from 北海道(道北) - 4 - 海鳥の楽園「天売島」。

(2011.08.22)

島のプロフェッショナル

「天売島」は海鳥と人間が共存する、世界的に貴重な島。

今年5月最後の週末、家族でその島に行った。

私は天売島から50kmほど南の留萌市で生まれ、延べ35年近く住んでいるが、島に渡ったのは初めてだった。羽幌港を出て隣の焼尻島を経由、約1時間半のフェリーの旅……以外と近い。

天売島を拠点に活動する写真家 寺沢孝毅さんが天売港まで車で迎えに来てくれた。この旅は、彼が主催する「写真塾」に参加するツアーなのだ。それに、未知の土地では知っている方に案内してもらうのが一番。

寺沢さんは、アラスカやボルネオ島、コスタリカなど世界を舞台に活躍するプロの写真家。この写真塾は、一泊二日で島の動物や花、海などの撮り方を彼に教えてもらえる、とても贅沢なもの。

海獣に出会う

1日目、寺沢さんの拠点「海の宇宙館」で写真撮影の基本を習う。続いて寺沢さんが操縦する船外機つきボートに乗り島を一周。島の断崖や動物、そして海鳥を海上から撮るのだ。オジロワシやウミネコが飛び交う港を出て、海鳥の聖域である島の西側に向かった。途中アザラシの群れに出会う。その距離は10mほど。旭山動物園で、水槽の分厚いガラスを挟んでなら1mの距離でアザラシを見たことはあるが、今回のように彼らのフィールドに入り込み、野生の海獣にこれほど接近したのは初めて。聴こえるのは海鳥の鳴き声と、エンジン音、そしてアザラシが海に飛び込む大きな音。同乗した息子の顔にも緊張が見えた。

さらに進んで断崖を見上げた時「オロロン鳥がいます」と寺沢さんが教えてくれた。今となっては幻の鳥と呼ばれるこの鳥を、写真に収めることができたのは本当にラッキーだった。

映画の様な光景

夕食後、ウトウの繁殖地へと向かう。この時期は孵化したヒナにエサを持ち帰るために、日暮れとともに親鳥が一斉に巣に戻って来る。その数は100万羽とも言われる。

日が完全に沈んでしまうと、その数は加速度的に増え、空を埋め尽くすほどになった。まるで動物ドキュメンタリー映像、或は映画のワンシーンのようだ。圧倒的な数のウトウが鳴く声、頭をかすめる時の羽音、海鳥の匂い……この空気感を「体験」以外で伝えるのは困難だ。動画でさえも匂いや羽の風圧を伝えることはできないのだから。

小さな地球

2日目、「雨上がりの早朝の森を撮る」とのこと。朝6時に出発して、森の中を散策しながら撮影を続ける。同行した長女には見つけるものすべてが新鮮。水芭蕉が一面を埋め尽くす川。ノゴマやマミジロキビタキなどがさえずる森。雨上がりの森林の持つ甘い匂いと、肌に心地よいさわやかな潮風。留萌も十分田舎だが、市街地周辺に「自然」というものは殆ど残っていないことを想起させられる。

寺沢さん曰く、天売島は「小さな地球」。海、山、川、人、動植物などの生態系がここで一つの循環を作り出しているからだ。人が生きるときに根源的に必要なもの、本当に必要な情報がここでは露骨に現れる。社会の歪みが、歪みとして素直に認識できる島だと思った。

帰路に着く前に、私が今回撮った写真の良い点、悪い点を「海の宇宙館」のモニターで見ながら寺沢さんが評してくれた。同じ場所で撮った寺沢さんの写真と見比べる。決定的に「何か」が違う。はじめはその違いが分からなかったが、ツアーの最後には、その「何か」が少しだけわかった気がした。

この小さな島の奥深さは一度だけではわからない。何度も人を引きつける魅力のある島だ。少なくとも天売島に夢中になった子供達にせがまれて近いうちにまた行くことになるだろう。


 

天売島

北海道留萌振興局管内の苫前郡羽幌町にある島。
日本海、羽幌港の西30kmに位置する。
面積は5.5㎡、周囲役12㎞、人口は377人(平成22年)

寺沢孝毅さんホームページ

るもい地域情報サイト:るもいfan