パンケーキ先生 トミヤマユキコさんに訊く なぜブーム? パンケーキ。
(2013.10.07)落ち着くどころかますますの盛り上がりを見せるパンケーキ・ブーム。年間200食のパンケーキを食べ歩き、書き上げた『パンケーキ・ノート』が大人気のパンケーキ先生こと トミヤマユキコさんにパンケーキの魅力とそのブームの要因についてお話をうかがいました。
■トミヤマユキコ プロフィール
1979年 秋田生まれ。ライター、早稲田大学非常勤講師。もともとレトロ喫茶店好きだったが、錦糸町の喫茶店『トミィ』のパンケーキを口にしたことをきっかけにパンケーキの魅力に目覚める。年間200食ものパンケーキを食べ歩き『パンケーキ・ノート おいしいパンケーキ案内100』(リトルモア刊 )にまとめ出版、3万部の大ヒットに。『週刊朝日』で書評を、『図書新聞』で「サブカル♡女子図鑑」を連載中。大学では少女小説、少女マンガに関する講義を担当している。
老若男女、世代を超えて
語れるスイーツ。
ーハワイからやってきた『エッグスンシングス(Eggs’n Things)』、オーストラリアからやってきた「世界一の朝食」こと『ビルズ(bills)』。2010年あたりから海外の有名パンケーキショップや、パンケーキのおいしいお店が立て続けにオープンしています。この8月には骨董通りに『クリントン・ストリート・ベイキング 東京』がオープン。開店前から行列の人気ぶりです。なぜこれほどパンケーキが人気なのでしょうか?
トミヤマユキコ:これまでのスイーツブームとの最大のちがいはパンケーキが珍しい食べ物ではないというところ。かつてパンナコッタやナタ・デ・ココがブームになった背景には食べたことのない海外のスイーツを食べてみたいという欲望がありました。しかし1回食べるとそれで満足してしまうのが「珍しい系」スイーツの宿命です。
ところがパンケーキはもともとホットケーキとして馴染みのあるスイーツ。食べた瞬間に自分の知っているホットケーキを基準にその違いで語ることができますし、みんなすぐ評論家になれるんです。ホットケーキは苦手、という人も少ない。つまり老若男女、世代を超えて語れるスイーツなんですね。
スイーツの中では、値段もお手頃、しかも、基本的に小麦粉と牛乳を混ぜて焼くだけの料理なので味覚の繊細さをそこまで要求されない。バリエーションは豊かですが複雑さはない。ワインなどのように味音痴が入って行きにくい世界でもない。語りやすい、庶民の食べ物。B級グルメと言えなくもありません。
今までなかった
女子がハマれるB級グルメ感覚。
トミヤマユキコ:B-1グランプリなどに見られるこれまでのB級グルメは男のための、男によって支えられているブームというイメージが強かった。手頃な値段でいろんな種類が食べられて、みんなと情報交換しながら楽しめるという女子向けの食べ物があまりありませんでした。ショコラやマカロンではちょっと値が張る。今までなかった女子がハマれるB級グルメ感覚で特に女の子の間で流行ったのではないでしょうか。
(教鞭をとっている)大学の講義の終わりに最近行ったパンケーキのお店の話をすると女子学生たちはすぐに行ってみるようです。
人気店の行列も女の子たちにとっては苦にはならない。アミューズメントパークと一緒ですから。恋バナしたりひたすらワイワイ喋りながら楽しく時間が過ごせる上に最終的にパンケーキというアトラクションにありつける。若くて体力のある女の子たち向きなんです。
SNS時代にマッチした
コミュニケーション・フード。
トミヤマユキコ:またパンケーキは、スマートフォンなどで撮影した時に絵になりやすい、フォトジェニックなスイーツであるところも魅力のひとつだと思います。
今までのスイーツだったら広告をうち、それを見たお客様にお店に来ていただくというのが普通でしたが、今やお客様が自主的にキレイな写真を撮っておいしかった、などの感想を書いてSNSにアップして評判を広めてくれます。
ー自慢しやすい。SNS時代にマッチしたスイーツということでしょうか。
トミヤマユキコ:SNSを通じてパンケーキ・トークしたり、家の中では世代を超えて共通の話題にできるコミュニケーション・フードであるということができると思います。
ーユニークな考察ですね。ところで青山・原宿エリアにパンケーキのお店が集中するのは、何か理由があるのでしょうか?
トミヤマユキコ:青山、原宿は人気ブティックがひしめくおしゃれなエリア。そこでクレープなどの粉ものスイーツを食べる、という文化はすでに伝統としてあります。クレープがブームになった時は巻いたものを手に、立ったまま食べていました。でもパンケーキはそれよりゴージャスになり着席してフォークとナイフを使って食べる。ごちそうを食べる時と身体の動きが同じで、クレープに比べると贅沢感、スペシャル感があります。
パンケーキはすべてがちょうどいい。安すぎず、かといって超高級でもない。ほどほどの上質感がある粉ものスイーツです。これも魅力のひとつでしょう。
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トミヤマユキコ:パンケーキのおいしいお店は基本的に焼きの技術が高いお店。だから他の「焼く系」のメニュー、スクランブルエッグなどもおいしいですよ。
おいしいパンケーキは結局は火加減をうまく操れるかというところがポイントです。もちろん生地にもこだわりがあったりしますが、最終的に焼くのがうまくないとどうにもならない。既成品のミックス粉で作っても焼く人が上手だとフワフワでおいしくなったりもしますし。
日本の古き良き喫茶店のおいしいホットケーキというのはある種、伝統芸能であるということができると思います。なかなか世襲もできないし、その人が身につけた芸を伝えるのが難しい。火にかけたらずっとつきっきりで見ていなくてはいけない手間のかかる作業をあえてやるこだわりのメニューでもあります。
作ろうと思えば誰でも作れるメニューなのに、誰にもマネできない、という水準に達したお店だけが有名店として愛されて残っていくのではないでしょうか。
●トミヤマ先生おすすめのパンケーキ10
トミヤマ先生著『パンケーキ・ノート』(リトルモア刊 1470円)はこれまでに食べた中から特にオススメのパンケーキをそれぞれ Sweets(生クリームトッピングなど甘いパンケーキ)、Picture Book(絵本から飛び出してきたような)、Male(男性ひとりでもでかけられるお店)、Female(お店がかわいいなど乙女心を刺激するお店)、Chic & Retro(懐かしさ優雅さを感じさせる)、World(海外からやってきたパンケーキ)、Natural(身体にやさしい)、Savory(甘くない)の7つのポイントでチャート化、好みのパンケーキがひと目でわかるようになっていて画期的です。ここでは話題のニューオープン『クリントン・ストリート・ベイキング 東京』はじめ、Picture、World、Natural そして関西のお店おすすめ10をご紹介。
New!!
クリントン・ストリート・ベイキング 東京
(CLINTON STREET BAKING TOKYO)
ニューヨークのロウアーイーストサイドで大人気のダイナー。オーナーのニール・クレインバーグは元フランス料理のシェフというのがよくわかる絶妙な焼き加減のパンケーキです。口当たりはサクッ、フワッ。噛むとしっとり、中はまったり。厚み、歯ごたえが肉っぽいです。3枚重ねのパンケーキにメープルバターをかけていただきます。ブルーベリー、バナナとクルミ、チョコレートの3種類があり、ソースやトッピングをかけるだけでなく生地にもそれぞれの具材が練り込まれています。
●Picture Book
運ばれて来た瞬間、圧倒的なぶ厚さに思わず感嘆の声が出ます。厚みのあるホットケーキは、ゆっくり時間をかけて焼くため、たいてい表面はクリスピーなのですが、こちらはしっとり柔らかい。焼き上げた生地に溶かしたバターをしみ込ませるせることで、マドレーヌのようなしっとり感を出すのだとか。さらに口の中でとろける感じは、カスタードクリームを思わせる濃厚さ。ぶ厚さの中に繊細さが光るホットケーキです。
ルポーゼすぎ
男性にオススメのお店を聞かれることが実は多いです。ケーキやパフェよりは甘さ控えめでたべごたえもあることが、受けているのかもしれません。ただホットケーキを食べたい男性もメルヘン全開のお店で女の子に囲まれながら食べるのは厳しいはず。その点、地元密着型の喫茶店ルポーゼすぎなら安心です。近所のおばちゃまたちや、営業途中とおぼしきサラリーマンに混じって、心ゆくまでホットケーキを楽しめます。生地はぶ厚いのにさっくりと軽い食感。ナイフを入れる瞬間の幸せな気分が忘れられず、何度も足を運んでしまいます。
●World
ウィーンに本店を持つ老舗の日本第1号。オーストリアを代表する伝統スイーツのひとつ「カイザーシュマーレン」が食べられます。カイザーは皇帝、シュマーレンとには「切れ端」や「寄せ集め」といった意味があります。変わった名前のワケは調理法を知れば明らか。焼いた生地をひと口大に切り分け、粉砂糖をまぶしお皿に盛りつけるのです。確かに切れ端を寄せ集めています。生地は黄色くフレンチトーストやプディングを思わせるしっとり食感。こちらでは、りんごとスモモ、2種のソースで甘酸っぱくいただきます。
ビルズ 表参道店(bills)
「世界一の朝食」を求めて、連日たくさんの人が訪れるカジュアルダイニング「bills」。リコッタを使ったパンケーキは、トロっと柔らかく仕上げられることが多いのですが、こちらの生地は、ほんのすこしだけ粉の感じがあるのが特徴的。とろみを抑えた分、ふっくらとボリュームがあり、腹持ちも◎。はちみつを練り込んで作られる自家製ハニーコームバターやフレッシュバナナとの相性も抜群で、これぞ朝のパワーフード! といった感じ。朝から気分が上がります。
ホイップクリームが山のように盛られたパンケーキは一度見たら忘れられません。インパクトは強いけど、口当たりはとてもあっさり。最後まで飽きません。しっとりと柔らかい生地にたっぷりつけて食べれば飲むようにつるっと胃袋へ。生地の味はやや複雑。甘さを基本としながら、ちょっぴり塩気と苦味を感じます。このクセの強さが、ストロベリーやバナナといったトッピングと絡み、他店にはマネできない、調和のとれたおいしさを演出します。
●Natural
デイルズフォード・オーガニック青山店 (Daylesford Organic)
イギリスからやって来たオーガニックブランドの日本第一号店。こちらのカフェスペースで、クレープのように薄く大きく焼かれた伝統的なブリティッシュパンケーキがいただけます。有精卵を使った生地は、黄味がかっていて、もちもち。口あたりはあっさりしていますが、旨味がぎゅっと凝縮されているのがわかります。「レモン&シュガー」は、砂糖とレモン汁だけでいただくシンプルな組み合わせ。さわやかな酸味があとを引きます。
ソークス(SOAKS)
野菜パウダーや感想野菜など、良質な国産野菜を使った製品づくりにこだわある野菜ブランド「SOAKS」が、自社製品を楽しんでもらうためのカフェ&ショップスペースを営業しています。
こちらへ来たらまず食べておきたいのが「パンケーキ リコッタ&バナナ」。歯ごたえしっかり系の生地の上に、バナナとリコッタチーズ、生クリームがたっぷり載っています。かわいらしいトッピングだけれど、男性も満足できるボリューム感です。
●OSAKA
京都の老舗甘味処として知られる『梅園』の姉妹店。こちらのホットケーキは、抹茶味。生地にメレンゲが混ぜ込まれているのが特徴です。抹茶味は他店にもありますが、メレンゲ入りはまだ希少種。キメが細かくふんわりとしており、まさに泡のような食感。和洋折衷のおいしさをお箸で楽しんでください。
純喫茶アメリカン
1946(昭和21年)創業の老舗純喫茶店。きらびやかなシャンデリアに大きな壁画! 贅を尽くし凝りに凝った内装は古き良き大阪の盛り場を思わせテンションが上ります。2枚重ねのホットケーキはあらかじめきれいに6等分され、バターもちゃんと塗られているため、あとはとろとろのシロップをかけて食べるのみ、大きさと丸さがきっちり整った記事、程よいふっくら具合に、お店の歴史と焼き手の技術を感じます。