不定期に営業するアトリエ&食堂で、春夏秋冬のおいしいものを。たかはしよしこさんのアトリエ
『S/S/A/W』で旬の味を。

(2012.10.11)
ラムのトリッパの香草のサラダ
ラムのトリッパの香草のサラダ
 
2012年9月1日に『S/S/A/W』が誕生。

オープンして2週間め、予約が取れて食事に行くと、たかはしよしこさんは「こちら新宮のお魚屋さんの中本さん。いつも新鮮なお魚を届けてくれるんです」と和歌山から食事に来ていた『辻本大二魚店』の一家を紹介してくれました。聞けば5年前に雑誌の取材を通して知り合い、中本さんの魚の目利きぶりにすっかり感動したよしこさんは、それからずっと中本さんから魚を届けてもらっているのだという。

この日もぴちぴちのサバをさっと締めたシメサバのマリネや肉厚のアオリイカを使った揚げ物料理など、新鮮な魚にきちんと仕事されたお料理がメニューにオン。「5年間、ただの一度も臭ったり、柔らかかったりというように外れたことがないんです!」とその目利きぶりにぞっこんの様子。
 
取材のときには「この堀江さんのシャモ食べてください。肉も脂も本当においしいんです」と伊豆・天城でシャモの放し飼いをしている堀江さんの魅力を話してくれました。食べ物、運動、生育期間などすべてにおいて徹底的にこだわって育てているとのこと。よしこさんは、堀江さんのシャモを食べる旅行を組んで友人たちを連れていくほどの惚れ込み方です。「一匹まるごと捨てるところは一切ないんです。すべてがおいしいんです」。

洞爺湖のSASAKI FARM(ササキファーム)から届いた野菜たちはどれも新鮮で勢いがあるものばかり。土と元気な葉っぱがついたニンジンや花ごと送られてくるハーブたちは、ビニール袋に入って旅をしてきたというのにいきいきしています。「ディルの花ごと送ってくれたんです、かわいいですよね」とハーブは食卓でなくカウンターの花瓶の中におさまっていました。

このように『S/S/A/W』で使われる素材はすべて、よしこさんが信頼関係を築いてきた生産者のものばかり。しかもそれはブランド化されたものではなく、よしこさん自身が人を通じて出会ったり、たまたま口にして味わいに感動して連絡をとって交流を深めた生産者のものばかりなのです。

これまでケータリングやイベントでのフード制作をしていたよしこさんのお料理には少なくないファンがいたものの、実際に食べられる機会はあまりなく、今回アトリエ開放型のお店ができたことを心から喜んでいる人が大勢います。

お料理はたかはしよしこ印のオリジナル。日々届けられる旬の素材を見てから、ひと皿ひと皿アイデアが組み立てられていきます。

  • SASAKI FARMのニンジン
    SASAKI FARMのニンジン
  • ディルの花も一緒に送られてきました
    ディルの花も一緒に送られてきました
  • ハーブは花付きであることが多い
    ハーブは花付きであることが多い
  • 種類も色もさまざまなトマトがランダムに
    種類も色もさまざまなトマトがランダムに
  • 珍しい紫ブロッコリー
    珍しい紫ブロッコリー
  • ほおずきはデコレーションのち食材
    ほおずきはデコレーションのち食材
偶然が重なって気づくとアトリエを開くことに…。

ケータリング用のアトリエを造ろうと準備を進めていた矢先、東日本地震ですべての計画が振り出しに戻りました。ケータリングもイベントもオーガニック料理を提供してきたたかはしさんにとって、地震以降「食の安全」への基本がゆらいでしまったことから、しばらく何も考えられない状態が続いたのだといいます。

北海道移住など考えていた昨秋、『もみじ市』への出店依頼が届きました。せっかくだから何か販売できるものをと、以前『murmur magazine』 で好評だった「エジプト塩」を改良してびん詰めにして販売することにしました。

たくさんつくっていざ2日間のイベントへ!と思ったら大雨で開催が1日だけになってしまったのです。売れ残った400びんの「エジプト塩」を前に途方に暮れるよしこさん。友人たちに相談を持ちかけたところ、『murmur magazine』では通販を、外苑前の『doinel』ではお店で販売をすることになりました。すると一転今度は「エジプト塩」が大ブレイク、大量の追加注文を受けることに…。

こうしてアトリエが本格的に必要になったよしこさんを救済したのは、西小山の行きつけのワインバー『カウラ』。お店の空いていないお昼間をアトリエとして提供してくれることになったのです。

それでもまだ移住するべきか迷い続けていたよしこさんですが、『カウラ』(現『ワルツ』)の店主から恵比寿へ引っ越しをすることが決まったのでこの場所を引き継がないかという提案をもらったとき、このまま東京に残ってアトリエ&食堂をやろうと決めたのだと言います。

「『もみじ市』で雨が降ってなかったら、このお店はなかったのかもしれません」と笑うよしこさんは、自分が好きな人たちとの親交を深めることで、まるで水が流れるようにごく自然にアトリエ&お店を開くことになったのです。

エジプト塩。レシピブックがついてます
厨房の雰囲気感じられます
頼もしい影の下の力持ち。

『S/S/A/W』誕生にはもうひとり陰の立役者がいます。それはよしこさんのご主人、前田景さん。景さんはグラフィックデザイナーとしてお店のアートワークを手がけると同時に、ワインのセレクトを担当しています。3年ほど前から自然派ワインにすっかりはまり始め、よしこさんと一緒にあちこちにワイン探しに出かけていました。

「自然派ワインの生産者の話を聞いたとき、野菜づくりと一緒だなと思ったんです。農薬を使わず、化学肥料を使わず、リスクを背負って虫や病気と闘いながら農作物をつくり続け、健康な大地をつくって本当においしい野菜や果実を作るって大変なこと。ワインの世界にも同じ意識を持った人たちがいるんだってちょっと感激しました」というよしこさん。景さんと一緒にすっかりその味のとりこに。さまざまなワインバーやショップの人、インポーターさんから話を聞いておいしい自然派ワインを試していきました。

前出の『カウラ』に足繁く通うようになったのも、おいしくて信頼できるワインをリーズナブルに飲めるからという理由から。「味の善し悪しはわかるんですけど、フランスやイタリアの生産者の名前やワインの名前が全然覚えられなくて……」ということで、ワインのことはご主人におまかせ。店に置かれた大きなワインセラーには、ぎっしりと自然派のワインが詰まっています。デザイナーである景さんも、都合がつく週末の営業日にはお店に出て、ワインのサービスや説明をしてくれます。

ロゴやメニューなどグラフィックはすべて景さんがデザイン
左からドメーヌ・スクラヴォス/メタジトニオン6,300円、アルベルト・テデスキ/ピニョレット5,800円、レ・コステ/ロッソ6,500円、フランク・コーネリセン/ロッソ・ディ・コンタディーノ6,300円
3年間のすてきな出会いを形に。

「自然派ワインとの出会いがきっかけで好奇心が刺激されて興味がどんどん広がったのかも知れません」というよしこさん、ほかにもエジプト塩の元になるオリジナルスパイスレシピを雑誌に掲載したり、ウェディングケータリングで洞爺湖のささきファームと出会い北海道の野菜を知った……。すべての変化は約3年前に始まりました。もともと和食が好きで和食をメインにお料理づくりをしてきたよしこさんですがが、ハーブ&スパイスのアレンジをはじめ、緯度の高い北海道でつくられるヨーロッパ品種の野菜たちを取り入れることで西洋のエッセンスを取り入れたり、ワインとの相性を考えて料理づくりをするようになったことなどで、もともとの和食ベースのスタイルに新しいよしこテイストが加わり、ほかであまり見かけない料理がたくさん誕生したのです。

取材に行った日はオープンから約1カ月。「実はこの1カ月ですごくたくさんアイデアができたんです。不特定多数の人に食べてもらう料理をつくることは初めてだったので、おそるおそるいろいろと試しているうちにいろんな発見があって!」とよしこさん。一部を聞かせてもらうと、辛いのが苦手な人も食べられるオリジナル・アリッサの活用した調理法や、ルバーブなどなじみの少ない食材による新レシピを考えることなど、思い描く料理にはかぎりがないようです。いったいどこまで進化するのかわからないよしこ料理、みなさんも早く体験してくださいね。

アミューズ(パプリカのフムスとレバーペースト、竹炭とウコンのパリパリチップス)
堀江さんのシャモのグリエ・ビーツのソース・赤い野菜たちのグリエ添え

S/S/A/W(エスエスエーダブリュー)

東京都品川区荏原5-15-15 西小山サマリヤマンション1F
Tel & Fax 03-3782-5100
営業日はおもに週末。ウェブで確認を。
ウェブサイト:http://s-s-a-w.com/

  • 改装を担当したのは幼なじみの空間デザイナー『creo』の大西裕子さん
    改装を担当したのは幼なじみの空間デザイナー『creo』の大西裕子さん
  • 『カウラ』のイスと新しい机がぴったりマッチ
    『カウラ』のイスと新しい机がぴったりマッチ
  • かわいい食材はお店のインテリアに
    かわいい食材はお店のインテリアに
  • よしこさんが手描きするメニュー。お料理は日替わりです
    よしこさんが手描きするメニュー。お料理は日替わりです