Bon Vivant! - 2 - サクランボの実る頃。

(2010.04.13)

バニュルスを離れ、次に訪れたのは同じく南仏にあるBédarieux(ベダリュー)。
ここに2003年から自然派ワインを造り始めたドイツ出身の
Axel PRÜFER(アクセル・プリュファー)のドメーヌ
「Le Temps des Cerises(ル・タン・デ・スリーズ)」があります。

2005年から始めた畑Colombière(コロンビア)。幻想的な景色です。

訪れるきっかけとなったのは、
3月中旬に、ル・カゾ・デ・マイヨールのジスレーヌが、
ベダリューにあるワインショップ
『Chai Christine Cannac(シェ・クリスティーヌ・カナック)』
のオーナーであるクリスティーヌから

「アクセルが腰を痛めて、まだ剪定作業を始めていない……」
という話を聞いたことから。

美味しいワインが楽しめるお店『Chai Christine Cannac』。

ル・カゾ・デ・マイヨールでの剪定もそろそろ終わりを迎え、
次の行き先を考えていた矢先だったため、
これも何かのご縁、と喜んでお手伝いすることとなりました。

通常だと3月中に剪定作業を終わらせることがベストなのですが、
3月中旬にまだ剪定を始めてないということを知ったアランはとても心配な様子。
そして、私を送り届けると共に皆で剪定を手伝おう、ということに。
自分の畑仕事もあるというのに、仲間の事を一番に想うアランは
本当に人間的にも素晴らしい人です。
アランの元で研修できて本当に良かったと心から思った瞬間でした。

アクセルとは自然派ワインサロンで何度か会ったことがあり、
自然体でとても親切な人だなぁというのが第一印象です。
ジスレーヌが
「アクセルはストレスのないゆったりした人よ。」
というのが納得できます。

剪定作業が始まってないのに、本人はイライラすることなく
むしろ周りにいる人のほうがハラハラしていたのではないでしょうか。

3月18日午前5時半、
アランと私、研修生を含めた3人はアランの運転する車でベダリューに向かいました。
バニュルスから車で走ること4時間。
風光明媚な山の中にアクセルの家はひっそりと佇んでいます。
お隣の大家さんのヤギ、豚、鶏がさらに大自然を演出してくれます。
 

家の目の前にいる子豚たち。
ヤギの大家族。
大家さんが作るヤギのチーズは絶品です。
大家さん以外の人が近寄ると逃げる鶏。

畑は現在約9ha(ヘクタール)ほどで
ほとんどの畑は家から車で30分ほどの場所に点在しており、
樹齢60年以上の古樹ばかりです。
 

 

Poujol(プジョル)という畑にはミモザがきれいに咲いています。
畑にはクローバーが自然に繁殖しています。

品種はGrenache Noir(グルナッシュ・ノワール)、Carignan(カリニャン)、
Cinsault(サンソー)、Aramon(アラモン)などなど。
Gobelet(ゴブレ)やCordon de Royat(コルドン・ドゥ・ロイヤ)で仕立てており、
それぞれの剪定は一つの枝に2芽しか残しません。
こうすることで、より美味しいブドウだけを育てます。

コルドン・ドゥ・ロイヤ 剪定前。
コルドン・ドゥ・ロイヤ 剪定後。
コルドン・ドゥ・ロイヤ 剪定後、拡大。

今年購入したばかりで、家から歩ける距離の場所にある畑2haには
Chardonnay(シャルドネ)が植えられています。

昨年まで白ワイン用の有機栽培のブドウを購入していたのですが、
今年からは自分の畑のブドウでワインが造れると、喜んでいました。
この畑は有機農法でなかったので、早速牛の糞を畝に撒き、
良い土壌になるように土作りに力をいれています。
新鮮な牛の糞をそのまま畑に撒き、
約3ヶ月後には自然とコンポスト(肥料)になるのだそうです。
もちろん牛の糞は有機のものを使用しています。

一畝ごとに牛糞を撒いています。

この畑は、垣根仕立てのGuyot(ギュイヨ)で、
長い枝を1本残し、短い枝を2本残す剪定です。
南仏に多くみられるゴブレとは違い、Fil de Fer(フィル・ドゥ・フェー)という
針金の柵がブドウの樹を囲んでいます。
その為、剪定にも少し時間がかかりますが、
ブドウの数をコントロールできるというメリットもあります。

アクセルの畑にはブドウの収量がなんと10hl(ヘクトリットル)という
低収量な畑もあるため、もう少しブドウを実らせたいようです。
丁寧な仕事から出来る美味しいブドウから
少しでも多くの美味しいワインが出来るのを
誰よりも願っているのはもちろん、造り手本人。
美味しいブドウがもう少しだけ、増えますように。

アクセルの畑は全て有機農法を行い、化学物質は一切使用していません。
さらに「フィトセラピー」という植物療法を行っています。

「フィトテラピー」とは、
「アロマテラピー(精油)とハーバリズム(ハーブ)という
植物性の薬理作用物質を応用して、病気や体の不調、皮膚の不調等をケアするもの。
植物成分が人間本来に備わっている自然治癒力に働きかける予防療法。
1万年前のエジプトで生まれ、その後、メリポタミアを経てヨーロッパで発達。
薬草療法を科学の中に取り入れたフランスの医師
ヘンリ・レクリック(1870~1955)により植物療法という学問となった。
近代医学では得られない自然療法として現代に受け継がれている。」

主に人に施す療法ですが、アクセルはブドウの樹も人間と同じと考えています。
使用するハーブは彼自身が山から採取し、調合しています。
採取する植物は、イラクサ、トクサ、ラベンダー、タイム、松などなど。
いつか機会があれば、実際に調合作業を見てみたいです。

さて、
剪定もそろそろ終盤を迎えた4月1日に2009年の白と赤の瓶詰作業を行いました。
本数は白・赤合わせて約1400本。電気は一切使わず、タンクの高さを利用し、重力だけを使ってワインを瓶詰めしていきます。コルクも手動の機械を使い、1本1本丁寧に作業していきます。全てが手作業なので、途中でコルクの機械が2回も止まったりしましたが、これも手作業ならではのハプニングです。

白ワインは「La Peur du Rouge(ラ・ピュー・デュ・ルージュ)」ビオニエ主体、
赤ワインは「Fou du Roi(フゥ・デュ・ロワ)」というキュベで
品種はグルナッシュ・ノワール、カリニャン、サンソー。
白・赤共に、Macération Carbonique(マセラシオン・カルボニック)を行っています。
白ワインは6週間も行ったそうですが、
実は置き忘れていたそうです……、なんともアクセルらしいです。

マセラシオン・カルボニックとは、
「ブドウを破砕せず房のまま炭酸ガス( 二酸化炭素 )で満ちたタンクに入れ主醗酵の前に色素等を抽出する醸造工程」

この方法により、色鮮やかでタンニンが少なめのワインが造られます。
多くの自然派ワインの造り手が行っている醸造方法でタンニンが少なめになることで
よりエレガントなワインに仕上がるのが特徴です。

アクセルのワインはいつもじんわりと優しい味わいです。
太陽の日差しが多い南仏ではタンニンが強いワインが多いため、
アクセルのワインはいい意味で全く南仏らしさを感じさせません。
自然派ワインには造り手の個性が反映すると、私は感じます。

私の一番お気に入りのキュベ「Avanti Popolo(アバンティ・ポポロ)」。

アクセルは音楽が大好きで趣味でクラリネットを習い、
奥様も子供達も音楽が大好きです。
先日も長女のSascha(サシャ)ちゃんと共に、
仲間たちと演奏会を行っていました。
クラリネット、サックス、トランペット、トロンボーン、フルート、ドラムにギターなど子供から大人まで、様々な楽器で音を奏でるほのぼのした演奏会でした。

左上がアクセル、やや真ん中がサシャちゃん 二人とも真剣です。

また、料理も大好きで、ほとんど毎晩違った料理を作ってくれます。
料理好きのお母さん譲りだそうで、いろいろな国の料理にも興味津々です。
キッチンにはいろいろな香辛料や酢、美味しいオリーブオイル、野生の黒コショウなど
好奇心をくすぐるものばかり。
日本の珍しいお酢や醤油などもあり、
日本人以上に美味しい日本を知っているのではないでしょうか。

家の畑から採れた芽キャベツとBetterave(ベットラーヴ/ビーツ)。
美味しそうな鶏のまるごと焼き。
ドイツから奥様Ute(ウットゥ)のご両親が遊びに来た日、お庭でのひと時。左からおばあさん、アクセル、Camille(カミーユ)、Matilda(マチルダ)、サシャ。

アクセルのワインの美味しさは日常を楽しむことから生まれているようです。

4月6日の晴天の日。
最後に残されたシャルドネの畑の剪定の手伝いに、南仏の造り手達が集まりました。
総勢15名ほどで2haの畑での剪定は和気あいあいです。

Laurence MANYA KRIEF,YOYO
Loïc ROURE,,Domaine du possible
Isabelle FRERE,,Le Scarabe
Stéphane MORIN,,Leonine
Edouard LAFFITTE,Le bout du monde
Philippe WIES,La Petite Baigneuse
Jean Sébastien GIOAN,Potron Minet
などなど。

お昼時には、彼らが持ち寄ったワインと
アクセルとウットゥ、私が作ったキッシュ、ピザ、サラダ、ハムやパテ、チーズなどを
あっという間に平らげました。
青空の下、大勢で食べるご飯はやっぱりどこの国でも美味しいですね。

持ち寄ったワインを飲みながらおしゃべりタイム。

その後、休憩は取らずにあっという間に畑の半分以上の剪定を終えました。
アクセルの心配の種は少し減ったようです。

アクセルがこの地を選んだわけが、少し分かったような気がします。

余談ですが、
「ル・タン・デ・スリーズ」とは「サクランボの実る頃」という意味で、
アクセルの家の周り、畑にも沢山の桜の樹があります。
まだ開花していませんが、4月下旬には桜が咲き始めるそうです。
その頃にまた、お邪魔してみたいと思います。

Le Temps des Cerises(ル・タン・デ・スリーズ)
住所:2 rue du Bernouvrelles 34260 LA TOUR SUR ORB
Tel. 06 87 77 56 37
prufer@web.de

膨らんだ桜の蕾。