from パリ(たなか) – 46 - アヴィニョンの手回しオルガン春時雨。《南仏旅行1》

(2010.03.23)
教皇宮殿前の広い広場?は、石畳が美しい。シーズンオフで、オルガン弾きのおじさんも自主トレ中、かな。

「週末、ちょっと南仏まで」なんて台詞を一生に一度は言ってみたいものだ、と思っていたが、誰に言うでもなく、2月の週末に、イナバ夫妻といっしょに南仏アルルまで旅行することになった。パリへ来て泊まりがけの旅行は初めてだ。切符や宿の手配はすべてイナバ旅行社にやってもらったので、私はお気楽旅行、楽しみだ。

パリ・リヨン駅を7時50分に出発したTGVはすぐに郊外を抜け、緑の丘陵地帯を真っすぐ静かに突き進む。いつもながら、フランスって農業の国だなと実感する。心配していた天気もリヨンに着く頃には快晴、すでに気分は南仏。ここから在来線を走ってアヴィニョン中央駅には11時20分に到着。ホームへ降り立つと、さすがにパリより暖かい。ところがいつの間にやら曇り空、でも15度はありそうだ。駅前から旧市街を取り囲む城壁と門が見え、冬枯れの広い並木道が教皇宮殿へまっすぐ延びる。きょう最初の予定は城壁のような宮殿の見学、しかしその前に腹ごしらえだ。

市庁舎の時計台の12時の鐘を聞きながら宮殿の広場に着く。オフシーズンでメリーゴーランドは止まったままだし、カフェのテラスにも人影なし。そんななか広場の真ん中あたりで、手回しオルガンの車を引いたおじさんがハンドルを回して演奏を始めた。オルガンの音に合わせて、よく通る低い声で歌ってくれる。曲名がわからないが、民謡のような節回しが素朴だ。夏は演劇祭で広場と言わず街中が大混雑するそうで、ホテルもレストランも予約が難しいらしい。

今回お目当てのレストランは、広場のテアトル裏通りにあったが、あいにく休業中。しかし慌てず、通りに並んだ別の店をミシュランの調査員よろしく比較検討して(もちろんイナバさん)真ん中の店に決める。劇場の緞帳をモチーフにしたドラマチックというか、垢抜けないインテリアのレストランだ。前菜とメインの2皿で19ユーロの定食に決め、私は茄子のプロヴァンス風(正式な名前は忘れたが、ラタトゥィユみたいな)に、頭無しヒバリという肉料理。イナバさんの注釈では、夏シーズンの芝居見物客向けにわざと大げさな料理名にしたのでは?ということだ。出てきた皿を見たら、鶏の挽肉を薄切りの牛肉で包んで焼き、香草を効かせたソースをかけたもの。付け合わせのマッシュドポテトのローズマリーの香りが、控えめながらとってもプロヴァンス。いや、お味はインテリアのセンスより良かった。

腹ごしらえもできて教皇宮殿へ。石作りの内部は、暗く寒い。高い天井の会議室、執務室の床下には隠し金庫、厨房の高い煙突、フレスコ画のある礼拝堂や寝室など、探検するには面白いが、教皇や枢機卿たちが生活していたリアリティが現代人の私には感じられない。立体迷路のような部屋を巡って屋上へ登ると雨が降って来た。南仏プロヴァンスのバラ色に輝く屋根を期待したのだが、残念。下に降りて、ローヌ河にかかるアヴィニョンの橋(サン・ベネゼ橋)を見物するのもやめて、河沿いにあるプチ・パレ美術館でイタリアのシエナ派の祭壇画を見る。聖母マリアの受胎告知の板絵が、いったい何枚あっただろう? イタリアルネッサンスもシモーネ・マルティーニも大好きだけど、一度にこれだけ見るとなんだかなあ。

アヴィニョン中央駅に到着したTGV フランスは軌道がすべて広軌なので在来線の駅へ乗り入れることが可能。郊外にはアヴィニョンTGV駅もあるので要注意。
アヴィニョン市庁舎前の広場はまだ冬景色。写真右奥の通り突き当たり、中央駅から5~6分。
手前が噂の頭無しヒバリ。リアルな姿を期待?したのだが。奥右のポテトは素材の味を殺さず、ローズマリーがほのかに香る。左は茄子とピーマン。
教皇宮殿のガラス窓には、色ガラスがポイントに埋め込まれている。外はなんだか怪しい雲行きだ。
宮殿の中の会議室だったか、体育館みたいに高い天井のアーチがきれいだ。当時は壁一面をフレスコ画で埋め尽くしていたらしい。
屋上からの眺め。正面は市庁舎の時計台。遠くにローヌ河が見える。

雨は止む気配がない。カフェで一休みして濡れたコートをちょっと乾かして、5時30分のバスでアルルへ向かう。鉄道に沿ってSNCF(国鉄)の代替バスが走っている。暗くなる前にアルル駅到着、北側の城門から旧市街にあるホテルへ直行、一休みして晩ご飯へ出撃。ホテルのある広場を出るとすぐ円形闘技場が聳える。ここはフランス? 雨上がりの石畳の道を中心部へ向かうと別の広場に出た。まだ8時前なのに、人影はまばら。ゴッホの有名な『夜のカフェテラス』はアルルで描いた絵だ。それらしき黄色い壁のカフェがあったが、残念ながら絵にあるような星空は今宵はない。広場で店じまいしているオジサンに目指すレストランの所在を聞くと、「そこの突き当たりを左に曲がってすぐ右、あの店は旨いよ」とのこと。(もちろんイナバさん通訳)

昼間の雨で冷えたので前菜に野菜スープ、メインはイカとジャガイモのブイヤベース仕立て(フランス語のちゃんとしたタイトルは忘れたが、まあそんな味)、デザートにアマンドのミルフィーユ、この3皿で16ユーロの定食を注文する。安い、旨い、ボリュームあり。海が近いのでイカは新鮮でいい出汁が出てる。満足して宿に戻る。部屋のテレビをつけたら世の中は大変なことになっていた。チリで大地震、フランスでもブリュターニュ地方に台風並みの低気圧が上陸して高潮洪水の大被害、パリも強風が吹き荒れたらしく、バンクーバーオリンピックのニュースどころじゃなかった。プロヴァンスは春の時雨ですんだぐらいで、まだましだったかも。
 

黄色い壁に、Café la nuitと書いてある。ゴッホは1888年2月にアルルへやって来た。私も2月にやって来た。
ちょっとピントが来てませんが、味はしっかり来てます。小さなイカが柔らかくて美味しい。魚介の風味が口いっぱいに広がり、幸せ。ジャガイモにローズマリーは不可欠。ニンニクやクリームもたっぷりなんだろうな、たぶん。1月に茨城の平潟港で食べたアンコウのどぶ汁を思い出した。