from パリ(田中) – 27 - こちらパリ警視庁。
(2009.11.02)セーヌ川には、カモメがいる。京都の鴨川に鴎がいるのと似たような、ちょっと意外な驚きだ。海は遠いのに。脚が赤くはないのでユリカモメではないようだが、巴里も京都も古い都だから、都鳥とでも呼びたくなる。ならば、名にし負はば いざ言問はむ都鳥 わが思ふ人は ありやなしやと、なんて伊勢物語の東下りの世界だなあ。しかしここは隅田川の言問橋ではなく、セーヌ川のサン・ミッシェル橋。東下りではなく、西上がり、とでも言うのだろうか?
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秋も深まって、サン・ミッシェル橋の下を通る遊覧船のデッキにも観光客はまばら。 |
サン・ミッシェル橋あたりは、セーヌの中洲みたいなシテ島との関係で川幅が狭い。橋の袂から階段を下り、橋のトンネルをくぐって川岸に続く遊歩道を上流へ向かうと、対岸のシテ島に聳えるパリ警視庁とノートルダムが間近に見える。4月にパリに来た時から気になっていたんだが、警視庁の壁面を飾る(カッコいい?)警察官の写真、やっぱり派手だ。近くに住むようになって、少しは見馴れたけれど。数えてみたら23人と1匹と2台。警視庁23人衆勢揃い、といったところか。
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パリ警視庁の正門。桜田門より偉そう。ノートルダムと向かい合っている。 |
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セーヌの裏側の広場から見る警視庁は、表情が優しい。左端に移民局の入口がある。 広場の右奥にはマリー・アントワネットが革命の時に幽閉されたコンシェルジュリー、 隣りのゴシック様式の塔はサント・シャペル。ステンドグラスが美しいそうだが、いつも観光客の長い列で、まだ行ってない。 |
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川面ちかくから見上げると壮観だ。ゴムボートは警視庁のもの。プールのように見えるが、意外と流れは早そう。 下流へ泳いで行く白鳥の番いを見ることもある。 |
どうやら実在する警察官らしく、対岸に設置された写真解説パネルには名前まで記されている。まあ、この写真もド派手でインパクトあるが、私が感心したのはバックというか、地の部分の建築写真だ。警視庁のセーヌに面した壁面が現在改修工事中につき、すっぽり工事用カバーがかかっている状態なのだが、そのカバーに建物の実際の写真を原寸大で印刷して景観を崩さない配慮をした、と思われる。梱包芸術で有名なクリストが以前ポン・ヌフをまるごと包んで話題になったが、警視庁の梱包は芸術ではなく工事だ。よく見ると、窓のブラインドの高さやガラスに映った影など、芸が細かい。そこで止めとけば良かったのに、警官の写真なんかのせるものだから景観を壊している、なんて洒落にもならないか。
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向かいの橋のたもとの解説パネル。左に見えるのがサン・ミッシェル橋。 警視庁では300もの職務が市民を守る、なんて書いてあるのかな。 白バイにも、ヤマハだかカワサキだか、キャプションが落書きされていた。 |
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道路から間近に見るとこんな感じ。ローラースケートを履いた警官、ルーヴル中庭のピラミッドのところで見たことあるなあ。 |
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ノートルダム側から見た警視庁。左がすぐセーヌ川方面で、ここが工事防護ネットの境目。 それにしても、この建物の写真どうやって撮影したんだろう。 |
ところで私、最近この警視庁の中へ入ったのです、滞在許可証の申請に。東京のフランス大使館で1カ月半かけて取得したビザ(パスポートに貼ってある)を水戸黄門の印籠よろしく持参して。本来ならば事前にアポ取って行くべきところを、電話がなかなか通じないし、とりあえず様子伺いのダメもとで、イナバさんの援護のもと、午後2時過ぎに突入した。念のため、指定された証明書類は事前に日本大使館で作成してもらい、準備万端怠りなく。
強面の門番に場所を聞いて、セーヌと反対側の広場に面した移民局入口へ回る。荷物検査の後、2階の部屋へ行くが開店休業みたいな様子。廊下を通りかかった女性警官に尋ねると、受付は午前中で終わったのよ! 残念。でも、ちょっと待って、担当の者に聞いてみる! 女性警官、すぐに戻り、なんかやってくれるみたいよ! ラッキー! しばらくして、ジーンズに黒いタートルの(これ、本物の警察官?)しかも若く長身の男性警官が現れ、じゃ、こっち来て、書類見せて。廊下の端のテーブルでいきなり受付が始まった。
受付用紙に記入するのに(フランス語だし)時間がかかったので、席を外してくれる気の利きよう。(面倒だっただけか?)それはともかく、アポなし営業時間外なのに一発で受付完了。待ち時間もゼロ。イナバさんの話では、フランス国に於いては奇跡に近いらしい。やったー! 幸先いいぞ。
遅くとも2カ月後までに電話連絡があり、仮の滞在許可証(レセピセと呼ぶらしい)を受け取る予定だ。本ちゃんの許可証はさらにその後、来年のことだから先はまだ長い。ここで喜んではいられない。パリには仕事で来たのだが、当面は許可証を取得するのが一番の仕事みたいな、なんかちょっと変だけど、身分証がないことにはなんだか落ち着かない気分なのだ。