from パリ(たなか) – 17 - パリの不思議な映画館。

(2009.08.24)

銀座に並木座という邦画専門の名画座(最近はミニシアターと呼ぶらしい)があった。仕事のスケジュールが急に落ちた時などには絶好のヒマつぶし映画館だった。黒澤や小津の作品がよくかかっていたが、狭い館内には邪魔な柱があったのを覚えている。昭和っぽい外観の建物だったような気がするが、今となっては銀座の何処にあったのかも定かではない。いいかげんな記憶だなあ、まったく。パリ7区のボン・マルシェにお土産を買いに行った帰り、バビロン通りを散歩していたら奇妙な映画館に遭遇した。道路から見ると東洋風の寺院だが、壁にはウディ・アレンの新作『Whatever Works』のポスターが貼ってあり、入場券売り場らしき窓口もある。どう見ても映画館と判定せざるを得ない。しかも相当あやしい映画館だ。そのとき突然、銀座並木座のことを思い出したのだった。

看板にパゴダ(PAGODE)とある。東洋の寺として建てたものを映画館にリノベーションしたらしい。すごい変わり身だ。屋根のカーブは中国風だがネットが被せてあって全容は見えない。折角だから映画を見ようと思ったが、午後からの上映だったので諦める。中庭の巨大な石灯籠と竹が妙に和風だ。石庭というホテルがあったなあ。テーブルが三つあるが、休憩時間中にお茶でも飲めるのだろうか? つのる不思議。

セーヌ沿いに建つノートルダム大聖堂のサン・ミッシェル側に、サン・ジュリアン・ル・ボーヴルという古い教会がある。その裏通りを散歩中のこと、カップルに連れられて遠ざかるテリヤを羨ましそうに見送る感じのビーグルがおかしくてカメラを向けたのだが、そこによく見ると映画館があった。どうやら名画座系らしい。親子連れはポニョを見に来たのかな。

 

パリの映画館も東京と同じシネマ・コンプレックスのスタイルが大半で、館内に3〜5ある部屋で複数の映画を上映している。しかし映画館の建物は旧いままなので外観からは見分けにくく、看板やポスターがないと見過ごしてしまう。館内の小部屋の配置は、改築や増築を重ねて複雑に入り組んだ印象がする。19区のヴィレット運河沿いにある映画館は、船着き場の造船所?跡をリノベーションしたとか、イナバさんに聞いたような気がするが、建築物として見てもなかなか面白い。日本では映画館の建物が没個性化しているが、パリには不思議な映画館が多いのかな。私の生活圏となったサン・ミッシェル界隈にもなかなかの個性派映画館がありそうで、映画を見るだけでなく、映画館を見る楽しみが増えそうだ。

メトロのオデオン駅前にある封切り館。UGCはチェーン名で、東宝系みたいなものか? DANTONはフランス革命で登場する有名な人物。この地で銃を取りバスティーユへ向かったということだ。ダントン通りはこのあたりが起点。すぐ近くに演劇を上演するオデオン座がある。(むかし新宿や中央線沿線にもオデヲン座があった)映画の入場券は券売機が多いが、入り口でお兄さんから直接買うことも出来る。

テレビの映画専門チャンネルでトリュフォーの『大人は判ってくれない』を久しぶりに見た。パリで暮らすようになってフランス映画を見ると、シーンの見方が変わる。映画の中の景色と現在の風景があまり変ってないのに驚く。トリュフォーの映画に出てくる階段や『アメリ』の八百屋など、モンマルトル名画散歩をしていたら素敵な映画館を発見。ポスターを見ると、『ロメオとジュリエット』を上映中だった。
運河沿いの映画館はMK2(エムカドゥ)というパリでよく見かけるチェーン館。運河の向かい側にも別館?があって、映画によってはボートで連れてってくれるらしい。渡し船に乗るだけでも、なんか楽しそう。

ところでパリでは、6月27日から7月3日までの1週間を映画フェスティバル LA FETE DU CINEMA と銘打って、最初に正規の料金で入った映画館で貰ったパスを見せれば、その後の入場料が一律3ユーロになる、という映画好きにはたまらないサービスがある。封切りでも1,000円しない入場料が400円なんて、すごい。私は3本見た。ケン・ローチ監督の『LOOKING FOR ERIC(ルッキング・フォー・エリック)』、今年のカンヌ映画祭でシャルロット・ゲンズブールが女優賞を穫って話題になった『Antichrist(アンチ・クリスト)』、それにウディ・アレン久々のN.Y.もの『Whatever Works(ワットエバー・ワークス)』。

3作とも英語の作品で字幕がフランス語。3ユーロでもっと見る気力はあったのだが、語学能力の限界もあるし。しかし、英語を聞きながらフランス語字幕を読むというのは不思議な体験で、時々理解出来るフレーズがあるとフランス語が上達したような錯覚を覚えた。ウディ・アレンの饒舌さには、日本語字幕でも追いつかないかも知れないが。