Bon Vivant! - 1 - 南仏バニュルスのブドウ畑から。

(2010.03.15)

初めまして、現在フランス各地のブドウ畑で働いている井ノ上美都です。

これから、自然派ワインの美味しさ、素晴らしさを伝えるとともに
食を中心とした「みんなが良くなる環境」を考えていきたいと思っています。

日本とフランスを結ぶ小さな点として、
いろいろな情報を皆様にお届けできるよう連載を続けていきますので、
どうぞ末永く宜しくお願いいたします。

さて、まず始めに私がフランスに辿り着いた理由なのですが、
それは、「自然派ワインを造りたい」。
その想いだけです。

そして、私が自然派ワイン造りに求めていることは、
自然派ワインを造る人々と共に働くことで見えてくる
「大切なこと」です。

それは、自然を愛し、家族や仲間を愛し、
何よりも自分自身を愛している彼らの生き方そのものです。

フランスでは「Bon Vivant」(ボン・ヴィヴァン)といい、
人生をより良く生きる人のことをいいます。

私は自然派ワインを造るということの中心は
この「Bon Vivant」の精神がとても大切だと感じています。

そして、今まさに
「Bon Vivant」な時間を過ごさせてもらっています。

現在、研修させてもらっているBanyuls(バニュルス)の
「Le Casot des Mailloles(ル・カゾ・デ・マイヨール)」は
「Bon Vivant」精神いっぱいのお二人、
Alain CASTEX(アラン・カステックス)と奥様のGhislaine(ジスレーヌ)が
1995年から始めた畑で、
有機農法でブドウを栽培し、醸造にも化学物質を一切使わず、
更には亜硫酸も全く使用しない究極の自然派ワインです。

Le Casot des Mailloles のシンボルでもあるブドウ畑にある小屋(フランス語でCasot)は全て石で出来ています。
丁度遊びにきていた娘さんとお孫さんとの3世代仲良し写真。マグナムワインのエチケットは娘さんが描いています。
先日行われた自然派ワインサロンに並んだワインたち。

私と二人との出会いは、
パリの老舗ワインショップ『Cave AUGE(カーヴ・オジェ)』です。
『カーヴ・オジェ』に行った際に、偶然アランとジスレーヌが配達に来ていました。

私はお店の人と顔見知りだったこともあり、
みんなで配達に持ってきていたワインをワイワイ楽しく試飲しました。
ワインはその年の2008年のロゼと白で、
とても口当たりがよくグラスがすぐに空っぽに。

こんな美味しいワインが生み出される畑で収穫して醸造も見たい!と思い、
二人に翌年の収穫のお願いすると快くOKの返事をもらいました。

バニュルスの街中にある醸造所。昨年の収穫時の醸造中にもワインを買いに来る人が絶えませんでした。

それから1年ほど経った2009年9月に、
収穫をお手伝いしたことがきっかけで現在に至ります。

今回は冬の畑仕事の剪定作業をお手伝いしています。

冬の剪定作業は
その年のブドウの収穫量を決定し、
その後のブドウの樹の形態をも左右する
とても大切な作業です。

いつもは太陽いっぱいのこの地も
到着したときには歩くのをためらうほどの大雨。
しかし、「昨年この地には雨がほとんど降らなかったため
土地を潤す雨は大歓迎」とジスレーヌは優しく説明してくれます。

2009年のブドウ収穫量は前年度に比べて40%も少なかったようです。
その分、ブドウは凝縮され素晴らしいワインとなりました。
夕食時に2009年の白ワインを早速飲ませていただきました。
樹齢100年を超すブドウが表す味わいは
とても純粋で力強い味わいでした。

しかし残念なことに、
この畑のブドウの樹は所有者の意向で、
近々全て引き抜かれ、果実園になるそうです。

到着後の1日はゆっくりと街の中心からすぐの浜辺で旅の疲れを癒し、
翌日に念願の剪定作業を行えることになりました。

余談ですが、この浜辺には、
毎日散歩がてら仕事のあとに訪れています。

住民の憩いの場でもあるようで
夕暮れ前に、ゆっくりとそれぞれの時間を過ごしているようです。

私も夕暮れの空の色や
波の音を聞きながら、浜辺をゆっくり散歩しています。
一日の疲れを波が洗い流してくれるようです。

夕暮れ時のバニュルスの浜辺。空の色がなんとも美しいです。

こんな何気ないゆったりした時間が
バニュルスの人々をいつも笑顔で心豊かにさせているのでしょう。

研修初日は、快晴に恵まれ、暖かな気温の中、
真っ青な地中海を臨みながら
気持ちよく畑仕事を行いました。
 

Casotのある畑から望む絶景。心が癒されます。
厳しい傾斜に積まれた石垣。登るのも大変ですが、石を積み上げた昔の人は本当にすごいです。

2月上旬は強風が吹き荒れ、畑は寒さで凍っていたとのこと。
春はすぐそこまで来ていることを実感せずにはいられません。

本題の剪定作業ですが、
頭の中では剪定の論理を理解しているつもりが
実際、様々な形態のブドウの樹を目の前にすると
迷いが生じ、なかなか剪定することができません。
 

絶えることのない強風で枝が根本から折れています……。
菌によって枯れてしまった樹齢60年ほどのブドウの樹。お疲れまでした。

そんな私の迷っている姿に、
「経験が大切なんだよ」
とアランはそっと教えてくれます。

通常ならなかなか行うことの出来ない剪定作業を
あえて経験させてくれるアランに感謝しながら、
間違いをしないように自分なりに丁寧に作業していきます。

剪定した切り口から溢れる樹液。いよいよ活動開始です。

しかし、やはりなかなか全てきちんと作業することは難しく、
大切な新芽を誤って損じてしまったり、
剪定する枝の長さが長すぎたり短すぎたりしてしまいます。

そんな時にもアランは怒ることなく、
きちんと正しい剪定を教えてくれます。

剪定する枝の迷いやハサミの使い方などに戸惑いながらも
だんだんと剪定の基本がわかりはじめ
作業もリズムカルに進んでいきます。

これから様々なブドウの樹と向かい合い、
それぞれを剪定することによって
必要なものを選ぶ決断力も養っていきたいです。

アランは鍬で除草と枯れたブドウの樹を引き抜き、ジスレーヌは剪定を。

いつも忙しく事務処理の仕事をしているジスレーヌも
仕事の合間を見て、剪定にやってきました。
畑で仕事をするのがとても気持ちよさそうです。

ブドウの樹に素敵な言葉をかけながら、
樹の幹をさわり、まるで自分の子供に接するようです。

「Magnifique!」(素晴らしい!)
「T’es jolie」(可愛いね)などなど。

のびのびと踊るブドウの樹。いろんな姿を持つブドウの樹は人間と同じですね。

ブドウの樹はもちろんのこと、
土の状態にも細かく気を配り、土のことを思いながら作業しているそうです。
 

剪定が終わったブドウ畑。さっぱりと気持ちよさそうです。雑草もたっぷり残っています。
他の生産者のブドウ畑。化学物質を使用しすぎて土が病んでいるのがなんとも痛々しいです……。

その想いが樹や土に伝わり、
ブドウの新芽が膨らみ、花が咲き、実を結び、
美味しいワインになっていくのだなぁ、と感じます。

その想いとは、やはり自然に対する感謝の気持ちからくるもの。

これからも自然から学ぶことの大切さ、自然への感謝を
忘れずに自然派ワイン造りに携わっていきたいです。

 
*自然派ワインとは、
畑や醸造に化学物質を一切使用しないで造るワインのことです。

 

Le Casot des Mailloles(ル・カゾ・デ・マイヨール)

17, avenue du Puig del Mas
66650 Banyuls sur Mer France
Tel:33 (0)4 68 88 59 37