from パリ(たなか) – 63 - オー・ヴュー・コロンビエという名のカフェ。

(2010.07.19)
スズの合金で作ったカウンター(コントワール)のことをパリではザンク(zinc)と呼ぶそうです(稲葉さんが詳しい)。ザンクで立ち飲み、かっこいいな。

パリの街にはカフェが多い。ここ10年で減少傾向にあるそうだが、散歩の途中でちょっと休もうかと周りを見渡せば、必ず視界の中に1、2軒は入るほどだから、東京と比べると格段に多そうだ。交差点の角には必ずあるし、ちょっとした広場でもあればカフェが軒を連ね、歩道はテラス席で占拠される。パリのカフェ、と言えば必ず名前が挙がるサン・ジェルマン・デ・プレの『レ・ドゥー・マゴ』や『カフェ・ド・フロール』は、いつもテラス席は満席状態なので、通りがかりにちょっと休もうと思ってもなかなか席を取ることができません。

そのサン・ジェルマン・デ・プレから地下鉄4番線で一つ隣り(歩いても3~4分ほど)のサン・シュルピス駅がある交差点に、『オー・ヴュー・コロンビエ(AU VIEUX COLOMBIER)』という、ちょっとだけレトロなカフェがあります。カフェがある通りの名前、ヴュー・コロンビエ(Rue du Vieux Colombier)がそのまま店名になったのかな。サン・シュルピス教会の近くで、私はこの界隈のパン屋や本屋など、買い物ついでによく散歩するところなのですが、このカフェの前は何故かいつも素通りしていました。

先日、東京から来た“パリ情報通”の友人といっしょに、このカフェに寄ったことがありますが、混んでなく、適度に客がいて、初めてなのにいつか来たことがあるような、とても落ち着けるところでした。外は何度も見て知っていただけに、もっと早く入っていればよかったなあ、と残念に思いました。

屋外のテラス席はないけれど、明るいサンルームのような店内からは通りが見えてとても開放的だし、中央のカウンターは、その前に立って何か飲みたくなるような、不思議な魔力を発散しているようです。インテリアも普通に古い感じで和めるし、カフェを注文しただけですが値段も普通、メニューも普通かな。ふらっと寄って、ボーッと外を眺めながらコーヒーを飲んで一息ついて、スーッと出て行くというような、カフェで過ごすことがふだんの生活の一部に自然にとけ込んでいるような、主張し過ぎない店の感じにすごく好感が持てました。こういうのって、あるようで意外と見つけるのがたいへん。人との関係にも似ているかな。
 

私は店内の椅子席に座ってカフェを注文することが多いのですが、もう少しフランス語が上達して、カウンターで店のオヤジと二言三言、話が出来るようになるといいなあ、と思ってます。
頭を空っぽにして、ぼんやり外を眺めているだけで、あっという間に時間が過ぎる。
話はなくても、とりあえずカフェに入って。
レンヌ通りとヴュー・コロンビエ通りの角。通りを右へ行くとすぐサン・シュルピス教会。直行する通りを奥へ3~4分でサンジェルマン・デ・プレ。地下鉄サン・シュルピス駅構内の改修工事は、まだ続いているんだろうか。

サン・シュルピスから歩いて7~8分とかからないサン・ミッシェル界隈もカフェ密度が高いエリアです。このオー・ヴュー・コロンビエのように、何かするわけでもなくただぼんやり休める、私のお気に入りカフェが数軒あります。パリのカフェ事情(私の独断)で最近ちょっと気になっているのは、あちこちにスターバックスが増えたことです。東京にいる時は私も結構スタバを利用しているし、メニューも安心できて好きなのですが、パリでスタバに入ることに私は少なからず抵抗があります。どうせだったら、全世界チェーン展開の店よりも、パリでなくては味わえない雰囲気の店の方がいいなあ、と思ってしまうのです。アメリカ人っぽい観光客で賑わっているスタバが、パリに古くからある普通のカフェをこれ以上駆逐しないで欲しいなあと、なんだか黒船を迎えるパリの人の気分になっています。でもフランス人って結構新しいもの好きだったりする面もあるようだし、パリに来てすぐにお気に入りのカフェを探し当てるのは難しいし、さてさてパリのカフェは今後どうなっていくのでしょうか。

ところで、オー・ヴュー・コロンビエを直訳すると「古い鳩小屋で」という意味なのかな。私はこの原稿を一時帰国した東京で書いていますが、少し前に撮ったカフェの写真を見ながら、じわーっとパリへ戻りたい気持ちが湧き上がってきました。