from 香川 – 15 - 豊島が誇る、再生へのシンボル「豊島みかん」

(2011.01.26)

2011年の幕開けです。新年いかがお過ごしですか?
政治は混迷、経済は低迷、暗いニュースが多い世の中ですが、今年は躍進を期し、変化に尻込みせず、自らチャンスをつかみ、新しい事にどんどん挑戦し飛躍していきたいですね。
今年も香川県の各地域から旬の話題をお届けしていきたいと思います。
よろしくお願いします。

2010年は、香川、岡山両県の瀬戸内海に浮かぶ7つの島々と、宇野港、高松港周辺を舞台に、国内外の現代アートを展示した『瀬戸内国際芸術祭2010』が開催され、大盛況のうちに、幕を閉じました。

閉幕後の現在も3月末までは、全76作品のうち、35作品は継続展示しています。皆さん、まだまだ鑑賞するチャンスはありますよ。休日も混雑せず、余裕をもって鑑賞できるのが、この時期のメリットです。
芸術祭では、現代アートを通じ、人と人が繋がり、島の現状や歴史を知る良いきっかけにもなりました。島の風土に溶け込んだ、現代アートを肌で感じ合う輪は、無限大の可能性を秘めています。今回は、芸術祭の舞台の核とも言われた豊島からお届けしたいと思います。
 

かつて、国内最大級の産業廃棄物不法投棄事件で揺れた香川県小豆郡土庄町豊島は、
高松市から高速艇で約40分のところにあります。小豆島の西方に位置し、人口は約1,000人。昔から酪農と稲作が盛んで棚田が広がり、内海交易と石材業を基幹産業として栄えた町で、周囲は水産資源にも恵まれた豊かな島です。
芸術祭期間中、全体で延べ93万人の来場者数があったそうですが、実行委員会の調べによると、175,393人が豊島を訪れ、直島に次ぐ2番目に多い来島者数となりました。島内は、今までこんなに若者の姿を見たことがない!というほどの賑わいぶり。昨年の夏は、観光客や島の人達が一体となり、豊島の魅力に酔いしれた人も多かったようで、私もその一人でした。そこで出会い、自然豊かな風景等に触れたことで、新たなエネルギーをもらったように感じました。

 

口の中で、豊かさ広がる「豊島みかん」

風光明媚な豊島の魅力は、数え切れないほどあります。
中でも「豊島みかん」を食べた後の口いっぱいに広がる味は忘れることができません。

芸術祭の後もなお、作品の修繕や維持管理のため、豊島に滞在し、我が子のように大切に作品と向き合っているアーティストがいました。戸髙千世子さんです。
以前、WEBダカーポ(from香川-10-)の記事でも紹介しましたが、作品に対する思いは、計り知れず愛情を注がれる熱心な方です。芸術祭では、唐櫃の明神池に屋外展示している『Teshima sense豊島の気配』という作品が多くの人達の心をひきつけ、豊島に溶け込み、人を元気づけています。力強さの中にもはかなさを備えた作品です。
ある日、戸髙さんから豊島みかんを一箱分けていただいたのがきっかけで、そのおいしさを味わうことができました。

箱の外側には、「食とアートの島 豊島みかん」「瀬戸内国際芸術祭開催地」と書かれていました。芸術祭を機に、「産廃の島」から「食とアートの島」へと再生を強く願うと同時に、「豊島みかん」ブランド名の復活を願う生産者がいました。
みかんも非常に甘く、皮が薄くて、風味も豊か。口の中で甘みが暫く残り、次々と食べてしまいます。その味わいの中から、生産者の思いやこだわりなどが伝わってくる魅力的なみかんです。私はその時、豊島みかんの生産者に会ってみたい、どんな思いで作り続けてきたのか聞きたい、みかんの栽培をしている現場も見たいという熱い思いになり、栽培農家である山本果樹園の山本彰治さんに会いに行きました。

豊島は、家浦、唐櫃、甲生の3つの大きな集落に分かれています。
その1つの唐櫃集落には、豊富な湧水の「唐櫃の清水」が棚田を潤します。唐櫃の小高い丘には、芸術祭で、舞台の1つとなった「島キッチン」があります。「島キッチン」は豊島で収穫した食材を使って、丸の内ホテルの総料理長を筆頭に、島のおばちゃん達が腕をふるった料理が味わえました。期間中は、イベントが開催されたり、大きな木の下の縁側で、のんびりとした豊島時間を味わう事ができ大人気の空間でした。
その賑わいの空間にほど近い所に、山本彰治さんの自宅があります。
豊島のみかんを栽培農家は数軒あります。唯一みかんを専業に栽培し、出荷している農家は、山本さんだけです。

 

「丸山一号」に命をかけた山本彰治さん

「今でもあの時のうれしさは忘れない」と笑顔で振り返る山本さん。

創業者で父親の清次さんが、みかん栽培を始めて約70年。父親の思いを継承した山本さんは、豊島みかん栽培と共に人生を送ってきました。
山本果樹園の自慢のみかんは、『丸山一号』という品種です。山本さんの話によると、日本では、ここだけで栽培しているそうです。

昭和40年代、山本さんはみかんを栽培するため様々な試行錯誤を繰り返していました。みかんの生産量が今後ますます増えていくことを見越していた山本さんは、「味で勝負!」「どこにも負けない、人より品質の良いものをつくろう!」と強く決意していたのです。
しかし、なかなか納得のいくみかんを作ることができません。
ある時、知人の紹介で西宮市卸売市場の丸山青果に出荷したのがきっかけで、「丸山一号」に出会いました。食べてみると非常に甘くバランスの良い酸味に一目惚れしたそうです。
味よし、色よし、形よしと3拍子揃っている。その時「自分が求めていたみかんはこの味だ!」とこのみかんに命をかけようと決意したそうです。
この「丸山一号」は、丸山青果を設立した北山文一さんが、故郷徳島のみかんの品質を改良し、なんとか良いみかんが作れないかと、改良に改良を重ねてようやく完成させたものだったのです。

丸山一号に惚れ込んだ、山本さんは、徳島県小松島市に、北山文一さんを訪ねました。「接ぎ木をしたいので、一枝わけてください」と頭を下げましたが、北山さんは、「我が子のように可愛がっているみかんの枝をくれと言ったのはあんただけじゃ」と、相手にしませんでした。しかし、山本さんはその後も2度、3度と頼み続けました。

山本さんの熱意が伝わった時、北山さんは、自分のみかん栽培している山に連れていってくれたそうです。
徳島県の山奥深い急斜面に、北山さんのみかん農園はありました。山本さんにとって、喉から手が出る程欲しかった念願の丸山一号がそこにあったのです。
丸山一号に全身全霊をかけ、どこにも負けない味で勝負したい!という山本さんの情熱が伝わり、ようやく一枝分けてもらえました。その後、北山さんから、2000本もの苗木を譲り受けました。

今や、約2ヘクタールを開墾し、5000本もの丸山一号で埋め尽くされた「豊島みかん」は、太陽の子です。瀬戸の海からの潮風をうけ、豊島の中でも日照時間の長い南向きに面した立地に果樹園はあります。肥料にもこだわり、動植物有機肥料を使用し、ノーワックスで新鮮な品質をお届けするようにしています。
収穫を迎える11月には、豊かな島がオレンジ色に染まり、みかんの枝越しにきらきら光る瀬戸の海がありました。

『豊島みかん』復活への思い

「豊島みかん」ブランドを復活させたい!
山本さんが、出荷作業している倉庫には、多くの「小豆島みかん」と印刷された箱が積まれていました。傍らには、「豊島みかん 瀬戸内国際芸術祭開催地 食とアートの島」と印刷された、たくさんの箱があり、中には美味しそうなみかんが並べられていました。
「山本さん、箱の名前変えたんですか?」と尋ねると、「今年は、芸術祭のおかげで多くの人とふれあい、本当に楽しかった。この夏は、多くの人が豊島を訪れてくれ、島には活気があってにぎやかでした。この芸術祭を機に、食とアートの島を掲げ、豊島みかんブランドを復活させたいんや」と意気込みを見せてくれました。

「瀬戸内海で大量不法投棄摘発」のニュースが、世界を駆け巡った日。
産業廃棄物の不法投棄事件が発覚し、兵庫県警が1990年(平成2年)11月16日、産業廃棄物を大量に不法投棄した事業者に対し、強制捜査に入って以降、「ごみの島」とも呼ばれ、農業、水産業など多くの生産者達は、風評被害に遭いました。
主要農産物のみかんも、『豊島みかん』では商売にはならないから、ブランドの変更を求められました。断腸の思いでブランドの名を『小豆島みかん』に変更し、『豊島』の名前を伏せ続けてきました。

約5年前、そろそろ豊島ブランドを復活をさせていいかと、問屋に打診したところ、
京阪神には『豊島みかん』のブランドで出荷できるようになりましたが、一部の問屋からは、『小豆島みかん』のブランドが消費者に定着しているので急には……、となかなか許可がおりない状況が続いています。
豊島みかんブランドが復活するには、まだまだ時間がかかりそうですが、消費者の中には、名前や見た目でなく、豊島みかんの味に惚れ、山本さんの栽培するみかんを求めて購入する人が増えるに違いありません。

2000年に公害調停が成立、2003年に本格的に廃棄物の処理が始まりました。2010年6月6日に公害調停10年を迎えました。2010年1月、香川県は、汚染土壌の水洗浄処理と、廃棄物の焼却・溶融処理を並行して行うと提案。8月1日、住民と県は、産廃直下土壌の島外での水洗浄処理実施を盛り込んだ合意文書に調印しました。
2012年の完全撤廃へ向けて処理が急がれる中、『豊島みかん』ブランドの復活を目指した山本さんの戦いは続きます。

山本さんをはじめ豊島の人達が、住民運動で戦い、流してきた涙の数だけ、今年の秋も島をオレンジ色に染める、『豊島みかん』がたわわに実ることでしょう。
島の負の歴史の上で開催された現代アートの祭典をきっかけに、『豊島みかん』が人と人との絆を繋げ、多くの人達に、島の魅力を伝えていくことを願わずにはいられません。
豊かさとは何かを問い続けながら…。

 

山本果樹園
住所:〒761-4661 香川県小豆郡土庄町豊島唐櫃937-1

山本彰治(やまもとしょうじ)

TEL:0879-68-2430

FAX:0879-68-2805
E-mail:yamamoto@teshimamikan.com