from パリ(田中) – 28 - パリのチョコレート屋とベルリンの壁。

(2009.11.09)

買い物の途中、オデオン駅の近くにあるチョコレート屋のウィンドウを見て私は思わず立ち止まってしまった。入口の両側にあるウィンドウに、それぞれ2枚の絵が掛かっている。前に通った時には絵はなく店内を覗くことが出来て、ウィンドウの棚には秋の季節商品なのか、マロニエの実みたいな丸いチョコが(それはそれで、チョコとしては奇抜な形なのだが)置いてあったのだが。ここは画廊ではなかったはずだし、この絵はいったいチョコと何の関連があるんだろう? それにしても右側にある絵は、うす汚れたグレーが基調の落書き風のイラストで、ほろ甘く優雅なチョコレートのイメージと常識的には完全にミスマッチだし、使い古したスプレー缶まで散乱している。

後日ショーウィンドウの中をよく見たら、ベルリンの壁のことを書いた説明書が置いてあった。しかし私のつたないフランス語読解力では、なぜベルリン?かまでは理解出来なかったが、ホームページを見て、ベルリンの壁が連作であることがわかった。他の店には違う絵が掛けてあるんだろう、きっと。
10月初旬のウィンドウ。秋の新作は1個9ユーロらしい。そろそろマロニエの実が大きくなる季節だし、センスのいい遊び心が感じられる。鮮やかな緑と黒褐色の丸い実の配色、大胆だ。彫刻家もびっくりしそうな造形といい、食べるのはもったいない、オブジェとして飾りたい気分。でもチョコは生ものだから早く食べないと。
こちらに飾ってあるのは、夏みかんくらいの大きさ。奥のはもっとデカい。ディスプレイ用かな。ここんちのチョコレートは、Rのロゴが付いたエメラルドグリーンの箱に入ってます。なんだか、ティファニーのアクセサリーでも買った気分かな。
10月中旬の問題のウィンドウ。このイラストだって、十分にすごい。巨大な板チョコに彩色してある。スプレー缶もよく見るとチョコレートだ。
ディスプレイの話ばっかりで、チョコレートの味はどうなんだって言われそうだが、最優秀職人賞のショコラティエなんだから美味しいに決まっている。プラリネと呼ばれる、砕いたナッツ系をキャラメルや砂糖に溶いた衣で包んだ小さな四角のチョコが得意らしい。店内にはフルーツ系のチョコなどもあって、量り売りもしている。

お洒落なチョコレート屋がよくこんな大胆なディスプレイするなあと感心しながらじっくり眺めると、絵の背景に旧ソヴィエト連邦と東ドイツの赤い国旗があった。そうか、もしかしてベルリンの壁? スプレー缶にはBERLINとあるし。さらによく見たら、クルマに乗った二人はブレジネフとホーネッカーだと解る。そういえば、昔そんな人がいたなあ、今や歴史上の人物だ、ソ連も東独も歴史上の国になってしまったし。それにしても、なんでベルリンの壁なんだろう。家に帰ってネットで調べたら、ベルリンの壁が壊されたのが1989年11月9日、そうか、20周年ってこと? でもなあ、チョコレート屋なんだけど。

思い返せば今年の6月ころ、この店の左側ウィンドウにはアポロ11号の宇宙飛行士がたしか二人、月面を歩行していた。1メートル近くありそうな白い宇宙服をホワイトチョコででも作ったんだろうか(詳細は不明)、すごいディスプレイだなと感心して見た記憶がある。アームストロング船長が月に降り立ったのが1969年7月16日。(40年前だ)もしかして、世紀の大事件を再現しようというコンセプトなのか? だとすれば、次のディスプレイはどんな事件か選ばれるのだろうか、楽しみだ。

サンジェルマン大通りに面したシンプルな店構え。
10月31日のハロウィンにあわせて、カボチャも飛び入り。和菓子でも、季節の自然のものをいろいろ創作するが、どこか共通するものを感じる。

チョコレート店の名前はパトリック・ロジェ。ネットで調べたら、若くしてフランス国家最優秀職人賞を獲得したショコラティエのサンジェルマン店だった。店のホームページを見て、また驚いた。ショコラが香って来るような美しく楽しいページだ。(なんと日本語がある)そうか、若く実力も折り紙付きの有名店だったのか、それにしても過激なディスプレイだ、チョコレートの味も革命的なのかなあ。友人へのお土産にここのチョコを持って行ったら“チョコレートの概念を覆すほどの衝撃”を受けたと喜ばれたが、自分用に買ってじっくり食べてみたことは、まだない。こんど何かの記念に柑橘系のチョコでも買ってみようか。