Par-delà le Pont – 11 - プティ・ポン(Petit-Pont)ノートルダム大聖堂の景観を支える
セーヌ川で一番小さな橋

(2011.08.15)

こんにちは!

今年の夏は、「猛暑?」なのかと思えば「冷夏?」という時もあったりして、気温の上下が激しいですね。みなさんはお元気ですか?

涼しすぎる日が続くと、夏らしくなくて寂しい気もしますが、猛暑日が続いても身体が大変だし、電力の消費も心配です。ほどほどがいいのですが、そうもいかないのでしょうか……?

今年のパリは冷夏で、二十度前後をウロウロする日もあるようです。デパートでは、夏服を置かずに、コートを並べている売り場もあるとか。パリへいらっしゃる皆さんは、初冬くらいの服装を用意なさって楽しんで来てくださいね。

さて、セーヌ川に架かる、パリ市内30本の橋を追っていく連載。「マレ/シテ島地区」シリーズ・第11回目の今回は、プティ・ポンを渡ります。どうぞよろしく、お付き合いいただけたら嬉しいです。

ジュリアス・シーザーの目にした橋は、ここにあった

前回ご一緒したドゥブル橋から、セーヌ川沿いを北西へ1、2分ほど歩くと着くのが、プティ・ポンです。プティ・ポン──「小橋」は、セーヌ川で一番小さい橋なんです。前回ご紹介したドゥブル橋と幅は同じですが、長さが13メートル短いんですね。

そして、左岸とシテ島中央を走るシテ通りを結ぶこのプティ・ポンの架かる場所は、パリで一番古くから橋のあった場所でもあります。その当時、この場所ともう一つ、プティ・ポンからシテ通りを突っ切った先で島と右岸を結んでいるノートルダム橋のある場所にほぼ同時に橋が架けられ、パリにはこの二本しか橋がありませんでした。ちなみに「プティ・ポン」(小橋)は昔も今と同じ名前でしたが、ノートルダム橋は「グラン・ポン」(大橋)と呼ばれていたようです。この「プティ(小)」と「グラン(大)」の由来は、セーヌ川の幅です。シテ島の周囲は左岸側の方が、川幅が狭いんですね。

このプティ・ポンとグラン・ポンは、いつ頃からあったのでしょうか? 一番古い記録では、紀元前一世紀にローマのジュリアス・シーザーが書いたとされる「ガリア戦記」の中で、現在プティ・ポンがある場所に架かる五連アーチの木橋が登場するようです。ということは、少なくとも二千年前には、すでに橋があったということみたいです。

公式に記録されている、この場所に架けられた一番古い橋は、861年に建てられた五連アーチの橋です。しかしそれは1196年には崩れてしまい、その後架け替えられたものの18世紀はじめまでに、12回にわたって橋は洪水や火災で崩れ、架け直しても架け直してもなかなか落ち着かなったようです。それでも1718年までは橋の上に家も建っていたそうで、そんなに頻繁に崩れる橋の上にどうして人が住んでいたのかは気にならないでもないですが、色々と事情があったのでしょう。

今建っている橋が作られたのは1853年。船が通りやすいように、アーチは1つになりました。


ノートルダム大聖堂の神聖なたたずまいに付き合う

前々回のアルシュヴェシェ橋はノートルダム大聖堂の裏側にある橋、前回のドゥブル橋は聖堂の横側にある橋でした。さて今回のプティ・ポンは、ノートルダム大聖堂の真正面にある橋です。それだけに、この橋とノートルダム大聖堂を組み合わせた景観のことは、かなり昔から現地の皆さんも気にされていたみたいです。

中でもノートルダム大聖堂を着工したことで知られるパリ司教、モーリス・ド・シュリさんは、かなり美的センスにこだわりのある方だったようで、「聖堂にしっくりくるような、プティ・ポンのあるべき姿」をイメージなさって、ちょうど橋の建て替えの時に自分のイメージの通りに作るよう指示したらしいんですね。そうして出来た石造りの橋は、結構悪くない風だったそうで、当時のパリの人たちが「さすがは司教様! センスありすぎでございます!」と言ったかどうかはともかく、その後の度重なる橋の架け替えの際にも、景観は必ず考慮されたようです。

現存するプティ・ポンが1853年に建てられる時も、「大聖堂の慎み深くて節度ある姿に合うような橋を!」などと、色々なハードルの高そうな要望が飛び交ったみたいですね。しかし仕上がりには当時のこだわり派の皆さんも満足なさったそうで、満足どころか、(「パリのセーヌ河岸」として、周りの景観や文化遺産も含めてではありますが)1991年には世界遺産にも登録されました。

それはともかく、そんな風に常に美的風景を重視してプティ・ポンを設計して建て(替え)続けていたことと、かつて頻繁に崩れていたこととは関係がないんでしょうか? そこは何となく気になってしまいます。もっとも美観を無視して、頑丈さだけを重視して建てても、崩れる時には崩れるかもしれないので、何とも言えないところではあります……ね。

もし「たとえ少々犠牲を出しても、景観は守りたい!」と、息まいてしまうような人がいたとしても、それはノートダム大聖堂とプティ・ポンの並ぶ風景が素晴らしすぎたからなのでしょう。そしてそんな風にがんばっちゃう人たちを、ノートダム大聖堂の聖母マリア様は、「もっと力を抜いて、楽にやっていいのよ」と微笑みながら見ていたのかもしれません。

サン・ミシェル橋へ

シテ島から左岸に架かる、パリで一番小さな橋プティ・ポン、いかがでしたでしょうか。次回は、プティ・ポンの西に架かる、サン・ミシェル橋を渡ります。

 

Petit-Pont
プティ・ポン

竣工:1853年
長さ:32m
幅:20m
建築家:アンリ・プロスペ・ベルナール、ジュール・ラックス
形式:アーチ橋
素材:鋳鉄
最寄駅:Saint-Michel駅(メトロ4号線)、Saint-Michel – Notre-Dame駅(RER C線)
付近の観光スポット:ノートルダム寺院、パリ市立病院、パリ警視庁