開。絵巻物の他に、屏風や掛軸に仕立てられた下絵や、山口氏制作の帯、押絵が施された婚礼打掛、山口氏が生前に愛用していた道具達も展示されています。

展示台に広げられた絵巻物を、熱心に見入る招待客達。織物で絵巻物というと、なんだかどっしりと重たいものを想像していたのですが、実物を見て、その薄さに驚き。そして、織物で、このグラデーションや透明感が出せるとは、正直、鳥肌ものでした。

ギメ美術館のすぐ隣に位置するパレ・ド・トーキョー(Palais de Tokyo)で10月後半から2週間の短い開催日程で行なわれている「直島、芸術と建築の群島展」(Naoshima L’archipel d’art et d’architecture)。ご存知、瀬戸内海に位置する直島を中心とするアートプロジェクト。この展覧会は、2009年にヴェネチィアで行なわれた直島プロジェクト紹介展とリンクするような形で、瀬戸内海プロジェクトの最新情報を世界に向けて発信する試みです。

パレ・ド・トーキョーは、年に20万人以上の訪問客を集めるパリ・ヨーロッパでも有数のコンテンポラリーアート美術館。絵画・彫刻・インスタレーション・デザイン・ファッション・ビデオアート・映画・文学・コンテンポラリー・ダンスなどの展示・上演が行われている。パリ・コレのショーに使用されることも。

1989年のプロジェクト開始から20年。1992年のベネッセハウスのオープニングを皮切りに、いまや、美術館施設内だけには収まりきらない、複合的かつ実験的な活動が繰り広げられている、瀬戸内海の島々。パレ・ド・トーキョーのNaoshima展では、安藤忠雄、三分一博志、妹島和世、西沢立衛氏らの作品・コンセプト、これまでに施工された建築物、あるいはこれから建設予定の模型展示とビデオ説明、ヴェネチィア・ビエンナーレ作品の直島バージョン「角屋」や「きんざ」のブース内での映像疑似体験などが、展開されています。2010年夏には、Art Setouchi 2010 Festival international d’art de Setouchiと題して、国際アートフェアが開催される予定。

実は直島にはまだ一度行ったことがなく、昨年夏に四国を訪れた際に、同時に訪ねてみたかった場所。コンセプトの紹介がメインなので、正直、華があるわけではなく、地味な展覧会なのですが、訪れていた人達がものすごく熱心に概要説明を読んでいたのが、非常に印象に残りました。私も、今回のNaoshima展で、ますます直島熱がヒートアップしてしまいました。

最近、コンテンポラリーアートに詳しいフランス人と話をすると、Tokyo、Kyotoに続いてNaoshimaの名前を知っていたりします。瀬戸内海は、地中海気候に似ていて、香川県の県の木、県の花は、小豆島で栽培されているオリーブだし、フランス・イタリアのラテンの感覚にすっと馴染むのかも !?

アーティスト大竹伸朗が手がけた直島銭湯「I♥湯」は、実際に入浴できる「アート作品」。銭湯という日本独特の文化を作品に昇華しつつ、島民に日常的に利用されるような銭湯を目指すという、かなり大胆な発想です。

パリで見た二つの日本展。新しい技術をふんだんに取り入れながらの伝統文化の継承と、歴史ある地域の中で自然との共存を尊重しながらの新しいクリエーションの模索。両極端なようでいて、根底に流れているものは、同じ。「ものづくり」への卓越した美意識と実現力。やっぱりすごいぞ、日本!と、嬉しくなった展覧会でした。

 

Exposition Naoshima L’archipel d’art et d’architecture

パレ・ド・トーキョー 2009年10月24日~2009年11月7日(こちらは終了しました)

 
Au fil du Dit du Genji-Hommage à Maître Yamaguchi

フランス国立ギメ東洋美術館 2009年11月4日~2010年1月10日