井端彩乃の異文化通信 – 1 - ワインを飲んで結婚しよう。 ~フランス~

(2010.12.22)

毎年この時期になるとメディア各方面でよく見ることば。

「ボジョレーヌーボー」

フランスのブルゴーニュ地方の南、ボジョレーという地域で生産されるワインで、その年のブドウの質などをチェックする目的を持った赤ワインです。

毎年11月第3木曜日の午前0時に販売が解禁されるため、11月に入ると色々な場所で「ボジョレーヌーボー解禁」ということばを目にするのです。また、時差の関係で日本は先進国の中で1番最初に解禁されるそうなので、新しいもの、限定品など、流行ものが好きな人が多い日本ではよく話題となります。

さて、今年は11月18日にボジョレーヌーボーが解禁されましたが、皆さんは今年のボジョレーヌーボーを試してみましたか?

ワインと言ったらフランスですが、今回はフランスにおけるワインの小さな言い伝えをご紹介します。

フランスにはFromager(チーズ) Vins(ワイン) Boulanger (パン) Patissier(お菓子) フランス代表ともいえる4つのお店がどこにでも。

私は2009年の8月から2010年の5月までアメリカのワシントンDCから近い、George Mason Universityというバージニア州にある大学に留学をしていました。
そして留学終了後の今年の5月初旬、私は特大サイズのスーツケース片手に、幼い頃からの憧れの地、フランスへと旅立ったのです。

その間、フランスのニースに2週間。ドイツ横断の旅1週間。そしてパリに2週間。ニースとパリではホームステイをし、午前中は語学学校に通ってフランス語を学ぶ生活をしていました。

この5週間の体験や、アメリカでの生活についてはこれから少しずつこの場でお伝えしていこうと思うので楽しみにしていてください。

話はワインに戻ります。

Wine Instituteというサイトが今年の4月に発表した、世界各国の一人当たりのワイン消費量の統計によると、2004年から2008年の間で2.5%減少してはいますが、フランス人は1年で1人当たり約54リットルもワインを消費しています。半世紀前の1人当たり100リットルと比べると半減ですが。

ちなみに1位の消費国は人口わずか932人のバチカン市国でした。バチカンはローマの中にある世界最小の独立国。バチカンでの消費量が多いのは近年のイタリアワイン生産量の増加と関係があるのでしょう。

生産量ではイタリアが2008年にフランスを抜いて首位に躍り出ましたが、さすがプライドの高いワイン大国フランス。2009年には生産量の首位を奪還しました。

フランス人はワインをそれはまぁのむのむ。

気取ったマダムやムッシューはオシャレなカフェやレストランで、若者は広場でピクニックをしながら。
みんなワインを飲んでいるのです。

パリのボージュ広場でピクニックをする人々。
エッフェル塔を眺めながら優雅な昼下がり。
至る所にカフェが。
ニースのオシャレなレストランカフェにはワイングラスが並びます。

近年若者のワイン離れが深刻になってきてはいますが、それでもやはりフランス人は他の国の人に比べたらワインを飲んでいるのです。

パリ在住の若者3人、いわゆるパリジャンの友達に質問をしてみた所、フランスの若者はビールやカクテルも飲むけれど、やはりワインが好きで友達とも頻繁にワインを飲むと言っていました。

ただ、質の良いワインでなく安いワインのようですが。ちなみに、赤ワインはお肉料理としか合わないため、若い人は白ワインの方が多いそうです。

私も母の影響でワインが好きなので、フランスでは美味しいワインを沢山飲みました。
もちろんフランスに着いた初日から、フランス人の知り合いに連れられて有名なBuddha Barというバーでワインを頂きました。

Buddha Barは日本食中心のとても素敵なバー。
仏陀(大仏?)が見つめるなかで食事をする少し変なレストラン。
地下はレストラン、上部がバーの雰囲気ある場所です。
旅先での出会いは一期一会です。

パリでのホストファミリーは、60代後半と思われるお金持ちのMarie-Claire(マリークレア)おばあちゃん1人だったのですが、彼女は毎晩、前菜、サラダ、メインディッシュ、デザート、パンとチーズといったフルコースディナーを手作りしてくれました。

もちろん飲み物はワイン。
毎晩ワイン。
ワインをいらないと言うと驚かれ、飲みなさいと勧められる。

そんな毎日が続いたある夜、マリークレアおばあちゃんが自分のグラスにワインを注いでいると、ボトルが空になりそうになったのです。
するとマリークレアおばあちゃんは慌てて自分のグラスではなく私のグラスに注ぎ始め、こんな事を教えてくれたのです。

それはフランスのワインにまつわる言い伝え。

「ワインを最後に注がれ、ボトルを開けた人は1年以内に結婚出来る」

「私はもう結婚しているからこれ以上する必要ないのよー」
肩をひょこひょこ動かし、可愛らしく笑うおばあちゃん。

それだけではありません。

グラスにワインを注ぎ終わったあと、ボトルを振って最後の一滴まで数えるのです。
その際、1滴目はA、2滴目はB、3滴目はCと言う様に、何滴落ちるかとアルファベットを使って数えます。そして、本当に最後の一滴のアルファベットから始まる名前の人と結婚すると言うのです。

ついさっきまでけらけら笑っていたおばあちゃん。一転して慎重にボトルを振ります。

2人でボトルからしたたる美しい深紅のしずくを、息をのんで声に出しながら数える。
はたから見たら奇妙な光景です。

1滴目、A

2滴目、B

3滴目、C

マリークレアおばあちゃんはまるで、おそろしい毒薬をかすかに微笑みながらグラスに振り入れる魔女の様。
私たちは顔を見合わせながらどんどん紅の粒をワイングラスに振り落としていきます。

その時の私の心境。
実は、「どのイニシャルで終わって誰と結婚するんだろう?」ではありませんでした。

 
「次のアルファベットの発音は何だっけ、、、?」

そう。フランス語はエービーシではなくアーベーセーという様に、アルファベットの発音が英語と違い少し複雑なのです。
ただでさえ「あんたがもう少しフランス語はなせたら良かったのに」と良くつぶやいているマリークレアおばあちゃんに、アルファベットさえ言えないのかなんて思われたくなかったのです。

 
ワインボトルから落ちた最後の一滴のアルファベットは、、、内緒です。
その日以来、そのアルファベットから始まる名前の人と接する度に変に構えてしまうという事も内緒です。

さぁ、私は1年以内に結婚できるのでしょうか?結婚をする予定は今の所ないのですが。

ちなみに、あれほど毎晩「ワイン飲めワイン飲め」言っていたおばあちゃん。
最後の夕食の時にぽろっと一言。

「あんたよくワイン飲むねー」

フランス人はとても気まぐれです。