from パリ(たなか) – 50 - 緋桜と 競ふ白妙 巴里の空。

(2010.04.19)
植物園の中央には見事な紅白の桜が咲き競い、文字通り晴舞台だ。

4月11日、きょうは日曜。春だし、ゆっくり朝寝を決め込んでいたら、ヘリコプターの音に起こされた。そうか、パリ・マラソンの日だった。もう9時過ぎてるし、しょうがない、起きるか。きょうも青空が広がっている。パンを買いに出たついでに、マラソンコースになっている市庁舎の方まで様子を見に行こうかと思ったが、セーヌの川風が頬にひんやり冷たく橋を渡るのが何だかえらく億劫になり、そのまま戻る。洗濯機をセットして朝ご飯も済ませ、テレビをつけたら、3チャンネルでマラソンの実況中継をまだやっていたのでコーヒーを飲みながらゴールまで見ていた。

パリ・マラソンは、凱旋門をスタートしてシャンゼリゼを東のコンコルドへ向かい、ルーヴル、市庁舎北側からバスティーユ、ナシオンを経てヴァンセンヌの森へ入り、森の中で折り返して再びバスティーユへ戻り、今度は市庁舎南側を通ってチュイルリー公園からセーヌに沿ってシャイヨー宮、16区の下の方まで行ってブーローニュの森を北上して凱旋門へ戻るという、パリ右岸を東西に横断する観光コースを走るらしい。

テレビで見たのは後半のブーローニュの森にさしかかったあたり。ヘリの映像で見ると、芽吹き始めた森の新緑が朝日を浴びて光っている。世界一美しいコースと言われているらしいが、確かにそうかも知れない。パリの二つの森を結んでいるし、街路樹も美しいし、何て言ったって4月のパリだし!中継を見ながら私の注意は、レースよりも公園の木や街路樹の新緑チェックの方にあった。今年の春もいろんな木の花を見たいものだと。パリでは4月から5月にかけて、桜、杏、スモモ、リラ、マロニエ、藤、桐、アカシアなどの花が新緑の中、あちこちで次々に咲き乱れるのを去年の春こちらへ来て知った。

hisakura(緋桜)とプレートに記されている。すっくりと伸びた樹形が美しい。桜は、例えば川の堤の並木などが普遍的なイメージだが、独立した巨木としての桜もドラマチックで悪くない。花火の尺玉を見るようだ。
花壇両側にはマロニエの並木が直線で500メートルほど続く。手前は山桜系。植物園らしく、違う種類の桜が数本このエリアに集まっている。
奥に見えるのが自然史博物館。夕陽を浴びて穏やかな花見日和。宴会の客はいないが。
近寄ってみると意外や一重咲きだ。花数がすごく多く、どこかラテン系の印象。クレヨンの桜色そのまま。
プレートにはsirotae(白妙)とある。横から回り込んで見ると、垂直方向より水平に枝が伸びているのがわかる。白い龍のような姿だ。蜜の甘い香りにミツバチがたくさん飛び回っていた。

春本番を思わせるウィークエンドが始まった4月9日の夕方、5区の植物園(Jardin des Plantes)へ行ってきた。自然史博物館に隣接するというか、もともと植物園だった敷地内に動物園や博物館が出来たそうだから、歴史は古い。サン・ミッシェルからモンジュ通りを歩いて1キロ半くらい、途中でチーズ屋に寄ったりしながら30分で到着。

植物園内を東西に一直線に延びるマロニエ並木は遠近法の実例のよう。まだ芽吹き始めたばかりで緑は浅い。その並木の中央に、白とピンクの花をつけた木が見える。近づくにつれ、紅白2本の桜の木だとわかった。ひな飾りにある右近の橘、左近の桜(逆だったかな)みたいに並んだ配置で、植物園のシンボルツリーのような待遇だ。2本ともちょうど満開、空も晴れて絶好のタイミング。白と紅の花が青い空に映えて、これじゃフランス国旗のトリコロールのようだ。造園デザイナーはここまで計算したのだろうか? それにしても、違う種類の桜が同時期に開花するなんて偶然だろうか?前回のこのブログで、パリの桜もどき、などと言ってしまったが、いや、パリの桜の素晴らしさを見直しました。そして日本の桜と比較してはいけない、とも反省した。風土も文化も違うんだから。

広い園内をのんびり歩いていたら山吹やカラタチ、早咲きの白いリラも見つけることが出来た。花見の後は、植物園の入口付近にあるモスクのサロン・ド・テで一休み。夕方6時半過ぎだが、テラスはまだ客でいっぱいだ。席を確保して、店内の売店で菓子を買って、甘いミントティーを一杯。花疲れした体に心地よい。隣りの客が吸う煙草のオリエンタルな甘い香りが怪しく漂う、長閑な春の夕暮れを楽しんだ。
 

アーモンドの白い三日月の形のケーキが欲しかったのだが、売り切れていた。中庭テラスで。ミントティー2€、ケーキも2€。
ケーキを食べ終わるや、雀軍団の襲来。私まだ椅子に座ってるんですがね。パリの雀は図々しい。

と、一件落着、これで原稿は終り、の予定だったが、当コラム編集担当のNさんから強く、パリ郊外にあるソー(Sceaux)公園の桜が見たい!とメールがあった。ソー公園まで電車で20分ほどだが、飛行場みたいに広大な公園なので、入口から桜の広場まで20分はかかる。私が勝手にパリの桜の標準木(東京の靖国神社の桜のように)と決めたシテ島、ノートルダムの八重桜は4月15日現在で5分咲き。八重桜はやはり満開で見たいしなあと悩みつつ迎えた週末18日は晴天、公園の近くに住んでいるイナバさんから誘いの電話もあったし、午後の気温は22度、悩んでいてもしょうがない、行ってみよう。

ソー公園の桜は、パリの日本人に大人気。最寄り駅のB線クロワ・ド・ベルニ(Croix-de-Berny)で降りると、花見客とおぼしき日本人が目立つ。花の下で弁当を広げてもOKなので、日本式宴会風花見が出来るのです。好天の日曜日とあって、園内はフランス人公園散歩客+日本人花見客でいっぱい。白い八重咲きの里桜は100%満開、紅い八重桜は60%ほど、桜のエリアで聞こえるのは80%くらいが日本語、パリにいることを忘れて花見を堪能した。
 

少し葉も出てはいるが、純白の八重咲き里桜がこんもりと茂る。満開、快晴、初夏の陽射し、絶好の花見日和。大半の日本人は木陰に陣取るが、フランス人は日なたが大好き。
正方形の広場に、縦横10本ずつ、計100本近くが整列している。フランス庭園のなかの桜の園は緑の芝生の上で、並木とも違う、将棋の駒のような雰囲気。ここでも紅白の桜が競っていた。この日ばかりは日本人で貸し切り状態。