カリフォルニアのピノ・ノワール – 6 – 常に進化するカリフォルニア・ピノ、
そのさまざまな流れを追った

(2015.05.02)

カリフォルニアでピノ・ノワールの生産量が最も多いのはソノマ。だが、二番手につけるモントレーが位置するセントラル・コーストはここ10年でピノの産地として大きく浮上してきた。さらにバランスを身上とするピノ・ノワールを追求する団体なども結成され、常に熱いカリフォルニア・ピノ・ノワールの今をレポートする。
一口にソノマと言ってもそのテロワールはさまざま。トレンドは海沿いのソノマ・コースト
ナパのすぐ西に位置するソノマ・カウンティは、全体では40万ヘクタールの広さがあり、そのうちの6%、2万4000ヘクタールでぶどうが栽培されていて、ピノ・ノワールの生産量はカリフォルニアで最大。そんなソノマの特徴と最新の動向をソノマの生産者団体、ソノマ・カウンティ・ヴィントナーズの広報、ニコル・デイリーに聞いた。

AVAは古くから有名なカーネロスやロシアン・リヴァー・ヴァレーなど16を数え、そこに750のワイナリーがあり、ワインを生産している。ぶどうもナパと接する東側ではカベルネ・ソーヴィニヨンなどが多いものの、それら以外では年間を通しての気温も低く、ピノ・ノワールやシャルドネの栽培に向いている。

ピノ・ノワールが多く見られる産地を特徴付けるのは霧。ロシアン・リヴァーを遡るルートと、南北を山地に挟まれたペタルマの町を抜けるふたつがあり、これはそのまま太平洋からの冷気の通り道に当たっていて、ペタルマの町周辺に広がる産地はペタルマ・ギャップとして現在17番目となるAVAの申請中。

最近のトレンドは海沿いのソノマ・コースト、なかでもフォート・ロス=シーヴューなど標高の高い産地が注目されている。内陸の産地に較べより冷涼なため、ぶどうの生育期間が長くなり酸のしっかりしたピノ・ノワールが収穫でき、過度な重さなどとは無縁な調和のとれたワインができあがるとのこと。

テイスティングしたのはハートフォード・コートとフリーマン(オーナーは日本人女性)、2種のソノマ・コースト産ピノ・ノワール。ハートフォードはフォート・ロス=シーヴューの北にあるファー・コースト・ヴィンヤードからの単一畑産、フリーマンは複数の畑のブレンドという違いはあるが、双方ともアルコールは14%台ながらピノらしいきれいな色合いと奥行きある風味のワインで、味わいには複雑さも感じられ、時間とともに変化の愉しめる快適なものだった、

右のフリーマン・ピノ・ノワールのつくり手は日本女性
右のフリーマン・ピノ・ノワールのつくり手は日本女性
ソノマの生産者団体、ソノマ・カウンティ・ヴィントナーズの広報、ニコル・デイリー
ソノマの生産者団体、ソノマ・カウンティ・ヴィントナーズの広報、ニコル・デイリー
エレガントなピノ・ノワールを求める流れは徐々に大きくなってきた
では実際、日々ユーザーと接しているワイン・ショップでのピノ・ノワールの動向はどうか、サン・フランシスコのユニオン・スクエア近くにあるカリフォルニア・ワイン専門店、ナパ・ヴァレー・ワイナリー・エクスチェンジに聞いた。

カリフォルニア・ワインだけで440種以上をストック、ピノ・ノワールは90を超える銘柄がオン・リストされカベルネに次ぐ品揃え。スタッフには日本人女性もいて英語でなくとも注文ができるワイン・ショップとして知る人ぞ知る店だが、その岩元ワイン・セールス・ディレクターは6年ほど前からピノ・ノワールのブームが来ているという。パーカライゼーション(ロバート・パーカー好みのビッグで凝縮感に富んだ強いワイン)されたピノ・ノワールを求める客も依然いるものの、食事と合わせて違和感のないやさしい味わいものやエレガントなタイプの要望が増えたと感じている。

その具体的なカタチとして、カリフォルニアのピノ・ノワールをめぐる動きで現在注目されているのがIPOB(In Pursuit of Balanceの頭文字を並べたもので、バランスの探求の意)。2011年設立のまだ新しい団体ながら、2015年現在33のワイン生産者が加盟、サン・フランシスコやニュー・ヨークなどで試飲会を開催してきた。

活動はバランスのとれたエレガントなピノ・ノワールとシャルドネを広めること。高い新樽率に高アルコール、過度な抽出などによりつくられた濃い色調の所謂ファットなピノ・ノワールの対極にあるようなワインを追求している。だからといって例えばアルコールは何パーセント以下でなければならない、というような規定はなく、あくまでワイン全体が優美なバランスを保っているという点に重きを置く。2015年4月には24ワイナリーが来日し、米本国以外では初めてとなるテイスティングとセミナーが大阪と東京で開催された。

IPOB初の海外セミナーとテイスティングは大阪と東京で開催された
IPOB初の海外セミナーとテイスティングは大阪と東京で開催された
ナパ・ヴァレー・ワイナリー・エクスチェンジの日本人スタッフ、 岩元美度里ワイン・セールス・ディレクター
ナパ・ヴァレー・ワイナリー・エクスチェンジの日本人スタッフ、
岩元美度里ワイン・セールス・ディレクター
テイスト・オブ・サンタ・リタ・ヒルズ Taste of Sta.Rita Hills Lompoc
地元のAVAサンタ・リタ・ヒルズにこだわり、品揃え。常時20種以上がスタンバイ
セントラル・コーストの南端にあるサブAVAサンタ・リタ・ヒルズの中心地がロンポク。このロンポクの町にあるのがワイン・ゲットーで、以前は工業団地だった場所に少量生産のワイナリーや、テイスティング・ルームを持たないワイナリーがショップを出すなどして30軒ほども集まり、そのなかにテイスト・オブ・サンタ・リタ・ヒルズはある。

オーナーはアントニオ・モレッティ。サンタ・リタ・ヒルズにこだわり、その素晴らしさを伝えるためにショップを開店、常時20種前後のサンタ・リタ・ヒルズ産のワインがテイスティング可能。

サンタ・リタ・ヒルズはAVAの認定が2001年とまだ新しい産地ながら、そのポテンシャルから主に高いクオリティのピノ・ノワールの産地として今最も注目を集めている。太平洋から20キロメートル弱の距離しかなく常に西からの寒風が吹き付けるため冷涼で、加えて日較差が大きい地。ロンポクの町のすぐ東に産地は広がり、認定された範囲は1万2000ヘクタールあるがぶどうが植えられているのは700ヘクタール弱で、そのなかにはシー・スモークやサンフォード・ベネディクトなど話題の畑が点在している。

テイスティングしたのはサンタ・リタ・ヒルズで西寄りにあるマチャド・ヴィンヤードのピノ・ノワールを用いアントニオ自身がつくるモレッティ、次がほぼ真ん中に位置するメルヴィル・ヴィンヤードのピノ・ノワールを使ったボナコルシ、3本目が最も東に拓かれた畑、リオ・ヴィスタ・ヴィンヤードのぶどうを使用したソーン・セラーズのピノ。

それぞれに個性的なピノ・ノワールだったが、なかでも自身が手掛けるモレッティはピノらしい透明感のある色調に酸がしっかりと備わり、アルコールも13%と低く全体にバランスのとれたもので、確かにサンタ・リタ・ヒルズがピノ・ノワールの地として脚光を浴びているのが納得のワインだった。

店エントランス ロンポクの町のワイン・ゲットーに店はある
店エントランス ロンポクの町のワイン・ゲットーに店はある
ワイン3種。全てサンタ・リタ・ヒルズ産ピノ・ノワール
ワイン3種。全てサンタ・リタ・ヒルズ産ピノ・ノワール
ワイン・セラー。テイスティングだけでなく販売もしている
ワイン・セラー。テイスティングだけでなく販売もしている
オーナーのアントニオ・モレッティ、ワイナリーも経営
オーナーのアントニオ・モレッティ、ワイナリーも経営