土屋孝元のお洒落奇譚。「最期の晩餐」はドーヴィルのスープ・ド・ポワソン? 

(2015.02.17)
「最期の晩餐」には……美味しいステーキ、でしょうか? © Takayoshi Tsuchiya
「最期の晩餐」には……美味しいステーキ、でしょうか? © Takayoshi Tsuchiya
悩ましい。究極の質問。

青山のとあるイタリアンレストランで、友人とフルコースをいただいていた時のこと。Tボーンステーキが素晴らしく美味。このように、仲間や家族、恋人と楽しく美味しい幸せな食事をした時に、ふと これが究極の食事だろうか? と考えるようになりました。

最期の晩餐&食事に何が食べたいか?……さて何だろうと思うのですが、季節を感じる魚や野菜が使われた高級な京風懐石でもなく、眼にも美味しさが伝わるフレンチでもイタリアンでもなく、血の滴るような美味しいステーキでもなく、焼き河豚に河豚刺し、唐揚げ、鍋に雑炊の河豚尽くしでもなく、大間でも南洋黒鮪の最高の鮪の握りでもなく、ごま油が香る 揚げたての熱々江戸前天ぷらでもなく、同じく江戸前の鰻屋の鰻でもなく、本当に何だろうか、と。30代や40代の若い頃には前述の料理があがった事でしょうが、いま、この年齢になって考えると、はたと迷うものです。

ロングアイランド郊外でバッファローウィング、脱皮したてのソフトシェルクラブの唐揚げ、か? © Takayoshi Tsuchiya
ロングアイランド郊外でバッファローウィング、脱皮したてのソフトシェルクラブの唐揚げ、か? © Takayoshi Tsuchiya
 

単品なら、晩秋のフランス ドーヴィルのスープ ド ポワソンを一口とか、ニューヨーク ロングアイランド郊外のダイナーのような店のスパイシーなバッファローウィング少々とか、脱皮したてのソフトシェルクラブの唐揚げのとか、パリの街角のカフェでブーランジェリーで焼き立てのバケットにハムとチーズを挟んだだけのジャンボンフロマージュサンドイッチとか、屋台の小ぶりなどんぶりの台南たーみー麺と白髪ネギたっぷり腸詰めとか……。こちらは台湾風の甘味噌があるとなお良いですね。それから、香ばしいピーナツとシャキシャキのもやしがたっぷりのバンコクの屋台のパッタイとか、ホンコンペニンシュラホテルのイングリッシュブレックファーストのクロテッドクリームとストロベリーやブルーベリージャムとスコーンとか、いろいろと頭に浮かぶのですが。

***

僕が思う究極は、竈で炊いた白いご飯に沼津か網代あたりの鯵の干物、天城のわさび漬け少々、梅干しに朝取れの生たまご、焼きのり、納豆があればありがたいです。ネギと豆腐の味噌汁、まるで伊豆の温泉旅館の朝食ですね。最期の食事には、食べ慣れたものを選ぶのでしょうか? ふだんの日常のご飯になりました、みなさまは、いかがでしょうね。

幸せな食事、幸せな時間とは、その時、その場で感じるのではなく、後で思い返してみて「ああ、あの時が幸せな時間と呼ぶのか。」と思うことですよ、と友人に言われたことを思い出します。

伊豆の温泉旅館の朝食が、僕の究極の選択でした。© Takayoshi Tsuchiya
伊豆の温泉旅館のような朝食が、僕の究極の選択でした。© Takayoshi Tsuchiya