from 大阪 – 10 –
イタリア料理店L’API × 日本酒餐昧うつつよ
イタリアンと日本酒の
しあわせな関係。

(2013.12.16)

ドルチェ × 熟成させた山廃純米酒

「ふぅう、おいしいなあ…」。

前菜、お魚料理、パスタ、パスタ、メインのお肉。もう食べられん…。と幸せの絶頂期を迎えていたはずなのですが、最後に出されたドルチェと一杯のお酒に心奪われました。

平成9年に醸造された、福岡は三井の寿という蔵元の山廃純米No.61。極上のヴィンサントを思わせる外観ながら、香りにはシェリーやヴァンジョーヌのような酸化熟成的ニュアンスもあり、一口含んでみると均整のとれた、豊かで優雅な甘みがしっとりと広がります。

柔らかく風味豊かなマスカルポーネムースとコーヒージェラート。それらの個性を打ち消すことなく盛り立ててくれ、あとからそっと併走してくるような心地よい余韻。一連のコース料理の幕引きとして、これ以上ない存在でした。

日本酒専門店の店主が惚れ込んだイタリア料理

のっけからやや興奮気味な描写で始めてしまいましたが、今回はイタリア料理と日本酒のコラボイベント「イタリアンと日本酒を楽しむ会」へ。靭公園近くにある人気イタリア料理店『L’API』の宮川シェフがイタリア料理を、そして本町にあって夜毎日本酒好きが集まる『日本酒餐昧うつつよ』の藤井さんが日本酒をセレクトするという、イタリアン好きにも日本酒好きにもたまらない一夜に。

そもそも会のきっかけとなったのは、『日本酒餐昧うつつよ』店主・藤井さんがプライベートで『L’API』を訪れるうちに、「いつか宮川シェフのお料理にあわせて日本酒を飲んでみたい」と思ったからだとか。

今でこそ日本酒のプロとして知られる藤井さんですが、料理人として修業をスタートさせたのはフレンチレストラン。洋食の世界で腕を磨き、日本酒の世界で切磋琢磨する藤井さんだからこそ感じられる、イタリアンと日本酒のしあわせな関係。美味しいものは国境を超えて結ばれるのでしょうか。

会場である『日本酒餐昧うつつよ』には、日本酒好き、イタリアン好き、ワイン好き、そしてプロの料理人も(!?)いろんな方々が集まっていました。

イタリア料理店L’API宮川シェフ
イタリア料理店L’API宮川シェフ
日本酒餐昧うつつよ店主・藤井さん(左
日本酒餐昧うつつよ店主・藤井さん(左
金魚すくいをするような気持ちで

乾杯は高知・安芸虎「素」純米吟醸活性にごり。まっすぐ立ちのぼる軽快な泡にひっぱられるように、米のうまみがじんわりと。アオリイカとカブラにリコッタチーズとイチゴのソースを添えた前菜は、一口で食べてしまうのがもったいないほどの愛らしい美味しさ。

二品目は和牛テールのシードル煮で、さつま芋とリンゴのテリーヌを挟み込んだもの。お酒は秋田・新政「桃ヤマユ」純米吟醸。果実を思わせる軽やかな酸と甘みが、やはり果実の旨みをまとった和牛テールにぴたりと寄り添います。

お魚料理は金目鯛のヴァポーレ(蒸したもの)、白インゲン豆。ムチムチとした身質は柔らかくふくよか、優しい旨みが閉じ込められていて、白インゲン豆のホクホク感ともども幸せな気分に。愛媛・石鎚の純米吟醸 袋吊りしずく酒には腰の据わった厚みがあり、金目鯛を受け止めながらそれを優しく包み込むような懐の深さが印象的。

ここまでで感じたのは、お料理はいい素材をなるべくそのまま活かしつつ、優しくふんわりとした仕上がりになっていること。なにかが突出するのではなく、でも決して無個性なわけではなく。ゆるやかな起伏と勾配のもと味わいが広がっていき、香りが鼻を抜け、そしてまたそれらが一体化してじんわりとした余韻に昇華していく、まるでスローモーションビデオを見ているかのような錯覚。

そこにあわせる日本酒は厳しさや辛辣さ、荒々しさではなく、包容性、柔軟な味幅、淡く儚い繊細なタッチのもの。金魚すくいをするような気持ちで優しく、丁寧に、そっと日本酒と料理をあわせていくと…。時間よ止まれ!と思わずにはいられません。

フルーツを使ったお料理にも日本酒を
フルーツを使ったお料理にも日本酒を
魚がもつ淡い旨みをお酒が引き立たせます
魚がもつ淡い旨みをお酒が引き立たせます
温度変化で遊べる“日本酒”

つづいてパスタの登場。足赤エビと黒キャベツのピチ。ごつごつとした太麺はうどんを思わせるボリューム感、エビの旨みを全身に浴びてなんとも誇らしげな佇まい。あわせたお酒は福岡・田中六五の純米をぬる燗で。ほっこりとほぐれた味わいはさながらお出汁のようでもあり、海の幸とも違和感なくつるんでいました。

もうひとつのパスタはウニのクリームソースにまみれたニョッキ・パリジーナ。艶やかなクリーム色のソースにもちもちのニョッキが転がり、しかもウニの風味が漂っているなんて。見ただけでもうお皿に顔を埋めてしまいたくなるほど。そして香りを嗅いで、さらに深いため息が漏れるばかり…。

しかしこの日はただ料理を楽しむのではなく、日本酒とあわせてみて、もっと楽しくなるよね?というのを実感してもらおうという一日。ただでさえ旨いこのニョッキにあわせたのは、香川・勇心純米吟醸14号生。

黒キャベツの香りが食欲をそそります
黒キャベツの香りが食欲をそそります
このビジュアル、そしてこの香り!
このビジュアル、そしてこの香り!

お米からできたお酒なのに、カカオを思わせる香ばしいニュアンス。アタックから充実したふくらみがあり、丸く、柔らかく、調和がとれていてふくよか。いや、そんな形容詞を並べたところでかえって分かりにくいかもしれません。一言でいうと、とにかく“満足度が高いお酒”なんです。

たとえるなら160km近いスピードボールとフルスイングによる三球勝負。ストライクゾーンに勢いよく投げ込まれたボール(ニョッキ・ウニのクリームソース)を、ホームランバッター(勇心純米吟醸14号生)が豪快なフルスイングで迎えうつみたいな…。

野球のたとえで続けると、最後の一皿は技巧派投手vsベテラン安打製造機といえるかもしれません。茨城産鳩のムネ肉ローストとモモ煮込みにレバーペースト。緩急を使いながら五感の内外角を突いてくる鳩肉はなんとも悩ましい美味しさで、執拗に酒を呼ぶレバーペーストもまた老獪な一品。お酒は大阪・秋鹿「奥鹿」山廃純米21BYをお燗で。派手さはないものの飲み手を引きつけてやまない、じわりとにじり寄るような旨みはまさに粘り腰のあるお酒。気が付いたらお猪口が空っぽになってしまう大阪が誇る銘酒は、場の雰囲気をずいぶん和やかなものにしてくれました。

また日本酒特有の“燗酒”による旨みの拡充・発散も見逃せない要素でした。お料理の温かさにも寄り添いますし、また常温では姿を現さなかった旨みが、とくに濃厚なお肉料理の伴侶として大活躍だったこと。

ブルネッロが飲みたい!という素直な声も
ブルネッロが飲みたい!という素直な声も
40℃以上のお燗にすることで本領発揮
40℃以上のお燗にすることで本領発揮
美味しいお料理と美味しいお酒は国境を超える

そんなこんなで十分楽しませていただいたあとに、冒頭のドルチェと熟成酒でさらに唸らされた今回のコラボイベント。イタリアンと日本酒、本来あまり相容れないジャンルでありながらも、素材に真摯に向き合い調理法を吟味したうえであわせれば、ワインとのマリアージュのような相乗効果は得られるのだと実感しました。

もちろん逆もしかり。日本の伝統的な和食にワイン、お蕎麦にワイン、お好み焼にワインだって全然アリですし、実際に素晴らしい相乗効果を体感させてくれるお店は、大阪はじめ関西にもたくさんあります。

多くの人と情報が国境をこえて行き交うようになった現代、料理においてもかつてのようなジャンル分けはあまり意味をなさないのではないか、という意見もあります。典型的な古典料理を学び、その伝統を尊重して伝えていくことはもちろん大切ですが、同時にその古典から解き放たれ、新しい発想で料理を構築していく。その人が育った、その人が生活している土地の食材に目を向けながら。これもまた非常にエキサイティングなことだと思います。

今回コラボした『L’API』宮川シェフは愛媛県出身で、『うつつよ』店主・藤井さんは香川県出身。自分の生まれ育った故郷の食材やお酒に愛情と誇りをもち、それを大切に伝えていこうとする姿勢は、人となりも含めてとても共通していたように思います。

国境を越えて広がる様々な料理方法やお酒の種類。一方で各地域に代々伝わる伝統料理とその地方ならではの食材や飲み物。風俗、宗教、文化のなかをめまぐるしく潜り抜け、そしてグローバリズムとローカリズムが複雑に絡み合う現代の「料理とお酒」ほど、おもしろいものはないんじゃないでしょうか。などと、ほろ酔い気分の頭でこれからの自分の仕事について思いを巡らせたりするのでした。

日本各地、そして世界中から美味しいものが集まってくる大阪。と同時に、大阪ならではの美味しいものを産み出している大阪。人もしかりだと思います。どこかの洋酒メーカーではありませんが「やってみなはれ」の精神が息づくチャレンジ精神旺盛な街・OSAKA。ますますエネルギッシュに濃くなっていく大阪へ、ぜひ遊びに来てください!

両店スタッフさんのサーヴィスも温かい
両店スタッフさんのサーヴィスも温かい
靴を脱いで寛げる空間。お店の設えも素敵です
靴を脱いで寛げる空間。お店の設えも素敵です

イタリア料理店L’API
大阪市西区京町堀2-3-4 サンヤマト2F
TEL:06-6447-7884
営業時間:[水~金]11:30~13:30(L.O)、18:00~21:30(L.O)
     [土・日]12:00~13:00(L.O)、18:00~21:30(L.O)
定休日:月曜日(月1回火曜日不定休
※まことに残念ながらイタリア料理店L’APIさんは2014年1月末で閉店となります。今後は故郷である愛媛県松山市に戻られて、同じ店名で再開されるとのことです。

日本酒餐昧うつつよ
大阪市中央区本町3丁目2-1 2F
TEL:06-6281-8322
営業時間:17:30~23:30(L.O.22:30)
定休日:日曜日・祝日の月曜日