焼きものの郷へ Vol. 2 波佐見 「中尾山」でひと目惚れしたのは、生成り色の器。

(2010.03.09)
1 波佐見の「中尾山」は、町中のいたるところ、道や手すり、壁などに波佐見焼きがあしらわれています。

波佐見は、デザインのいい、質のいい、日常の器が作られている焼きものの町です。「中尾山」は波佐見焼きの窯元さんが集まる山間の小さな町。川に沿った坂の町には18軒の窯元さんがあり、あちらこちらに煙突が残っています。ここには、全国にファンを持つ「一心窯」や「光春窯」、そして今回取材をした「陶房 青」があります。

「陶房 青」が作るのは、真っ白な磁器。ロイヤルブルーの染め付けもあります。息を弾ませて急坂を上ると、スタイリッシュな看板に続いてアトリエと小さなギャラリーが見えます。このアトリエは「陶房 青」のご主人・吉村聖吾さんのお城。訪ねた時には、軒先にろくろでごく薄く仕上げた真っ白なコップが並んでいました。

もうできあがったかのような白いコップは、実はまだ成形しただけで天日干ししている段階。その白さに驚いていると「これは天草陶石のなかでも一番質のいいものを使っているんだよ」と吉村さん。波佐見と有田の焼きものの質がいいのは、この「天草陶石」のおかげらしい。「でも本当にいい天草陶石は高いので、特別な器にしか使えないんだ」ということ。

アトリエの隣には大きな製陶工場があり、各地からやってきた陶芸家志望の若い人たちがたくさん働いています。中を順番に案内されて、窯を見せてもらっているとき、脇に焼き上がった器が無造作に入れられたかごを発見。器には青いマジックでぽつぽつとマークが書かれています。なんだろうと聞いてみると、不良品として戻ってきたもので、よーく見るとマジックでつけられたマークのところにかすかな釉薬の気泡のアトが。

とってもすてきな生成り色の小鉢。ひと目惚れしました。青白い白磁の器と違って生成り色になるのは、空気を入れて窯焚きをする「酸化焼成」をしているからなんだそう。この器はいったいどうなるのか尋ねると、B品として毎年開催される陶器市で安売りされるという。捨てられないとわかったので安心したものの、離れがたく……。いま、私のお家の戸棚にいます。

2 ろくろをひいて、アトリエの片隅で乾燥させているところ。とても薄い真っ白なコップ。
3 吉村さんが、釉薬をかけるところを実演してくれました。青の器はみな、こうやって、ひとつひとつ手で釉薬がかけられています。
4 青では、器を一枚ずつサヤに入れてから窯で焼成されます。

5 器の底やはしっこに「青」のサインを見つけたら、波佐見の陶房 青で作られたもの。
6 こちらは工場。すべての行程が手作業でていねいに行われています。
7 染め付け用の呉須。焼成する前は、真っ黒だったり、サビ色だったり。

8 イッチンで絵を描いているところ。ぷくっとふくらんだ染め付けに。
9 青のギャラリーで見つけたお湯飲み。抜けるような白い生地に分厚いところだけアクアマリン色になる釉薬が。
10 我が家にやってきた生成り色の器。縁の薄さや糸底の小ささが魅力的。

工場の2階にある絵付け室では、細い筆、ダミ筆(太筆)、そしてイッチンと呼ばれる太い注射針のようなもので、呉須をのせます。塗ったときには赤茶色に見える呉須が、焼き上がると鮮やかなロイヤルブルーに。呉須には、黒っぽい紺色と明るいロイヤルブルー系のものがあって、ここでは濃いのが「唐呉須」、淡い方を「京呉須」と呼んでいました。

吉村さんは、中尾山の町の一番上にある登り窯まで案内をしてくれました。そこから見る景色がすてき。幾重にも重なる緑の山々と、きゅっと集まって身を寄せ合っているような家々。日本の美しい風景と暮らしが、しっかりと守られている町でした。

さて、もう1軒立ち寄ったのは、選びぬかれた生活道具を置く『HANAわくすい』。築80年の製陶所だった建物を改装して作られたお店は、とても広い。職人仕事で作られたグラスや帆布バッグ、肌触りの良いカシミヤの洋服など、どれもが暮らしの日用品として心地よくディスプレイされています。

店主の高塚裕子さんは、「ここでお店をするのなら、波佐見焼を良質の生活陶磁器生産地としてしっていただくための生活シーンを連想させる生活道具屋にすることが必要だと思ったんです」という。お店を見ると、自然素材で作られたほうきやたわし、好みの形を伝えて職人さんに編んでもらったかご、蜜蝋で作られたキャンドル、南部鉄器、鋳物のはさみ、水をたっぷりと吸うふきん、薄いガラス、地元波佐見の白山陶器ほか、いくつかの陶器。飽きることなく暮らしの中にとけ込んでくれそうなものがいっぱい。

11 趣のある古い建物をそのまま生かしたお店。
12 ハチ蜜の森キャンドルの蜜ロウソクたち。
13 店長の高塚裕子さんは、ファッションもナチュラルスタイル。

14 糸切りばさみや花ばさみと並んでいた木屋のつめきり。
15 バスやアロマ関連、靴のお手入れグッズなどがさりげなくディスプレイされています。
16 自然素材のほうきやブラシ、たわしなど。昔から愛されているお掃除道具が並んでいます。

17 広々とした空間。梁や戸棚、白壁と自然光が作る空間が心地いい。
18 大分で作られたかご、ガラスの器やコップ、南部鉄瓶など、みんな良質の生活道具。
19 釜定工房の鉄器など、長く使えるデザインのキッチンツールがセレクトされていいます。

毎年、ゴールデンウィークに開催される「波佐見陶器まつり」で、良質な土で作られる良質な生活道具「波佐見焼き」と、それが生まれる町を、ぜひその目で見てみてください。

陶房 青
Tel:0956-85-4344
住所:長崎県東彼杵郡波佐見町中尾郷982

HANAわくすい
Tel:0956-85-8155
長崎県東彼杵郡波佐見町井石郷2187-4

写真1〜9、11〜14/斎藤亜由美 ©felissimo

 

 

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