from 大阪 – 8 - 豚玉、スジ焼、モダン焼。
お好み焼はソウルフード!?

(2013.10.11)

大阪西天満「パセミヤ」さんにてお好み焼と赤ワイン

小さい頃から慣れ親しんだお好み焼

ラーメンやうどんほどの国民食とは言わないまでも、おそらくほとんどの人が一度は口にしたことがあるであろうお好み焼。特に関西圏、広島で生まれ育った人にとっては、並々ならぬ思い入れのある食べ物ではないでしょうか。

かくいう私もその一人。物心ついたころにはオタフクソースの暖簾がはためく近所のお好み焼屋さんにいき、おばちゃんに「肉玉そばください。」と注文をだし、古ぼけた本棚からソースの焦げた匂いがするドラえもんを取り出し、読みふけりながら焼き上がるのを待ったものです。親戚のおばちゃんよりも、もしかしたら小学校の先生よりも。身近な存在だったのはそんなお好み焼屋のおばちゃんでした。

大人になって日本各地の食べ物に興味を持つようになってから、実はお好み焼はローカルフードだったことに気付かされます。18歳で東京に出て、懐かしさから広島のお好み焼を求めていろいろと食べ歩きましたが、なかなかこれというお店には出会えませんでした。材料を取り揃えて技術を学んだ職人さんが、きちんとした設備で焼き上げるお好み焼は、もちろんとても美味しいものでしたが、自分には「何か」が足りないように感じたのです。

ローカルフードとしての誇り

年月がたち、3年ほど前から大阪で暮らす機会を得ました。大阪といえば全国的にはお好み焼の本場と目されている街。広島出身の私としてはどこかに「大阪のお好み焼より広島のほうがうまいんじゃ」といった妙な競争心がなくもなかったのですが、どっちが上とか下とか優劣ではなく、その土地らしさ、造り手の個性が滲み出た料理(作品)は掛け値なしに美味しい、ということをワインの世界を通じて感じていたので、むしろ未知な世界との遭遇が楽しみで仕方ありませんでした。

そして大阪はじめ神戸など京阪神地区には、昔からその土地に根付いた、その土地の人々が食べ続けているお好み焼屋が、街のいたるところにありました。逆説的にいうと、お好み焼をはじめとしたローカルフードの歴史を紐解くことで、行政が定めた県境とはまた異なる文化的な境目が浮かび上がってきて、そこに暮らす人々の地域性・気質みたいなものに迫れるのかもしれません。

さっそく街に出てみました。大阪から新快速で一路明石へ、駅を出ると磯の香りがするおおらかな港町。「明石焼き」といわれる食べ物が有名ですが(地元の人は玉子焼きと呼んでいます)、たこ焼きのルーツになったとか。落ち着いた老舗の佇まいな「ふなまち」さんで玉子焼き一人前20個をいただいてみました。

具材はシンプルにタコのみ。玉子によるふんわりとした食感が特徴的で、これを冷たい出し汁につけていただきます。優しく染入るような美味しさで何個でも食べられそうでした。そして一見ルーティンワークにみえる焼きの作業も、長年の経験と勘がモノをいうのでしょう、一個丸ごと頬張ったときのたまらない幸福感は、誇りをもった職人さんの手仕事によってもたらされたのです。

年季の入った暖簾が潮風にゆらぐ
年季の入った暖簾が潮風にゆらぐ
20個なんてあっという間なくらいフワフワ
20個なんてあっという間なくらいフワフワ
阪神間を西から東へお好み焼ロード

今回、もっとも楽しみにしていたのが神戸のお好み焼を食べること。まぜ焼きが主流の大阪とは異なりうす焼き(薄い生地をひいてそのうえにキャベツなどの具材を載せて最後にまた生地を回しかける。のせ焼きという呼び名も)のお店が多く、また具材にはスジこんにゃくや大貝が入るとのこと。作り方からすると広島のそれとも近く、そもそも広島のお好み焼も神戸うす焼きの流れでは、という説もあるそうです。

さて一軒目は新長田から和田岬まで移動し、鉄板の熱源に薪を使用するお好み焼「高砂」さん(写真上左)でスジ豚玉を。二人のおばちゃんがテレビを見ながら、慣れた手つきのもと高い火力で一気に焼き上げる一枚はしなやかな一体感があり、スジやキャベツのコリコリとした食感が印象的。スパイシーな神戸の地ソースがまた食欲をそそります。

続いて三ノ宮からほど近い、生田川近くにあるお好み焼屋さんへ。いわゆる生田川系と呼ばれているらしく、このあたりには数軒、昔ながらの神戸のうす焼を食べさせてくれるお店があります。生地にとろみがあり素朴な美味しさ、ヤンニョンだれの辛みがアクセント。ボリュームはさほどではなくおやつ感覚で食べられます。

さらに阪神電車にのって東へ、阪神住吉で途中下車。この界隈にもやはり名店が軒を連ねており、お好み焼フリークの間では神戸住吉系などと分類されているそうです。生スジをたっぷり入れるモダン焼きが名物。スジの旨みがキャベツや麺に伝播し、こんがり香ばしい焼き加減はビールを呼ぶ美味しさ。ピリ辛どろソースを塗し、満面に笑みを浮かべていただきました。

今回は長田地区(たくさんのお好み焼屋さんが密集している地域だそうです)をスルーしてしまい、駆け足でまわった阪神間のお好み焼屋さん。たまたまどこのお店もおばちゃん(お姉さん?)が焼き手でしたが、印象的だったのは自分たちのお好み焼に誇りをもっていて、それを楽しんで食べてほしい、という思いがすごく伝わってくることでした。

具体的に表現しにくいのですが会話の端々から、あるいは視線から、そしてお店の作りから。きっと何人もの人がこれらのお店の記憶が頭のなかにあって、その人にとっての「お好み焼屋さん」として生き続けているのだと思います。

神戸独特のスパイシーな地ソース@高砂
神戸独特のスパイシーな地ソース@高砂
生地、キャベツ、スジが見事な層をなしてます
生地、キャベツ、スジが見事な層をなしてます
最後は大阪のお好み焼屋さん。おいしい料理とおいしい飲み物の素敵な邂逅

神戸から大阪へ。大阪にも堺のかしみん焼きがあったり、西成や生野区、その他各地域に独特のお好み焼文化があるみたいですが、大阪市内中心部はいわゆるまぜ焼き、外はカリッとしていて中はふっくらとした豚玉を食べさせてくれるお店が多いようです。

またお好み焼屋さんでの飲み物といえば、ビールやチューハイなど手頃なものが思い浮かびますが、さすがは大阪。「うまいもんにはうまい飲み物を」という発想でしょうか、お好み焼屋さんでありながらしっかりとセレクトされたワインが楽しめるお店が西天満にありました。ワイン好きな方ならすでにご存じかもしれませんが「パセミヤ」さんです。

白ワインだけでも多種多様
白ワインだけでも多種多様
混ぜた具材でそばを挟むようなかたち
混ぜた具材でそばを挟むようなかたち

お好み焼はシンプルな豚玉からいか、えび、タコ入り、そしてそばが入るモダン焼きも。量が多いジャンボも用意されていて、さらに裏メニューとしてホームラン焼きという、いろんなものが入るスケールの大きなお好み焼もあります。

また季節によって旬の食材が加わります。この日は牛スジ肉、こんにゃく、青ネギのトッピング。冬になれば牡蠣も用意されるとか。そば入りのモダン焼きジャンボをお願いして、じっくりと焼き上がる様を眺めながらワインをいただきました。

セレクトされたワインも思わずニヤリとしてしまうものばかり。キリッとミネラルの効いたドイツの辛口リースリング(おいしいキャベツにあいそう!)に、牛スジ肉にもぴったりなイタリアはラツィオ州の柔らかい赤ワイン。尼崎の地ソース・ワンダフルソースを塗して完成した頃には、トスカーナの銘酒ロッソ・ディ・モンタルチーノがグラスに注がれていました。

たっぷりとふくらみのあるお好み焼はかなりのボリュームですが、粉モンというよりはむしろ、美味しいキャベツをたくさん食べさせてくれる繊細な野菜料理といったほうがいいかもしれません。一枚ぺロリと平らげて、まだ食べたいと思ったくらいですから。。。

厳選素材を用いて時間をかけ、じっくりと焼き上げる一枚のお好み焼。そこには美味しさだけではなく、素材に対する愛情や料理に対する情熱、そしてお客さんを喜ばせたいという気持ちがたっぷりと詰まっていました。ときにあるワインを飲んだ際にもそう感じることがあるのですが、両者が大阪という地で、それも鉄板を介して邂逅することのおもしろさ。不思議さ。たまらない楽しさ。これはぜひ一度体験してみてほしいと思います。

お好み焼という料理の性質上、また席数も限られているため、お出かけの際はご予約もしくはお電話されてからのほうがいいと思います。

果実のエネルギーが凝縮したレコステのワイン
果実のエネルギーが凝縮したレコステのワイン
お好み焼が焼ける匂いで赤ワインを一杯
お好み焼が焼ける匂いで赤ワインを一杯

《今回訪れたお店》
■ふなまち
兵庫県明石市材木町5-12 Tel.078-912-3508
営業時間:10:30~18:00
定休日:金曜日(他、木曜不定休あり)

■高砂
兵庫県神戸市兵庫区和田崎町3丁目4-9 Tel. 078-681-2299
営業時間:11:00~20:00
定休日:水曜日

■お好み焼パセミヤ
大阪府大阪市北区野崎町6-3 第五藤ビル1F Tel.06-6313-4157
(小さなお店のため満席の場合も多いので、空席状況をご確認してからどうぞ)
営業時間:月・水~日 18:00頃~23:30(最終入店)
定休日:火曜日