軽井沢を味わう “水のジビエ”は、
旅先の幸福な出会い。

(2013.12.20)

水のジビエ——この魅惑的な言葉を聞いてから、ずっと行ってみたかった。軽井沢 ホテルブレストンコートのメインダイニング『ユカワタン』。

ダイニングはホテルとは独立した一角にある。森の中の小道を、落ち葉を踏みながらサクサクと歩く。この季節だと、いちばん早い予約の18時でも、もうあたりは暗い。

宮沢賢治の童話『注文の多い料理店』に出てくる「山猫軒」にたどり着いたのもこんな夜じゃなかっただろうか、と夢想するうち、ぽうっと明かりがともった入口にたどり着いてほっとした。案内されて、広く間隔を取ったテーブルに着く。


木立の中にある一軒家レストラン。

9卓24席。ひろびととスペースが使ってある。メニューは15750円、18900円のコースとアラカルト。

料理はその日に入手する食材に合わせて、創られる。メニューを眺めてみると、ん? どんな料理か、想像がつかないものばかり。これまでそこそこの数のフレンチに行っているつもりなのだけれど、こんな経験は初めて。

説明を聞くと、「水のジビエ」の惹句があらわすように、信州の食材に拘りベースはあくまでもフレンチだけれど、美しい水に恵まれたこの土地の食材を贅沢に使い、フランスでも、日本でもない、ここ軽井沢の「ユカワタン」でしかいただくことのできない独特の料理になっているというわけだ。


6種のアミューズ。この前菜そのものが左からアミューズ・前菜・スープ・魚・肉・デザートと“コース仕立て”になっている。こういう遊び心も楽しい。

ユカワタンの料理を生み出すホテルブレストンコート総料理長の浜田統之シェフは、この独創的な料理で、2013年1月に日本人として初めてフランス料理界で最も権威あるコンクール「ボキューズ・ドール国際料理コンクール」で表彰台に立った。総合第3位、魚料理部門では世界という高評価。


ホテルブレストンコート総料理長・浜田統之シェフ。1975年鳥取生まれ。ボキューズ・ドール国際料理コンクールへは、2004年に日本大会で史上最年少優勝。2013年に世界第3位の栄誉に輝いた。

「幼い頃、港町で育ったんです。釣りが好きで、魚を父にさばいてもらっていました。新鮮な魚というのは、私にとって慣れ親しんだ食材なんです」と浜田シェフ。その経験が、川の魚を料理する時の原体験になっている。

「私はフランスで修行した経験はありませんが、フランスを訪れた際に、現地の料理人達が、地元の食材に誇りをもっている姿を見て感銘を受け、自分もそうありたいと強く感じました」(浜田シェフ)

その結果が、世界のどこにもない、この水のジビエという料理に結実した。たとえば、晩夏のスペシャリテ「鮎の炭火焼き ブーダンノワール風」は、炭火焼きした鮎に、鮎の肝と文字通りブーダンノワールが詰められている。こんな風に驚きのあるメニューも多く、その取り合わせの妙と独創性を楽しむのが、ここの作法だ。


冬のスペシャリテは佐久鯉のブーダンノワール風。長野県佐久市で育てられる鯉をブーダンノワール(仏料理で豚の血や内臓を使って作るソーセージ)の手法で仕立てる。

信州上田地鶏 真田丸。鶏肉の皮と身の間に鯉のムースを挟みこみ、タンパクな鶏の胸肉に鯉のコクと旨味をプラスして柔らかく仕立てた。

信濃雪鱒のタルタル。タルタルにした信濃雪鱒の身の上に酸味の効いたゆずのジュレと塩味の信濃雪鱒の卵をのせ、ディルや季節の花をあしらっている。

合わせるワインも地元長野産を中心に国産も多く揃えている。ソムリエがひと皿毎にその料理に最適なワインを提供する デギュラシオンは気軽に様々なワインを楽しむことができる。ここは、フレンチだからフランス産を…とこだわらずに、地元産にとことんこだわるユカワタンの流儀に任せてみたい。

デセールまでゆったりと楽しんだら、22:19発の終電に乗って東京に帰る。東京着23:28。まだまだ明日の始まりまでには間がある。次回、時間に余裕があるときは、ホテルブレストンコートや星のや 軽井沢へに宿泊することも、星野温泉トンボの湯に入って温泉を楽しむことも考えてみたい。

軽井沢をフレンチで味わうという体験。それは、旅先での出会いを思わせる。フランスからの技法という旅人と、東京からやってきた私と、ここ軽井沢という土地の食材と。出会いによってもたらされるものは、幸福な食事という時間だった。

またここへ旅をしにきたい、今度は大切な人と一緒に。その時は、どんな出会いがあるだろうか。

ブレストンコート ユカワタン

Tel:0267-46-6200(ホテルブレストンコート代表)
営業時間:17:30〜20:30LO
所在地:長野県軽井沢町星野 ホテルブレストンコート内
無休