ほろ酔い倶楽部 - 2 - 『神の雫』のワインを試飲した! (アロイス・ラゲーデル)

(2009.08.11)

ワイン好きが集まって本音でテイスティングを行う「ほろ酔い倶楽部」、第2回が開催されました。倶楽部の母体はBRUTUS編集部の倉庫で生まれたワイン研究会。ワインライターの柳忠之さん、葉山考太郎さんを筆頭に、ソムリエ、インポーター、造り手たち、総勢約100名が、16年にわたりテイスティング活動を続けてきました。このコーナーでは、会のメンバーによるテイスティングの様子をレポートしていきます。プロによる格付けのためのテイスティングではなく、一般のお酒好きに、お酒の特徴や雰囲気をわかりやすく伝えたいと思っています。また、お酒はワインに限らず、なんでもテイスティングしていくつもりです。ご期待ください。

 

第2回 今回のお題 『神の雫の本間長介』が選ぶワイン。

今回のテイスティング・メンバー

渡辺 ケイ(わたなべ・けい)

メディアやビジネスを通してその普及に心をくだくカリフォルニアワイン・スペシャリスト。渡米とともに現地の美味なるワインに魅了され、フランス一辺倒の日本マーケットにカリフォルニアの素晴らしさを伝えるため日夜奔走。

http://www.vivacalwine.com/

斎藤 富明(さいとう・とみあき)

エヴァワイン ディレクター。メルシャンで約7年日本のワイン「シャトー・メルシャン」ブランドの構築に携わり、個人的にも日本のワインを愛好。本年4月より子会社に出向し、心機一転、輸入ワインビジネスに取り組む。

一瀬 恵(いちのせ・めぐみ)

元ドイツワイン基金(ドイツ農業省の下部団体)の美人広報。英・独・仏語を話し
通訳としても活躍。マガジンハウス社WEBダカーポにて「一瀬恵のパンクなドイツ」好評連載中。

 

はい、今回もお約束のブラインドから始まりました。
『神の雫の本間長介』が選ぶワインに、皆さんの期待が高まります。

まずは神々しくも怪しい光を放つ銀紙に包まれた1〜7までのワインが。

コメンティーター登場
久しぶりのご参加の元カリフォルニアの葡萄姫、渡辺ケイさん、あちこちで声がかかり、美しい笑顔でハグハグしながらもワインを前に座ると、真剣にコメント開始。

渡辺(以下K) 1白。はい、これは繊細でミネラル感あり、ハニーサックルの香りがします。味わいは、酸がとてもきれいですね。2白はマスカット香、酸が高く、すりおろしたりんごのような香りがする のに飲むと味わいはドライ。カリフォルニアのピノグリのようなニュアンスだわ。3白 これもマスカットの香りがします。(と、ここで自己紹介とカリフォルニアワインの話をさらり。)4ロゼ 凄く若々しい、野ばらのブリザーブ、ジャムより煮つめたニュアンス。では、最近取締役になられた斎藤さんはいかがですか?

斎藤(以下S) 1〜3までのワインには共通項がありますね。 きれいな酸を持っている、ミネ ラルがいい仕事をしている。1のワインには味わいの中にかすかな甘味があって、涼しくて土壌が岩のような ところで育った葡萄のようですね。2と3は似たタイプでステンレスタンクの中で実にいい子になった。透明感があります。しいて言うなら2は白い花や柑橘の香り、3は黄桃やハーブの香りがしますね。そして4は重い香り? すもものニュアンス。若いのに落ち着いている。自分 からは主張してこないけれども、捜していると色々な要素があって、口中で広がって行くのを楽しむ、ような……。

本間さんは何やら真剣なような。冷静なような。参加者のお顔を伺いながらも真面目にワインのテイスティングをなさっています。なんだか「神の雫」のご本と違いますねぇ。長介さん、いつから熱く語って下さるのか。

ブラインドテイスティングも進み、そろそろほろ酔いつつも5〜7のワインへ。

ここで遅ればせながら、一瀬女史爽やかに登場。

一瀬(以下I) 5赤は酸が強いけれどきれいで、造りこみすぎていないわ。テロワールを感じます。夏の終わりから秋に飲むと美味しいワインだと思います。6赤。これはミネラルを感じさせるワインですね。食事とあわせるといいですね、 鹿とかの。で、7赤 は煮込み料理にいいかしら。う〜〜ん、今日のワインはドイツ産ではありません! ニューワールドかなぁ。

K 6赤は、これはカリフォルニアにはない香りなの。ちょっとユーカリのような朝鮮人参のような漢方薬のような。(ここで、カリフォルアワインがいかにクリーンに造られているかを力説。)

S 7赤は共感の得られるワイン。今日の中ではグラマーでチャーミング系。葡萄の個性が感じられる。全体的にいえば今回のワインは日本のワインにも通じる微香性タイプ。自己主張が強いのではなく、こちらから捜しに行くと、色々複雑な要素が絡み合って優しく香ってくるような。(総論)
おっ、本間先生は奥ゆかしく品性正しいワインがお好き?
さて今日のワインはどこの産地なんでしょう。イタリアという噂も飛び交っております。

本間先生ご登場前に参加者による、夫々のワインが好きか嫌いかの挙手集計。

司会者:
オーー今日は票が割れていますねぇ。7は好きな人が多いが、他はほぼ半々。。。票が割れているのはなぜ? 夫々のワインがいい線いっているから? どちらともいえない微妙なワインだから?

とここでやっと、本間先生登場です。  

はい、答え合わせをしましょう 
1 ’07 ピノ・グリージョ 2 ’07 ゲヴルツトラミナー 3 ’07 フォゲルマイヤーモスカートジャッロ 4 ’07 ラグレインロゼ 5 ’07 ピノ・ノワール 6 ’04 カベルネ・リゼルバ 7 ’03 リンデンブルグ ラグレイン 全部イタリア・アルトアディジェ州の「アロイス・ラゲーデル」社のワインです。

ラゲーデル家は150年以上の間、ワイン造りにかかわってきた歴史あるワイナリー。アルト・アディジェ最大の街、ボルツァーノから少し南にある小さな村、マグレ(Magre/Margreid)にあります。

ここはイタリアでも北限にある最小の栽培地域のひとつですが、北にあるアルプス山脈からの冷たい風と、地中海の暖かい空気の両方の影響を受ける場所。
夜間は15度まで下がり、夏の昼は40度まで上がるという寒暖の差があり、畑は250〜1000メートルに広がり、土壌は多様性に富みます。アルトは白のスペシャリストと見られていますが、赤もエレガントでアロマ豊かなものに仕上がります。

04年からすべての畑をビオディナミに移行。また、近代的な設備の充実、重力を利用したワイン造り、醸造所は山の岩に沿って建物が造られているので、自然に一定の温度が保たれる、などの工夫があります。あと音楽ですね、バッハを聞きながらワインは育つそうです。太陽発電を導入し、二酸化炭素排出量の削減にも努めています。

と、いいこと尽くめの会社の内容。

この間、プロジェクターを使っての30分の素晴らしく濃密な講義にほろ酔い倶楽部の面々も酔いが醒めたかのように聞き入りました。

しかもここでの本間さんは、長介さんからうって変わり、大学の教授のようなオーラがあふれ、よどみない口調、バリトン並みの声、に、参加者の中から 「う〜〜ん、耳がハートだわ」の声が。

司会者: どうしてここのワインを選ばれたのですか?

時代は変わりました、かつてスーパー何チャラともてはやされた濃くて個性の強いワインより今の時代には質が高く静かに心にしみわたるワインがいいのでは……と。

うん、そうですか、
「アロイス・ラゲーデル」社の志の高さや、静かな味わいのワインの裏にあるバック ボーンに長介さんは惚れちゃったんですね。

本間さんのワインに対する造詣の深さや秘められた情熱に、「神の雫」の亜樹直氏、オキモト・シュウ氏も感心されたのでは?

ご本人は「神の雫」については、「ワインの味わいをビジュアル的に表現して今までにない画期的な作品だと思います」とおっしゃっていました。  

締めくくりは
I 美味しく有意義な会でした。

S 有名な○○氏が言っていたことですが、食事に合わせて飲んでいて一番みんなが飲んでなくなっているワインが結局一番いいワインということだそうです。今日はどうですか?

K 本当に美味しいワインを飲むと、心の琴線にふれて、私本当に、本当に、涙が ぼろぼろでちゃうのよ。

はい、今夜もほろ酔いでした。本間さんありがとうございました。

文責 井上 眞貴子(いのうえ・まきこ)

  

テイスティングデータ

Pinot Grigio ピノ・グリージョ DOC

アルト・アディジェの伝統的に栽培されていたブドウ品種を使ったヴァラエタル・ワイン。それぞれの品種の個性が活きる畑が選ばれ、栽培されています。

生産国 イタリア
蔵元 アロイス・ラゲーデル
生産地 アルト・アディジェ(南チロル)
種類
品種 ピノ・グリージョ100%
醸造、熟成 ステンレス製タンクで発酵させ、4ヶ月間オリと共に熟成させます。
緑に輝く淡黄色。
香り フローラルで、なにかスパイシーな感じのはっきりとして華やかで表現豊かな香り。
味わい 口に含むと豊かな香が広がり、わずかなスモーキーさが、全体を引き締めます。フレッシュでしっかりとしたアフターが感じられます。
価格 2007 750ml 3,800円 外税

Gewurztraminer ゲヴルツトラミナー DOC

アルト・アディジェの伝統的に栽培されていたブドウ品種を使ったヴァラエタル・ワイン。それぞれの品種の個性が活きる畑が選ばれ、栽培されています。

生産国 イタリア
蔵元 アロイス・ラゲーデル
生産地 アルト・アディジェ(南チロル)
種類
品種 ゲヴルツトラミナー100%
醸造、熟成 圧搾の前に短時間の低温浸漬をし、ステンレスタンクで温度をコントロールしながら発酵させます。その後4ヶ月間オリと共に熟成させます。
明るいオレンジがかった輝く淡黄色。
香り 繊細なバラやゼラニウムなどの花の香りとトロピカルフルーツのニュアンスのフレッシュでクリーンな香り。
味わい ブドウ果実の味わいのするフルボディなワインです。エレガントで繊細なビターツイストなどのドライでフレッシュな後味を楽しめます。
サーヴィス説明 良く合う料理:アペリティフ、食後酒として、味がしっかりした前菜(ソーセージ、パテ、テリーヌ)、グリルした魚、甲殻類、アジア料理、チーズ。
価格 2006 750ml 4,100円 (税別)

Vogelmaier Moscato Giallo フォゲルマイヤー モスカート ジャッロ DOC

しっかりとした個性を持つテロワールのそれぞれの畑にあったブドウが選ばれて、個別に醸造・熟成されたシングル・ヴィンヤード・ワインです。それぞれのテロワールの個性が生きた、表情豊かなワインとなっています。

生産国 イタリア
蔵元 アロイス・ラゲーデル
生産地 アルト・アディジェ(南チロル)
種類
品種 イエロー・マスカット100%
醸造、熟成 ステンレス製タンクで発酵させ、4ヶ月間オリとともに熟成させます。
緑がかった輝く淡黄色。
香り フレッシュで清潔感のある香り。フローラルさとややトロピカルなフルーツの香りが特徴的。
味わい しっかりとしたフレッシュ感、バランスのとれたミディアムボディでドライな味わい。長く力強い余韻が楽しめます。
サーヴィス説明 良く合う料理:アペリティフ、食後酒として、味がしっかりした前菜(ソーセージ、パテ、テリーヌ)、グリルした魚(特にマグロ)、アジア料理、チーズ。
価格 2006 750ml 4,300円(税別)

Lagrein Rose ラグレイン ロゼ DOC

アルト・アディジェの伝統的に栽培されていたブドウ品種を使ったヴァラエタル・ワイン。それぞれの品種の個性が活きる畑が選ばれ、栽培されています。

生産国 イタリア
蔵元 アロイス・ラゲーデル
生産地 アルト・アディジェ(南チロル)
種類 ロゼ
品種 ラグレイン100%
醸造、熟成 すぐに圧搾し、ステンレス製タンクで発酵させ、4ヶ月間オリと共に熟成させます。
ルビーかかったピンク色。
味わい スミレのようなフローラルさとレッド・ベリーのような果実味のしっかりとした香り。フレッシュで、なめらかな果実味のミディアムボディ。優雅なビターツイストをともなった長い余韻を楽しめます。
サーヴィス説明 良く合う料理:味がしっかりした前菜、燻製した魚、パテ、テリーヌ、パスタ、
白身の肉、家禽の料理。
価格 2006 750ml 3,200円(税別)

05 ピノ・ノワール

参考商品(一般販売はしていません。)

04 カベ ルネ・リゼルバ

参考商品(一般販売はしていません。)

Lindenburg Lagein リンデンブルグ ラグレイン DOC

アロイス・ラゲーデルのフラッグシップワインです。選び抜かれたそれぞれの自社所有畑のテロワールに最も適合する品種が厳密に選択され、バイオ・ダイナミクスやシステナブル農法でテロワールの個性が最大限に生かされたワインです。そのためおのずと限られた生産量となり、熟成はフレンチオークの小樽で行い、上品で複雑なワインに仕上がっています。

生産国 イタリア
蔵元 アロイス・ラゲーデル
生産地 アルト・アディジェ(南チロル)
種類
品種 ラグレイン100%
醸造、熟成 ステンレス製のタンクで15日間発酵と長期の醸しをおこない、1/3が新樽のフレンチオーク(アリエとヌベール)で18ヶ月間熟成させます。
さくらんぼの色。
香り プルーンやチェリーのフルーティな香りとオークとともにレザーやタール、ビターチョコレート、かすかなスミレの香りのスパイシーなアロマ。
味わい 口の中でフルーツの強さとともにミディアムな骨格が味わえます。タンニンはバランスを兼ね備え、地質を感じられる長い余韻が感じられます。
サーヴィス説明 良く合う料理:赤身の肉(牛、子羊、シカ、猟鳥獣)、全てのチーズ。
価格 2003 750ml 6,200円(税別)

 

インポーターから

日本リカー(株)
マーケティング部
本間 敦 (ほんま あつし)

日本リカー株式会社といえばブルゴーニュの銘酒・ルイ・ジャドをはじめシャンパーニュのテタンジェなどフランス大御所の生産者を数多く取り扱う古参インポーターであると認識していた。この会社に入社するまでは。20年間勤めた百貨店を退職し、転職した訳だが、第一番に発見したのが(手前ミソであるが)、日本リカーの取り扱っているイタリアワインの素晴らしさである。日本ではフランスワインのインポーターとしては評価されていたが、イタリアワインについては今ひとつマイナーなイメージであった。『ところがどっこい!』である。入社したばかりのときは社員買いでイタリアワインを購入して、飲みまくった…ピオ・チェーザレもいいし、モンサントもいい。古いブルネッロが美味いカパルツォもいいじゃないか。日本では何年も昔からあるのに、飲み解いて説明する人間がいなかったんだな。今回紹介させていただいた超マイナー産地の中の逸品、アロイス・ラゲーデル、如何でした? 人々が気にもかけない北限のイタリアに美味しいワインがあって驚いた? 現地に行って地元料理と一杯やりたくなりますね……。

ワイナリー社屋のグラヴィティ・システム
(重力のみで液体を動かすシステム、モストに余分な付加かが掛からない)
標高の高いゲヴェルツトラミネールの畑、奥にドロミテ渓谷がそびえる。
社屋外観、周りの景観に配慮したバンガロー南チロル風の建物、屋根にソーラーパネルが見える(ワイナリーの60%の電力を補う)。
モスカート・ジャッロ(イエローマスカット)の畑。熟れると黄色く色付く。

今回のレポーター

井上 眞貴子(いのうえ・まきこ)

40ン歳にして初めてワインと出会い深みに嵌り、ワインエキスパート資格取得。食とのマリアージュにも目覚め、現在自宅で「ことことキッチン」料理&テーブルコー ディネートの会を主催。「ワインは人なり」がモットー。