Bon Vivant! - 7 - 雄大なオーベルニュ地方、
ワイン、そして人々。

(2011.08.29)

自然豊かなオーベルニュ地方。

今回は、フランスの真ん中に位置する自然豊かなAuvergne(オーベルニュ)地方の造り手を紹介いたします。この地は、ローヌ=アルプ、ブルゴーニュ、サントル、リムーザン、ミディ=ピレネー、ラングドック=ルシヨン地方と隣接し、ミネラルウォーターで有名な「Volvic」(ボルヴィック)を始め、太陽王ルイ14世も愛飲してした微発泡水の「Châteldon」(シャテルドン)、温泉保養地としても有名な「Vichy」(ヴィシー)など、素晴らしい水質の地が多数あります。

それは、この地に5億年も前から形成された火山による恩恵でもあります(現在、火山活動は行われておりません)。

ヨーロッパでも有数な火山地域であり、オーベルニュ地方のAllier(アリエ県)からラングドック=ルシヨン地方のHérault(エロー県)まで続き、総面積約85 000 km2と、北海道よりも広い面積を持つMassif Central(マシッフ・ソントラル=中央高地)は、アルプス山脈とピレネー山脈との間に位置し、非常に複雑で肥沃な土壌を有しています。

そしてその魅力として、多数の動植物が共生していることも挙げられます。春になると様々な種類の花々やハーブが芽を出し始め、キノコ狩りも楽しむことが出来ます。夏にはサクランボが赤く実り、向日葵畑の鮮やかな黄色が青空に映え、秋にはコスモスなどの季節の花々や色づく山並みを愛でることが出来ます。そして厳しい寒さの冬を迎え、また、新たに芽吹きの春を迎えます。

冬の寒さはマイナス15度に達することもありますが夏は35度以上になることもあり、昼夜の気温の差が大きいことも特徴です。しかしこの寒暖の差の大きさこそが、多種多様な動植物の自生を促しているのかもしれません。

そして、その気候はもちろん、ブドウ造りにも恩恵を与えています。

夏の照りつける暑さは、ブドウの樹の成長や実の成熟を促し、夜間の涼しさは、ブドウの実の酸に良い影響を及ぼします。そして、ブドウの樹は複雑な火山地質の土壌から多くのミネラルを吸収し、しっかりとした酸と果実味溢れるブドウを実らせ、他の地方のワインに引けを取らないポテンシャルの高いワインを造り出します。

オーベルニュワインの歴史

この地は、19世紀初めにはボルドーに次ぐ、フランス第2位のブドウ産地でした。しかし1870年代に起こった* Phylloxera(フィロキセラ)の虫害により、ブドウ畑が壊滅的なダメージを受けたことが、この地のワイン造りに歯止めをかけます。そして、工場への労働力流出や南仏ワインのパリ進出に後れをとり、次第にオーベルニュワインは衰退していきます。ブドウ畑だった地は、穀物類の農地となり、麦やトウモロコシなどが大量生産されるようになりました。

*フィロキセラ(ブドウネアブラムシ)
北アメリカ原産のブドウの根に寄生しヨーロッパ上陸を果たし、耐性のないヨーロッパの固有種の殆どに壊滅的な打撃を与えた。以後フィロキセラ等による害を防止する等の理由で、ヨーロッパ・ブドウについては、アメリカ種およびそれを起源とする雑種の台木への接ぎ木が頻繁に行われている。

しかし、近年、この地の自然派ワインの造り手達によってオーベルニュワインの品質の素晴らしさが、フランス国内でも評価されつつあります。また、2011年より* Appellation d’origine contrôlée (AOC)がオーベルニュワインでも始まりました。AOCワインと一線を画する自然派ワインの造り手達の今後の動きが気になるところですが、この地がAOCに認定されたことについては、個人的には素直に喜ばしいことだと思います。しかしながら、AOCというブランドを片手に、大量生産を目指す生産者によって品質の優れないワインが生み出されることへの懸念も否めません。

*アペラシオン・ドリジーヌ・コントロレ(Appellation d’Origine Contrôlée; AOC)「原産地統制呼称」フランスの農業製品、ワイン、チーズ、バターなどに対して与えられる認証であり、製造過程及び最終的な品質評価において、特定の条件を満たしたものにのみ付与される品質保証である。フランスの法律では、AOCの基準を満たさないものは、AOCで規制された名称で製品を製造または販売することが違法とされる。フランスの原産地呼称委員会(Institut National des Appellations d’Origine; INAO)が管理している。オーベルニュ地方のAOCチーズに、Saint-nectaire(サンネクテール)、Cantal(カンタル)、Blue d’Auvergne(ブルー・ドーベルニュ)などがある。

オーベルニュ地方を代表する自然派ワインの造り手、ピエール・ボジェ。

私が、自然派ワイン造りを志すきっかけとなった人物、Pierre BEAUGER(ピエール・ボジェ)氏は、オーベルニュ地方を代表する素晴らしい自然派ワインの造り手です。彼との出会いは2007年、パリのビストロでの試飲会でした。

日本で既に彼のワインを味わい、「いつかこの造り手に会ってみたい」と思っていた私にとって、彼との出会いはとても印象深いものでした。

あまり多くを語らず、言葉を慎重に扱う姿と彼のワインの味わいとの対照的なイメージに深い興味を持った私は、2008年、彼の元でワイン造りの研修をさせてもらうこととなります。

彼の畑仕事に対する熱意、素晴らしいワインを生み出す仕事ぶりを目の当たりにし、彼のワインの味わいが他を圧倒するパワーを持つ意味が少し分かったような気がしました。そして、「私も自然派ワインを造りたい」と強く心を動かされました。

彼は2001年にClermont-Ferrand(クレルモン・フェラン)から南に20kmほど離れた場所に1.5haの畑を借り、Chardonnay(シャルドネ)とGamay(ガメイ)を有機農法で栽培しています。もちろん、農薬・殺虫剤・化学肥料などは一切使用していません。醸造に関しても環境を配慮し、極力電気を使用しないよう心がけています。醸造所は常に14~15度に保たれており、冷却器具などもありません。

彼の情熱の詰まったブドウは、ここで静かに自然と美味しいワインになるのを待つばかりです。

シャルドネのエキスから生み出される「Champignon Magique」(シャンピニオン・マジック)は彼を代表する白ワインでもあり、彼の情熱がぎっしりと詰まった官能的なワインです。また、ガメイから造り出される赤ワイン「V.I.T.R.I.O.L」(ヴィトリオル)は、ガメイの持つ繊細さと複雑さを毎年違う味わいで楽しませてくれます。


そして、今年から全く違う顔ぶれの品種で彼のワインを楽しめることとなりそうです。

数年前、何も遮ることのない見晴らしいの良い山間に位置する荒れ地を開墾し、ブドウの樹を少しずつ植え続け、昨年、その若樹から少量のワインを造り始めました。ここには、昔ブドウ畑があったことを意味する石垣が今も残っています。

すでに日本に彼の手がける新しいワインがいくつか輸出されているようですので、手に入れられた方はとても幸運ですね。フランスでも彼のワインを味わえることはそれだけ難しいのです。

ピエールから学んだことは、畑や醸造以外に自然を感じ、自然を愛すること。「自然派ワイン」とは、その手法だけではなく、自然に対する「敬意」だということを彼の仕事ぶりや行動から教わりました。

 

陽気で楽しくなるワインを造る、パトリック・ブジュ。

同じくここオーベルニュ地方の造り手、Patrick BOUJU(パトリック・ブジュ)もピエール・ボジェのワインに魅せられ、自然派ワイン造りを始めた一人です。

現在約6haの畑を借り、シャルドネ、ガメイ、Pinot Noir(ピノ・ノワール)の品種から彼の人柄がそのままワインに表れた、飲んでいるだけで楽しくなるワインを造っています。

2010年に初めて彼の収穫・醸造を手伝い、彼のワインの美味しさの秘訣が、彼の人柄はもちろん、彼を取り囲む家族や友人による「陽気」なエネルギーなのだと感じました。
夜中まで続く醸造の際にも、パトリックと彼の友人達の「陽気」さは衰えることを知らず、常に笑いながら、楽しく作業をしていたことを覚えています。
どんな状況になっても、笑って乗り越えられるパトリックのワインの味わいは、「陽・笑・楽」がぎっしり詰まっています。

「The Blanc」(ザ・ブラン)はその名の通り白ワインで、シャルドネの酸味と果実味が絶妙のバランスです。「LouLou」(ルゥルゥ・・・彼のおばあさんの名前)は、Gamay d’Auvergne(ガメイ・ドーベルニュ)の小粒な力強さがオーベルニュの土地の味わいを表しています。

私のお気に入り「FESTEJAR」(フェステジャール)はFestival(フェスティバル)を掛けた造語で、たくさんの人と陽気に笑って過ごせる楽しい発砲ワインです。


オーベルニュ地方で始める自然派ワイン造り。

そして、私も、今年から、ここオーベルニュ地方に小さな畑を二つ見つけ、自然派ワイン造りを始めました。

2009年から2010年の2年間、フランスの各地の自然派ワインの造り手の元で研修し、その上で、オーベルニュ地方で自然派ワインを造ってみたい、と決心しました。
それは、この土地のもつポテンシャルの高さはもちろんのこと、豊かな自然、素晴らしい水質、そして何より、人々のユーモラスで大きな心が、私をこの場所に導いてくれたのだと思います。

私の畑、Anzelle(アンゼル)とVinzelle(ヴァンゼル)には、ガメイのみが植えられています。それぞれ離れた場所にあり、土質・標高・環境も違うため、どのようなワインになるのか
今から楽しみです。

アンゼルは以前、パトリックの畑だったため、畑を探していた私に、パトリックが教えてくれた畑です。地質は石灰質で南向きのため、ブドウ畑には最適な畑です。風通しが良いのでいつも枝が気持よく揺れています。


ヴァンゼルは、Domaine L’Arbre Blanc (ドメーヌ・ラルブル・ブラン)のFrédéric GOUNON(フレデリック・ゴノン)の畑でしたが、2年前から剪定せずにそのままだったことから、今年から私がこの畑を引き継ぐこととなりました。もちろん彼も自然派ワインの造り手で、力強く美しいワインを造り上げます。

ヴァンゼルの剪定作業は、想像以上に大変でしたが、なんとか4月上旬に無事に終え、今年は少しのブドウの実をつけたので、少量のワインが造れる予定です。


私の目指す畑造り。

ブドウの樹の病気予防には、Petit lait(プティ・レ=乳清)と植物を煎じたものを使用し、化学物質はもちろんのこと有機農業で認定されているボルドー液や硫黄や銅の散布も行っていません。
*散布の詳細はこちらをどうぞ

植物の持つ力を信じ、自然の理にあった方法を見つけられたら……と日々、この地に自生する薬草などの勉強をしながら手探りで畑造りを行っています。また、故・福岡正信氏の哲学を私なりに取り入れ、不耕起・無肥料・無農薬はもちろんのこと無除草でブドウを育てることが出来るか実践しています。すでにいくつかブドウの実は病気になっていますが、それでも乳清と植物を使用した散布を続けています。

ブドウの実が直接病気になってしまうのは、もちろん造り手にとって、好ましくないものですが、それでも、今回、病気と対面したことでいろいろな「気づき」がありました。

「病気になるには、それなりの意味があり、何故病気になったかを考える」。もちろん私の経験不足によるものもあると思いますが、5月のブドウの花の開花中にアンゼルの畑に降った雹によるブドウの樹へのダメージは私が考えていた以上に大きいものでした。自然の脅威を肌で感じつつも、その後の対応については、もっと注意深く畑の状況を全体的に考える必要があると感じました。

別の畑・ヴァンゼルは、雹被害もなかったため、病気予防の散布は3回しか行っていませんが、それでもブドウの実は順調に育っています。除草も全く行っていません。

 
まだまだ「気づき」は沢山ありますが、その「気づき」を課題として、来年も自分のスタイルで自然派ワイン造りを行っていきたいです。ただ、こんな中でもブドウは順調に甘みを増し、薄い紫色から濃い黒に近い色に変化しています。貴重な成熟したブドウから、どんな味わいのワインが造れるか……。

そして、今年のワイン醸造は、ピエールの友人でもあるMarie et Vincent TRICOT(マリー・エ・ヴァンサン・トリコ)のところでお世話になります。彼らの造るワインの魅力も次回、是非お伝えできればと考えています。

沢山の造り手、仲間たちに助けられ「初めての自分のブドウ」でワインを造れることに感謝と希望と期待を持ち、2011年の収穫を存分に楽しみたいです。


Pierre BEAUGER(ピエール・ボジェ)
Tel:+33(0)4 73 89 91 35
3, rue des Templiers
Montaigut le Haut 63320 Montaigut le Blanc
ホームページ:http://www.gite-vigneron-nature.com/pierre-beauger.php

Patrick BOUJU(パトリック・ブジュ)
Tel:+33(0)6 50 07 97 11
contact@domainelaboheme.fr