まだ知られてない箱根・強羅へ 1

(2008.07.29)
○月×日
「ムシャクシャしてるから、今週末は皆で温泉行ってパーッと!」
ってノリなら正直、箱根・強羅はオススメしないエリアだ。パーッとなら、どーぞどーぞ、熱海へ。ちょうど1か月前、貫一&お宮の像の前で缶ビール飲んで宴会やってた私はそう断言できる。
でも、声に出すほどではなかった疲労感が、少しずつ胸の深いところで溜まってきて、
「……ぅぐうっ、温泉、入りてぇ……」
とうめく。そう、そんなときに、強羅が効くんです。

travel_080729_ph01
強羅の裏道にたたずむ小さな店、
「梅匠 紀伊国屋」。

<ごうら>という言葉の響きがゴツイからか、ド金持ちの別荘が連なる町並みに気遅れするからか、やや距離を感じ、若き日には手つかずのまま過ごしてきた旅行先。でも、この独特の静けさが、今は心地イイ。


強羅駅を降りてすぐ目の前に、
足湯ならぬ手湯。

東京から新幹線ひかりで小田原へ、そして箱根登山鉄道にのりかえれば計2時間。明治以降、名士の避暑地として分譲の進んだ強羅は、強羅公園を中心に広がっている。で、その肝心の公園だが、行くのはしばしガマン。なぜガマンするかは、後ほどお伝えするとして……。


坂道の急な強羅は、
早雲山ケーブルカーが大活躍。

まず、ケーブルカーで上強羅まで登ってしまう。喫茶「PASEO」にかなーり惹かれつつ、ベタながら一度訪れてみたかった「ハイアット・リージェンシー箱根リゾート&スパ」へ。ラウンジでアイスティをいただき、一息。


8月末まで、夜はキャンドルの
灯がゆらめく空間に。

リゾート・モード全開なら、このままハイアットに宿泊し、帰りに小涌谷の翠松園でシスレーのスパ体験、ってとこが相場だろう。でも、強羅の匂いを強く嗅いで、「他ならぬ強羅へ来たぜ!」的な余韻を強めたい。だもんで……今回はスルー。

汗のひいたところでホテルを出て、ひたすら坂道を下る。強羅は急な坂道ばかりだけれど、簡単な話、いったんケーブルカーで登っちゃって、あとは下るように歩いていけばラクチンだ。箱根美術館を経由し、公園坂の店々を覗いて彷徨う。
と、写真館のウィンドウに目が留まった。セピア色の写真に混ざり、山に「大」の風景。


大文字焼の写真が飾られた「島写真館」。

「ん、大文字?でも、強羅で?京都じゃなくて?」
とつぶやいていたら、店から人影が。
「こちらでは大正10年から、毎年8月16日に行われてますよ」
答えてくれたのは、島写真館を継いで三代目のカメラマン。
「当日は、強羅夏祭りの会場をはじめ、あちこちから大文字焼が見えるんです。同時に花火も打ち上げられるんで、絶対に見ごたえあります……ただ、運営するほうは大変だけどねぇ~」
なんでも、地元の有志が6月から篠竹の刈り取りをスタートし、急勾配の山肌で大文字の形に設置していくのだそう。


ちょうど花火が打ち上げられた瞬間。
(提供:島写真館)

大文字焼の現場真っただ中。
(提供:島写真館)

火の燃え盛る現場は、地元の人でも足のすくむ急勾配、とのこと。ご厚意で昨年の写真を見せていただいて、よーーく分かりました。大文字焼は命がけ。御苦労様です。


「翠光館」の、
大文字焼がバッチリ見える部屋。

海の幸満載の夕食には、
身のギッシリ詰まった蟹も。

日が暮れかけたところで、宿「翠光館」に到着。
さて、ココでようやく、さっき強羅公園をガマンした理由を種明かし。なんと、「翠光館」が強羅公園の一角に位置しているため、宿泊客は専用の出入口から強羅公園に“タダ”で入れちゃうのです! だから、チェックインしてから公園散策へ出かけるが吉。閉園間際や朝一番の時間に、まるでプライベート・スペースのように公園を歩きまわると、リッチな気分にひたれるってもので。ちなみに、強羅公園が閉園後も、整った緑を眼下に望める宿の展望風呂は24時間入浴可能。これまたリッチ。

宿で夕食と風呂を楽しんだら、じわじわっと元気が出てきた。そこで、さらなる散策も兼ねて夜の町へ。夜といえば、そりゃアルコールの香りに誘われるわけで、途中、賑わう1軒を見つけてフラリと入店。


「お好み焼き かじ」は、
地元の人であふれる。

200円の漬物盛り合わせが、
嘘のようにてんこもり。

「お好み焼き かじ」で生ビールを飲みながら、壁を見ると店の定休日が張り出されていた。……え、金曜休? そもそも週末が賑わう温泉地・強羅は、水・木に休みをとる店が多い。でも、定休日が金曜って、さすがにどうなの??
「だって、この店で統計とったら、金曜日に一番お客さんがこなかったんだってさ」
と、店の人の代わりに、常連さんが解説する。
「金曜日だと、強羅の住民は小田原あたりへ飲みに出ちゃうかなぁ」

そんな意外な事実を知るのも、また、旅の醍醐味。