旨くないものを口にするほど人生は長くない - 3 - 正しく“飲んで”
『メドック・マラソン』完走!

(2009.10.13)

生誕45周年を記念し、北緯45度の地で『メドック・マラソン』に参加して来ました。と言っても、子供の頃から走るの大キライ、学校のマラソン大会はサボるのが信条だった脱力派。そんな私を現地に向かわせたのは、「途中で車や自転車に乗り換える人あり、ショートカットあり、完走しなくても充分楽しい」という昨年出場者からの甘い言葉でした。確かに、各国から集まった人々が仮装して走る様子を眺めるのは面白い。そして、サーキットはボルドーワインの銘醸地メドックのサン・ジュリアン、ポイヤック、サンテステフ!!  給水所となるシャトーでは、水やフルーツの他に、ワインが供される贅沢。目の前のニンジンなくして一歩も踏み出さない私のような向きには格好の動機づけです。ワインと雰囲気を楽しめれば、全部走らなくても参加の甲斐ありと目し、エントリーしました。

ボルドーワインの銘醸地メドックで開催。『メドック・マラソン』

結果はまさかの完走でした。これ、ひとえにワインのお蔭と思ってます。おっかなびっくりトレーニングを始めた4月の時点では2キロ程度でギブアップ。その後、週末に多摩川土手などで騙し騙し走行距離を延ばしてみても、せいぜい20キロ台が限界でした。しかし!! アルコール摂取は、足の疲れや痛みを感じさせない麻酔の役目を果たすのです。加えて、お祭り気分に浸りつつ最後まで飽きないテンションをキープさせる適度な致酔性。医師団の協会『Association des médecins marathoniens du Médoc』が出した公式結論は、「定期的な運動や適度なランニングが身体に良いように、適量のメドックワインを日常的に飲むことも健康に良い」というものだそう。正しく飲めばスポーツ時の飲酒は毒ではありません。

ピカチュウならぬガソリン注入チュウ!

メドック・マラソンの醍醐味は、もうひとつ。仮装することによって生まれる赤の他人との交流でしょう。私の場合、一度だけピカチューと呼ばれてしまう汚点を残したものの、誰の目にも判りやすいカエルになったのは正解でした。話しかけられ、写真を撮られ、指差して笑われ、各国ランナー達とのコミュニケーションが生まれます。沿道ギャラリーからは「Allez! Grenouille (Go! Frog)」の声援を浴び、特に子供たちからは多大な人気。ゼッケンの記名を見て、「Allez! Saori」と名指しで応援してくれるのも嬉しかったなぁ。特に同年代のおばさん達。きっと共感して貰えたのかしら。ギャラリーもギャラリーで、仮装していたり、椅子とテーブル出して酒飲んでいたりと、おキラクそのもの。個人主義で他人に関心なさそうなフランス人が、こんなにも応援してくれるのは、観る側もお祭りモード入ってるからなんだろうな。

この雰囲気、どこか懐かしい……と思ったら、ドイツの「ファッシング」(カーニバル)でした。世界的に有名なベネチアやリオのラテン系カーニバルは美しさを競うイメージだけど、ドイツでいくつも見たゲルマン系のそれは一味違い、どちらかというと、タワけた格好で羽目を外して騒ぐ印象でした。このマラソンも、人々の衣装と言い、手作りの山車を引っ張って走る姿と言い、まさにそんな感じ。

乗り物で参加、もアリです。

約8,000人の参加者の国別構成を見ると、地元フランスが5,000人以上なのは当然として、近隣からはドイツ、ベルギー、イギリスや北欧が多く、イタリア、スペインなどのラテン勢が少ないのは、このノリの違いのせい?日本人は、アニメやアキバのイメージから、別の意味でコスプレお家芸みたいに思われているからね。これはこれで、すんなり受け入れられているような気がしましたよ。

数字以外にコマ切れの目標をクリアしていける仕組みも良かったです。超一流シャトーだからと言って、高級ワインが用意されているとは限らない。気前よくメインブランドのマグナムを出すシャトーもあれば、セカンド、サードどころか瓶詰めされていないワインをホースで引っ張ってサーブしていたシャトーもありました。最初のうちは何でも飲んでいたけど、次第に目ぼしいものを選んで手を出すように。「これは飲まなくてもいいや」とパスすると、「次のシャトーでこそ!」と、新たな目標に向かい更に前進する気力が湧く。運営のワナにまんまと嵌ったのかな。それと、瞬発的なスピードを誘発するモチベーション喚起。仮装といえば女装、という発想のオヤジはグローバルに分布しているらしく、毛むくじゃらのお尻をプリプリ振って走るTバックのおじさん集団が目の前に現れれば、絶対に抜き去って景観を変えたいとスピードアップ。気温と体温の上昇によりスパイシーな体臭を撒き散らしている人に隣に付けられれば、何とか環境改善しようとスピードアップ。これらの要因が私をゴールに近づけたのは間違いない。42,195kmという気の遠くなるような距離のゴール地点を目標に置くと目眩がしてヤル気がなくなるもんね。

実は、私を完走へと導いてくれたバイブルが『正しく“歩いて”東京マラソン完走』という本。当初は、まともに走る気サラサラなかった私に、今年東京マラソンを完走した友人が薦めてくれました。ユルい気持ちで疲れずに走る極意が記されています。ワインは飲みたいし、コースの終盤で出てくるオードブルからデザートもつまみたい!! ならば、初心者と言えども、全力出し切って疲れない余裕を残さねばならないのは鉄則。肝心の食欲を残せるか心配だった私も、このバイブルのお蔭で、バイヨンヌの生ハムが出てくる36km過ぎの地点でも、まだまだ元気でした。

36km過ぎの地点でも余裕でバイヨンヌの生ハムを。

ここからはもう、ゆったりギアにシフトして食べつ飲みつ、踊ってみたりスキップしてみたりダラダラと。人の目が集まるゴールのレッドカーペット部分はポーズで走ってみましたが、ゴールゲートの定点カメラで撮影されていたことを後から知り、正しい判断だったと自分を褒めてあげました。タイムはちょうど6時間ほど。でも自分の力量を予め知っていたら、もっと前半からシャトーで写真撮り合うなどして盛り上がり、制限時間の6時間半たっぷり使って楽しめば良かったと思いました。

牡蠣に群がるランナー達。

それにしても不思議だったのは、トイレに全く人が並んでいなかったこと。スタート前には、男性は列をなして駐車場の壁やジロンド川に向かって放水していたけど、往く道々、畑に駆け込むのは男女区別なし。何年か経って、「シャトー○○の畑に施肥した」という思い出とともに飲むワインの味もまた格別だろうなあという考えが頭を過ったものの、その勇気がなかった小心者の私でした。外国メディアが集まるこのイベントに向け、各シャトーは外ヅラを気にして普段になく綺麗に掃除するのがメリットだと、前日、地域住民から聞いたばかりで、とてもそんなことは……。

今年は25周年とあって、ゴールした際に、定例のメダルとワイン1本の他、ロゴ入りデカンタを貰えたのはラッキーでした。なので何の不満もありませんが、照りつける太陽の下、タンニンの効いた赤ワインはさほど嬉しいものではなく、できたら低アルコールでリンゴ酸の鮮烈な白で喉を潤したいなあ、という贅沢を考えてしまいました。まあ、でもモーゼルの急傾面を走ったら、事故多発で大惨事でしょうね。

ということで、先月はカリフォルニアとボルドーで赤ワイン月間だったので、今月は白を中心に楽しみます。秋の味覚と熟成リースリングなどはいかが?
『Riesling Ring Evening』http://rieslingring.blogspot.com/

同年代のみなさま。短い人生、筋肉も肝臓も胃袋も、この先どれだけ持ち主の言うことを聞いてくれるか判りません。悔いのないよう、美味しそうなものを見つけたらカエルのように果敢に飛びつきましょう。

『メドック・マラソン2009』のディプロマ。