from 大阪 – 9 –
J’aime Canard 2013
和歌山から発信。
太田さんの紀州鴨

(2013.11.19)

大好きな鴨料理

くたくたに煮込まれた白菜に染みる鴨肉の旨み。「今晩は鴨鍋にしたよ」という母親の声に喜びの奇声をあげ、晩ご飯が待ち遠しかった子供のころ。大人になって蕎麦屋さんへ行くと、いつも頼むのは鴨南蛮そば。鼻を抜ける独特の香りとコクのある脂感に魅了され、いまでも大好きな食材のひとつです。

ワインを飲むようになってからは洋食としての鴨料理にも遭遇。ぎこちない手でナイフとフォークを操り、背伸びして行ったレストランでいただいた鴨のロースト・オレンジソースの、ほろ苦くも甘酸っぱい味わいは当時の思い出とともに…、いや、誰と行ってどんな話をしてなんのワインを飲んだのか覚えていませんが、鴨肉のあの官能的な美味しさだけが、色褪せつつある遠い記憶のなかにひと際濃い色彩を放っているんです。

そんな大好きな鴨料理ですが、食べることに夢中すぎたのか、今まで産地や製法をあまり意識したことがありませんでした。そこへ和歌山の『Villa AiDA(ヴィラ・アイーダ)』小林シェフから、紀州鴨を大きさ別にいろんな料理で食べさせていただける会があることを聞き和歌山行きを即決。

和歌山で育った紀州鴨を、和歌山のフレンチレストラン「オテル・ド・ヨシノ」手島シェフ、「Chez みなみ」の南シェフ、そして「ヴィラ・アイーダ」の小林シェフがそれぞれ料理し、その魅力を発信するディナーミーティング“J’aime Canard 2013”。矢も楯もたまらない気持ちで阪和線の快速電車へ。

和歌山県の有田地方で育てた紀州鴨

紀州鴨を育てる太田養鶏場の太田さん始め、カネナカ水産の中井さん、湯浅醤油の新古さん、和歌山で野菜を作られている農家さん、飲食店向け青果卸しの方、酒屋さん、そして和歌山をはじめ大阪市内からも有名レストランのシェフなどいろんな方々が参加されていたこの会、少し緊張感のあるスタートでした。

もともとは紀州赤どりを育てていた太田さんですが、鴨肉の需要を見越し、また生育環境も適していたため、新しい名産品に育てようと紀州鴨の育成に取り組んだそうです。まだまだ始まったばかりで試行錯誤もされているそうですが、今回のような様々なプロの方が集まる場での率直な意見交換は刺激にもなるし、大変勉強にもなるとのこと。和歌山の生産者、卸売業者、料理人、そして食べ手の方々。横のつながり縦のつながりといろいろでしたが、「みんなで和歌山を盛り上げよう!」という思いが会場には溢れていました。

本日の鴨を参加者に見せるカネナカ水産中井
本日の鴨を参加者に見せるカネナカ水産中井
みなさん熱心にお話しを聞かれていました
みなさん熱心にお話しを聞かれていました
紀州鴨とフランス・シャラン鴨の違い

当初漂っていた緊張感も、ワインで乾杯してお料理が運ばれてくると一気にほぐれてきました。ワインは何人かの方が数本持ち込まれていましたが、ワイン輸入会社W(ダヴリュー)の若槻さんが、この日の料理にあいそうなワインをいろいろとセレクト。ペルソンのロゼあり、濃厚なシードルあり、イタリアの黄色い白ワイン、熟成したふくよかなボルドー、柔らかいシノンなどなど目移りするものばかり。ワイン屋(酒飲み?)としては鴨料理単独の美味しさよりも、やはりどんなワインとあわせたらより一層旨いか、ということにも心血を注ぎたくなるところ。

ブルゴーニュと南仏系が多く揃ったワイン
ブルゴーニュと南仏系が多く揃ったワイン
紀州赤鶏も豪快にサーヴされました
紀州赤鶏も豪快にサーヴされました

前菜には軽く茹でた紀州鴨のサラダと鴨のパテ。ぐいぐいと主張するようなクセはなく、そっと後ろから支えてくれるような優しい旨み。タニックで力強い赤ワインよりも、ガメイやピノノワールなどのまあるいイメージのワインがあいそうな淡さ、穏やかさ。

食べ比べてみるためにフランス産シャラン鴨も用意されました。繊細な質感、旨みと鼻を抜ける香りの豊かさはさすがにフランスの伝統食材。飼育条件も違いますが、処理方法は伝統的にエトフェ(窒息)が用いられ、血液が肉の中にとどまり、より芳醇で野性味あふれる味わいになるそうです。

一方で紀州鴨はじめ日本の鴨の処理方法はほとんど血抜きをするとのことで、そればかりが原因とも限りませんが、どうしてもやや淡白で大人しい味わいになるとのこと。

最後にメイン料理としてホテル・ド・ヨシノの手島シェフが作ってくれた鴨のロースト・血のソース。クラクラと目眩がするほど濃厚な旨みに満ちたソースに、正直いって紀州鴨が少し負けていたのではないか?そんな意見もありました。あえて日本の紀州鴨に、フランス伝統の調理法を施してその食材の可能性を試してみる、言い方を変えれば真っ裸にしてみる。その場にいた人たちにいろんなことを考えるきっかけを与えてくれた、愛情あふれる一皿に感じました。

志真剣な表情のなかにも楽しさが伝わってきます
志真剣な表情のなかにも楽しさが伝わってきます
身震いするほどガチッと濃厚な血のソース
身震いするほどガチッと濃厚な血のソース
これからの紀州鴨

和歌山でみずから畑を耕し、いろんな野菜を育てて料理を作るアイーダの小林シェフ。地産地消という言葉はよく使われますが、ただ地元のものを使うのではなく、農家さんや卸業者さん、料理人と高いレベルを目指して切磋琢磨し、いいところを伸ばして、引き出していく。和歌山でしかできないことを発信していく。海も山もあり温暖な気候の和歌山は食材の宝庫であり、そこに人の力がチームとして機能したら。なにかとんでもなく面白いことが起きそうです。

紀州鴨も、フランス産の鴨と同じ土俵で戦う必要はなく、いろんな工夫をすることでその良さが見えてくるのかもしれません。たとえば鴨のローストに湯浅醤油の金山寺味噌を添えてみたもの。和風寄りな仕上がりにはクセの少ない身質があうし、より深みが増した感じがしました。

ワインとの組合せもそうですが、最近日本ワインが注目されるようになったのも、やっぱり日本の食材や調味料と自然に馴染むし、日本の気候、そして何より私たちの身体に馴染むからだと思います。

太田養鶏場さんだけではなく、和歌山の飲食業界のプロが一丸となって育てようとしている紀州鴨。今後もテーマを変えながら積極的な情報発信をされるそうで、和歌山からますます目が離せません。

*大阪に帰ってきてから、もう一杯ということで河内鴨のたたきと燗酒を。う~ん、こちらの河内鴨もやっぱりうまい!ますます鴨が好きになりました。。。

活発な意見交換がなされたディナーミーティング鴨とワイン、鴨と日本酒。どちらも幸せ!
左:活発な意見交換がなされたディナーミーティング
右:鴨とワイン、鴨と日本酒。どちらも幸せ!
北海道はTAKIZAWAワインのピノノワール2012年。ピチピチとした軽快な口当たりと涼しげな香り、優しく染みわたる旨みは気分を明るくしてくれました。レストラン、宿泊施設、そして畑もすぐ近く
左:北海道はTAKIZAWAワインのピノノワール2012年。ピチピチとした軽快な口当たりと涼しげな香り、優しく染みわたる旨みは気分を明るくしてくれました。
右:レストラン、宿泊施設、そして畑もすぐ近く

villa AiDA ヴィラ・アイーダ
住所:和歌山県岩出市川尻71-5
営業時間 : 11:30~14:00 18:00~21:00
TEL & FAX : 0736-63-2227
定休日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)

電車でお越しの方へ
JR阪和線紀伊駅またはJR和歌山線岩出駅を降りて、タクシーをご利用ください。
*運転手さんに「岩出のアイーダまで」とお伝えください。
車でお越しの方へ
阪和道泉南ICを出て左折。約12km(15分)です。阪和道和歌山北ICから16kmです。
※駐車場完備しています。