ピエール・エルメのILLUSION。
新作コレクション発表会

(2012.09.24)

マリニー劇場でのイリュージョン

バカンス明けの9月は、様々なお店がノエルなどの新作発表会を行います。各メゾンがそれぞれ趣向をこらした発表をしますが、その中でも毎年注目を集めているのがピエール・エルメです。今年のテーマは「illusion(イリュージョン)」。昨年はパリ国立高等美術学校が会場でしたが、今年はシャンゼリゼ通りにあるマリニー劇場です。劇場に着くと、黒い仮面をつけた黒子のような女性がやってきて突然腕を組み「イヒヒヒ」と笑うではありませんか。そして一緒に駆け足でillusionとかかれた扉の前までやってきました。その扉を明けると中は真っ暗。そこには鏡のマジックで、一周するごとにその姿を変えるノエルのビュッシュ、新作のマカロン等が並んでいます。その様子はまさにイリュージョンです。

新作のビュッシュは Gâteau Noël à la montagne(山のノエルのケーキ)です。ショコラ風味のビスキュイと砕いたアーモンド、ショコラのムースに、ショコラノワールのかけらとフルール・ド・セル(塩の華)。ムースに使うショコラはペルー北西部にあるモロポンで収穫されたものです。苦く、力強く、そして余韻の長いこのショコラ。発見したカカオの中でも、最も新しいそうです。ショコラ好きの期待を裏切らない味わいと風味。見た目も楽しく、ノエルの夜、そして家族や友人たちと過ごす年末にふさわしいケーキです。

会場はシャンゼリゼ通りに面するマリニー劇場。
ノエルの新作ケーキ『Noël à la montagne』。12月8日より販売。
2013年のマカロンは『les jardins(庭園)』

もうひとつ注目のビュッシュがBûche Petit Baba Noël。ババ・オ・ラムがビュッシュになったものです。通常のババとは正反対の構成。ラム酒をしっかりと吸い込んだババ生地を、キャラメリゼしたヘーゼルナッツのプラリネクリームで閉じ込め、さらにヘーゼルナッツのメレンゲで仕上げています。さくりとしたメレンゲと、ジュワッとラム酒が溢れるババ生地とのコントラスト、そして香ばしいナッツの甘みとラム酒の豊かな香りが広がります。

今年のガレット・デ・ロワは黒糖とマロングラッセのアーモンドクリーム。和菓子を思わせるようなほっくりとした甘みと風味は、フランス人にも好評でした。そしてバレンタインにはジャスミンのタルト『Tarte Coeur Infiniment Jasmin』。さっくりとしたタルト生地に、ジャスミン風味のガナッシュ、ジャスミンティーに浸したビスキュイ、そしてジャスミン風味のマスカルポーネクリームを重ねたもの。ジャスミンの爽やかな香りと、白色が美しいタルトです。

2013年のマカロンは『Les Jardins(庭園)』をテーマにして展開されます。ひとつのフレーバーが月ごとに発表されます。例えば1月はグレープフルーツ&クローブ&グレープフルーツのコンフィの組み合わせ『Jardin Pamplemousse(グレープフルーツの庭)』。桜が満開になる4月は『Jardin Japonais(日本の庭)』。グリオットの酸味、レモンの皮の苦みとトンカ豆の組み合わせで、桜の花の味わいを表現しています。驚いたのは6月の『Jardin Potager(野菜畑の庭)』。リンゴとミント、そして何ときゅうりとロケットを合わせたものです。その味わいは何とも不思議。きゅうりの風味を感じながらも、きちんとお菓子として成立しているのがエルメ氏のすごいところです。9月の『Jardin Merveilleux(魔法の庭園)』はマンダリン風味のオリーブオイルときゅうりの水。どれも個性的なフレーバーで、毎月通ってしまいそうです。

右手前がジャスミンのタルト。右奥はババ・オ・ラムのビュッシュ。
マンダリン風味のオリーブオイル&きゅうりの水など、素材の組み合わせから庭園をつくりあげたマカロン。
ひとつのフレーバーをテーマに展開する「FETISH(フェティッシュ)」

エルメ氏は「FETISH(フェティッシュ)」という年間テーマを掲げ、期間限定でひとつのフレーバーをクローズアップしています。フェティッシュとは「盲目的な崇拝物」という意味。例えば「数」という単語の numéro のあとにフェティッシュが付くと、ラッキーナンバーという意味になります。9月4日から10月21日までのテーマはレモン。タルト、ミルフィーユ、ババ、チーズケーキなど13種類のお菓子が展開されています。ケーキの中のケーキと表現されるのはアンフィニマン・シトロン。サクサクのメレンゲ、2種類のクリーム、ジュレ、コンフィ、タルト生地、全てのパーツにレモンが使われています。ミルフィーユの真ん中の層はレモン風味のサブレとマーマレードになっていたり、レモンチェロで浸したババには、コンフィ、ジュレ、さらにフレッシュな果肉を加えたりと、ほろ苦さや酸味、レモン丸ごとの味わいを引き出しています。10月23日から12月2日までは、ミルクチョコレートとパッションフルーツの組み合わせ『モカドール』。こちらはモカドール風味のショコラショーも登場予定です。

レモンという素材の味わいを丸ごといかしたフェティッシュ・シトロン。
次回はミルクチョコレート&パッションフルーツの組み合わせ「モカドール」にスポットがあたります。
子どもから大人まで大好きなタルティネ

また9月から発売されているのは、プラリネ風味のパート・ア・タルティネの『ピエトラ』。パート・ア・タルティネとはミルクパンやバゲッドなどに塗るクリームのことで、フランスで絶大な人気を誇るイタリア生まれのヌテラもそのひとつ。フランス人ならば、おそらくこの味を知らない人はいないでしょう。そのエルメ版となれば、食いしんぼうが見逃すはずがありません。ピエトラとはキャラメリゼしたピエモン産のヘーゼルナッツを加えたプラリネで、エルメ氏オリジナル。これを作るまでに3年という時間がかかったそうです。パン・ド・カンパーニュやふわふわのブリオッシュに合わせてもおいしいとか。スプーンですくって食べると、止まらなくなるので危険です。またバラ&ライチ&フランボワーズの組み合わせ「イスパハン」のグラノーラも登場。朝ご飯が楽しみになりそうなアイテムです。

いつもわくわく感や驚きを与えてくれるエルメ氏のお菓子。最初は新しいフレーバーでも定番となり、クラシックとなっていく。これからも楽しみなピエール・エルメです。

フランス人が愛するプラリネクリーム。エルメ氏の手にかかったタルティネはリッチな味わいです。
ピエール・エルメ

本店:72, rue Bonaparte 75006 Paris (ほかに支店あり)
メトロ Saint-Sulpice 4番線
Tel:+81(1) 43 54 47 77
営業時間:日~水曜10:00~19:00、木・金曜~19:30、土曜~20:00