クオリティワインを生む首都、ウィーンで、ワインカルチャーを体験。その1

(2014.12.11)
ウィーンの老舗ワイナリー、マイヤー・アム・プファールプラッツの畑から、ウィーン中心街を望む。
ウィーンの老舗ワイナリー、マイヤー・アム・プファールプラッツの畑から、ウィーン中心街を望む。
首都で作られるウィーンのワイン。

いまやロンドン、ニューヨーク、そして東京でもワインが造られているけれど、ウィーンはスケールが違います! 700haもの栽培面積、320あまりのワイナリーをもち、商業的ワイン産地が、首都にあるのは、たぶんオーストリアだけ! ワインの造り手たちが、一番の繁忙期を迎える9月の最終週、ウィーンを旅してきました。

ウィーンという名は、この地に1~3世紀頃にかけて遠征を行ったローマ軍が、おいしいワインに感動し、Vinndobonna(おいしいワイン)と呼んだことに由来するとの説もあり、ウィーンとワインは切っても切れない関係にあるんです。

中心街からトラム(路面電車)38番に乗って約20分のハイリゲンシュタットやグリンツィングのある19区は、お金持ちが住む高級住宅街ですが、ウィーン全体の約3分の1にあたる200haの葡萄畑が広がるりっぱなワイン産地。いってみれば成城学園前あたりで、世界でも認められるワインが造られているという感じなのです。

ウィーンのワインといえば、なんといっても2013年に原産地統制呼称DAC(Districtus Austriae Controllatus)に認められたフィールド・ブレンド(混植混醸)のワイン〈ヴィーナー(ウィーン)・ゲミシュタ・ザッツ〉ですが、昔からこの19区の名産でした。今やウィーンの顔として、国内でも海外でも人気ですが、じつはほんの15年ほど前までは、ゲミシュタ・ザッツは、安酒の代名詞だったのです。

そもそも品種によって異なる作柄を、複数の品種を使うことで補完する、リスクヘッジの目的から生まれたものだそうです。それが適地栽培の考え方から単一品種へとシフトしていくなか、ウィーンの19区の街道沿いに軒を連ねるホイリゲ(ワイン居酒屋)は、週末には家族連れが集まり、特に品質向上の努力をせずとも、大量消費されていったため、ゲミシュタ・ザッツといえばガブ飲み系の酒というイメージが固定してしまったのです。

そんななか、ゲミシュタ・ザッツ・リバイバルの立役者となったのは、19区とともに銘醸地として知られ、ドナウ河をはさんで、東側にある21区のシュタマーズドルフを本拠地とするフリッツ・ヴィーニンガーでした。

9月最終土曜日、みんなが楽しみにするワインハイキングは、ワイン片手に葡萄畑をまわるトレイル・ウォーク。
9月最終土曜日、みんなが楽しみにするワインハイキングは、ワイン片手に葡萄畑をまわるトレイル・ウォーク。
フィールド・ブレンド(混植混醸)が復活。

フリッツを訪ねたのはまさに収穫のさなかで、次々と葡萄がワイナリーに運ばれてくる、一年で最も忙しい時期(スミマセン!)。てきぱきとスタッフに指示を与えながらも、常に笑顔でワインへの熱い思いを語ってくれました。

ウィーンでいち早くビオディナミを取り入れたことでも知られる。  
ウィーンでいち早くビオディナミを取り入れたことでも知られる。  

ヴィーニンガー家は、100年以上続く葡萄栽培農家ですが、クオリティワインを目指したのは、フリッツのお父さんで、1985年のワインスキャンダル(オーストリアの甘口ワインから、ジエチレンアルコールという不凍液が発見され、一夜にして世界中の市場からオーストリアのワインが消えたという事件。その後これに立脚してヨーロッパ一厳しいといわれるワイン法を制定。)の後のことだそう。なんとフリッツはこのオーストリア史上に残る年に国立クロスターノイブルク栽培醸造学校を卒業して家業に加わりました。

シュタマーズドルフのレス土壌は、ブルゴーニュ系品種に向くことから、フリッツの造るフルボディのシャルドネやピノ・ノワールが高く評価されていました。

転機となったのは1999年ごろ。本拠地とは異なる土壌を求め、19区の石灰岩土壌のヌスベアクに土地を入手。そこはゲミシュタ・ザッツの故郷として知られてはいたけれど、フリッツが目指すのはクオリティワインゆえ、全部植え替えるつもりで、ほんの気まぐれでゲミシュタ・ザッツを造ったところ「そのおいしさに驚いた」そうです。「品種によって熟期が違う葡萄を一緒に仕込むことで複雑味が出る。ゲミシュタ・ザッツは、ウィーンのテロワールの表現だ」と語ってくれました。

ヌスベアクのなかでもベストサイトといわれるローゼンガートゥル畑のほか合計4種のゲミシュタ・ザッツを造り、これを新しいウィーンのスタイルとして世界に認知させることに成功。2006年、考え方を同じくする5人の仲間と共に「Wien Wein(ヴィーン・ヴァイン)」を結成し、ウィーンのワイン文化を盛り上げています。

ゲミシュタ・ザッツは、最低3種類以上の葡萄を使用(10%〜50%)することが義務づけられています。造り手によってその比率はさまざまなので、ぜひいろいろなタイプのゲミシュタ・ザッツを体験してくださいね。

Fritz Wieninger
住:Stammersdorfer Straße 31, 1210 Wien

協力:WienTourismus