ほろ酔い倶楽部 - 1 - ランブルスコ・テイスティング
(2009.07.16)新たにスタートする「ほろ酔い倶楽部」、ワイン好きが集まって本音でテイスティングを行うコーナーです。倶楽部の母体はBRUTUS編集部の倉庫で生まれたワイン研究会。ワインライターの柳忠之さん、葉山考太郎さんを筆頭に、ソムリエ、インポーター、造り手たち、総勢約100名が、16年にわたりテイスティング活動を続けてきました。このコーナーでは、会のメンバーによるテイスティングの様子をレポートしていきます。プロによる格付けのためのテイスティングではなく、一般のお酒好きに、お酒の特徴や雰囲気をわかりやすく伝えたいと思っています。また、お酒はワインに限らず、なんでもテイスティングしていくつもりです。ご期待ください。
第1回 今回のお題「ランブルスコ」
ランブルスコといえば、イタリアの赤のスパークリングワイン。1980年代のアメリカで爆発的に飲まれたワインで、イタリアン・コーク、あるいはレッド・コークの別名でも知られています。要するに、コカ・コーラに代わる気軽なワインだったわけですが、それだけではないようです。
さて、今回の「ランブルスコ」のテイスティング結果はいかに……?
今回のテイスティング・メンバー
杉元 淳平(すぎもと・じゅんぺい) 「世界の名酒辞典」の編集、執筆に携わること20年。 |
|
高木 幹太(たかぎ・みきたか) 元『ダカーポ』編集長。仕事の傍らイタリアのワイナリー100軒余りを取材。著書に『イタリア銘醸ワイン案内』。 |
|
一瀬 恵(いちのせ・めぐみ) 元ドイツワイン基金(ドイツ農業省の下部団体)の美人広報。英・独・仏語を話し通訳としても活躍。 |
—今回のテーマは「ランブルスコ」ですが、どんな印象をお持ちですか?
杉元(以下S) ランブルスコといったら、安くて軽い赤い泡。20年ぐらい前は、あるインポーターが、赤、白、ロゼと3種類揃えて売ってたな。まあ、あえて飲むようなワインじゃなかった。最後にいつ飲んだか記憶にないぐらい。
一瀬(以下I) ランブルスコって、赤じゃないんですか? 私、予習してきたんですけど。
高木(以下T) DOC(統制原産地呼称ワイン)のランブルスコは、赤かロゼのはずですよ。まあ、DOCでなければ、なんでもありですから。たとえばIGT(地域特性表示ワイン)という格付けの場合、その地域のブドウを使えば品種名を表記できるので、ランブルスコ種で造ったという意味でランブルスコの白はあり得るし、ヴィーノ・ダ・ターボラ(テーブル・ワイン)格付けなら、品種に関係なく、ワインの知名度に頼って、紅白で売る商法もありますからね。藁づとボトルのキャンティの白とか。
S そうそう、そういうやつ。680円とかで。藁づとボトルは、赤はキャンティ、白はアンティノーリ・ビアンコって書いてあった。実際にはキャンティじゃないんだけど、キャンティの白に見せかけて売るというような。
T 最初に整理しておくと、このワインは、ボローニャやパルマがあるエミリア・ロマーニャ州のワインで、ランブルスコという品種で作られる微発泡の赤。1970~80年代のアメリカで爆発的に売れたことがあって、イタリアン・コークとかレッド・コークっていう別名もある。おもに若い人がホームパーティで、宅配ピザやフライドチキンと一緒に、コーラの代わりに飲んだって感じかな。
I 軽くて、飲みやすくて、パーティのイメージですよね。
—実際にテイスティングしてみてどうですか?
S いや、驚いた。ランブルスコなのに、こんなに濃いのかって。
T たしかに濃くなった。力強さがある。
S 昔のランブルスコは色が薄くて、グラスの向こうが透けて見えたけど、これは色の抽出をちゃんとやっているね。オーストラリアのシラーズのスパークリングを思わせる濃さだね。
T イタリアの伝統ワインは、DOC規定など法律の整備もあって、1990年代から品質が劇的に上がっています。キャンティやソアヴェみたいな大量生産ワインもそう。ランブルスコも、以前のもとは比較にならないぐらいしっかりしたワインになっている。
S それに、甘いのだけじゃなくて、辛口もある。普通のワインの香りがする。
I 今日は7種類のランブルスコがあるけれど、バラエティ豊かで、コーラというような単純なものではないですね。どれも、おいしいです。
T いまのランブルスコは、甘いのばかりじゃなくて、残糖の程度によって、甘口、やや甘、やや辛、辛口とあります。むしろ最近は、辛口が主流だとか。
S ランブルスコは、やはり泡と甘さと果実味のバランスで飲むワインだと思う。辛口だと、ブドウの素の実力みたいなものが出てきて、普通のワインとの比較で厳しい部分もある。
I 私は辛口もいいと思います。ドイツの赤に似た感じがあって。ドルンフェルダーやポルトキーザーに通じるフルーティさを感じます。
T ドイツの軽い感じの赤と共通項があるのかな。私は、個人的には、やや甘あたりがいいな。甘口は濃くなった分、甘さが過剰に感じるし、辛口はどうしても普通のワインとの比較したくなる。
S 泡が抜けると余計にそう感じるね。泡があるうちに飲みたい。
—どんな料理にあわせて飲みますか?
T 現地では、やはり地元名産の生ハムやモルタデッラ(ボローニャ・ソーセージ)にあわせるのが、定番になっています。食事に行く前に、バールでそういうものをつまみながら、アペリティフに1杯、2杯って感じかな。
I 私は、生ハムの脂にすごくあうと思います。
S メンバーからは、生ハムの塩気とランブルスコの甘みをあわせると、口の中で、生ハム&イチジクの再現になるという意見もでたね。やっぱり甘さがポイントなんだよ。
T レストランの食事の流れの中でランブルスコっていうのはイメージしにくいんだけど、ピザはいけるんしゃないかな。それもナポリ風のピッツァじゃなくて、アメリカ風のピザ。それから、最近は、エスニック料理と相性がいいともいわれてる。やっぱり甘辛のコンビネーションがポイントになっているね。
I 私はお庭で、ガーデンパーティのイメージ。さわやかだし、ランチにシャンパンの代わりにいいと思うわ。
S ワインの質は上がったけど、やはりワイン通の酒っていうよりは、ランブルスコの特性から、入門編のワインっていう位置付けになるのかな。
T 確かに。アルコールの入ったファンタグレープみたいっていう意見もあった。ガチガチに冷やしてデザートワインとして飲みたいという。イタリアにはモスカート・ダスティという、やはり甘い発泡のデザートワインもあるから、そういう飲み方もいいかもしれない。
S いずれにしても、昔のランブルスコと比べたら100倍よくなっているし、十分に個性的。ランブルスコならではの楽しみ方があるように思う。
テイスティングデータ
Reggiano Lambrusco〈Ferneto〉 secco / 辛口 定価/ 2,600円 アルコール度数/11.68% 色も薄めで、酸が立って、これがいちばん昔のランブルスコに近い感じ(T) 軽さがあって、フルーティ。ラズベリーのニュアンス。ドイツの赤ワインを思わせる(I) |
|
Lambrusco Mantovano〈Pjafoc〉 semi secco /やや辛口 定価/ 3,800円 アルコール度数/11.38% ランブルスコのイメージを覆す濃さ。色調も濃い(S) とにかく濃さに驚いた。やや辛口だが甘みを感じる。ボリューム感がある(T) 酸味が抑えめで芳醇(I) |
|
Lambrusco grasparossa di castelvetro amabile amabile/やや甘口 定価/3,400円 アルコール度数/8.5% これも濃いが、甘さと酸、タンニンのバランスがいい(S) 濃さ、甘さ、リッチ感、現代的なランブルスコの典型だと思う。インポーターのスタッフが全員納得した彼らのイチオシ(T) |
|
Lambrusco IGT Emilia secco/辛口 定価/3,300円 アルコール度数/10.75% 濃くてキレのある、いままでにないタイプ。力強くて渋みがある(S) ここまで辛口だと、もはやランブルスコじゃない。泡が抜けると普通のスティルワイン (T) |
|
Reggiano Lambrusco〈Vigna di Tedola〉 secco/辛口 定価/2,800円 アルコール度数/12.46% 辛口だが、酸とタンニンのバランスがわりといい。4より泡の感じがいい(T) ランブルスコはやはり泡の効用が大きいと思う(S) |
|
Lambrusco Mantovano〈Loghino Dante〉 dolce/甘口 定価/2,150円 アルコール度数/5.9% 緑の野菜、ピーマンの香りがする。甘くて飲みやすい(I) 3、7と共通する甘くて濃い、モダン・ランブルスコ(T) |
|
Colli di Scandiano e di Canossa Malbo Gentile Dolce〈Vigna dei Gelsi〉 dolce/甘口 定価/2,250円 アルコール度数/6.55% 熟した乳製品の香り。こくのあるミルキーなアロマ。パルミジャーノにあう(I) さわやかな甘さと軽さが、ワイン初心者に受けそう(T) |
インポーターから
私たちはもともと音楽の仕事をする仲間で、ワインの専門家というわけではないのですが、ランブルスコにはまって、輸入まで手掛けることになりました。イタリアからかなりの数のランブルスコを取り寄せて、テイスティングしたのですが、ランブルスコは辛口から甘口までありますし、またレッジョ・エミリアを中心とするレッジャーノ産、モデナ産、マントヴァ産と産地の違いもあって、バリエーションも豊富です。その中から、今回、キャラクターの違う7種類のワインを厳選してお届けすることになりました。ランブルスコは、ワインの中でもフルーティで爽やか、泡立ちもきれいで、お酒の飲めない人でも3杯は飲めてしまうワインです。私たちはスタジオにこもって仕事をすることが多いのですが、1日の終わりに冷やしたランブルスコを開けて、日々、楽しんでいます。みなさんも、ぜひ、微発泡の赤、ランブルスコの魅力にふれていただきたいと思います。
藤澤 宏光さん |
大岡 慎悟さん |
池田 風彌さん |
問い合わせ先
ランブルスコ・ジャパン
TEL03-6273-1695 FAX03-6273-1696
(文責/高木幹太)