酒サムライコーディネーターの独り言 - 3 - 世界に日本酒ファンを増やして地域活性化へ!

(2010.03.10)

IWCにSake部門が出来ればそこからの日本酒の世界的な発信、審査員として集まってくるワイン専門家達への日本酒啓蒙、そこからの販路の展開までのチャンスが大いに望めます。

そして日本酒の世界的な銘柄が次々生まれてくればその地域への観光客誘致までがイメージ出来ます。そう簡単にはいかないかもしれませんが、実際に欧米では「ワインツーリズム」という言葉があり、ワイナリー訪問は観光の大きな目玉なのです。 

例えばカリフォルニアワインで有名なナパヴァレーを訪れる観光客はカリフォルニア州ではディズニーランドに次ぐという規模と聞いていますし、実際その観光客で産地は大変潤っているのです。 ナパヴァレーで楽しい時間を過ごした訪問者は帰国後、酒屋やレストランで訪問したナパのワインを見れば、その銘柄を飲みたく思うでしょう。 そしてその楽しい思い出を肴にそのワインを楽しむのです。 そのワインに愛着が出来たら、その産地やそのワインを生産する国に対して良い感情を持ってくれる事は容易に想像がつきます。

日本酒の魅力を世界に広めていく事は、日本の国に好意を持つ人を世界に広げていく事になるでしょう。 これは私自身がソムリエの資格を取ったあと、実際にワイン屋巡り、ワイン産地巡り、現地のレストランを訪れた際に実際に自分自身で体験した事だったので、すぐにイメージする事が出来ました。1本のワインからその産地の空気、景色、親切にしてくれた人たちの笑顔、自慢の郷土料理の香りがよみがえってきます。 また、素晴らしいワインに出会うと、そのワインを生み出した土地の事、生産者についても知りたくなります。 感動を与えてくれたワインに対して抱く思いは尊敬です。 

自分の心を震わせてくれたワインに関わるもの全てに感謝と尊敬の気持ちを抱く、とてもシンプルな心の動きです。 そしてワインは食中酒なので、そこに食事というものが存在するわけですから、気に入ったワインであれば、それを最高に楽しむために最も合う食事は? 食材は? そのワインの生産地でそのワインと一緒に普段楽しまれている食べ物って? と考えるのは自然な流れです。 

それをそっくりそのまま日本酒で世界に広げていけたら……。

丁度この頃、日本国内では飲酒運転による事故が大変世間を騒がせていたので、この酒サムライ叙任式が単に日本酒販売促進のイベントとして世間に受け取られたら、あまり良いイメージにならないかもしれないと心配になりました。

思案して思いついたのが「Yokoso! JAPAN」のビジット・ジャパン・キャンペーンの後援ロゴをいただく事でした。 会議でも満場一致。 このロゴを取得出来れば、叙任式がきちんとしたイベントである事、そしてこのイベントが観光までを目指すという事のメッセージになるのでは……と思いました。 
ビジット・ジャパン・キャンペーン本部に連絡するとイベント内容に問題無しという事で必要書類を揃える事になりました。 書類を届けがてら、ご挨拶にと思い、日青協の事務局のTさんに相談したら「酒造会館から歩いていけますよ。」との事で、あっという間に必要書類を揃えてくれたTさんと二人で訪ねる事になりました。 二人で夕方の官庁街をビル風に吹かれながら、酒サムライに「Yokoso! JAPAN」のロゴがついたらカッコイイですね。とついつい笑顔になりながら歩いたのを思い出します。

 

酒サムライ活動を立ち上げた蔵元さんのたちの気概。

 
第一回酒サムライ叙任式は平成18(2006)年10月20日(金)に世界遺産でもある京都・賀茂御祖神社(下鴨神社)にて執り行われる事になりました。 

ハロップ氏は酒サムライ叙任式前日にロンドンから到着する予定でしたが、その時刻、会長、副会長は下鴨神社での叙任式前に松尾大社(日本で第一の酒造神と言われています)に正式参拝されるというので、新潟県の「王紋」市島社長と一緒にハロップ氏を迎えにいきました。「蔵元側から迎えの人間が出ないのは失礼かと英語が出来るのでつい手を挙げてしまったけど、あれが運のつきだったね……。」 若手の蔵元で構成される日青協は役員就任時に45歳以下という規定があり、一昨年会長を退かれた浦霞の佐浦さんの後を引き継がれた市島さんが会長就任後にため息ながらにおっしゃっていました。 確かにハロップ氏を迎えに行くこの時には次期会長をご自分が受ける事になろうとは全く思ってらっしゃらなかったと思います。
 皆さんご自身の社長業、地元の活動の傍らでの業界へのご奉公、日青協の会議で地元から上京されるだけでも大変です。

ですので、酒サムライ活動とIWCのサポート、これを同時に始められたこの時期の日青協の会長、副会長、代表幹事の方々の気概を次の世代の日青協の方々にも伝えたい……図らずもこの立ち上げ時期の目撃者となった私がこの『WEBダカーポ』に書き始めた理由の一つです。

蔵元の皆さんを見ていて思うのは、お一人お一人が長い長い家業というバトンを持ったランナーで次の世代に引き継ぐために走っている……「自分のものであって自分のものでない、先祖からの預かりもの」と言われる方もいます。「自分の代で終わらせられない」「少しでも良い状態で引き継ぎたい」そう思われるのは当然の事ですが、蔵元さんと接していると皆さんとっても自然体……それは生まれながらに背負っているものだからなのでしょうか……?蔵元さん方の内に秘めた静かに燃える炎を折々に感じながら、そしてやはりこれは私達日本人皆の、日本の国の財産でもあると思わずにはいられないのです。

その晩、会長の佐浦さん(宮城県 浦霞社長)、副会長の桝田さん(富山県 満寿泉マスイズミ社長)、市島さんらと「千花」(後の話になりますが、21年のミシュラン京都版で三ツ星に輝いた)であらためての顔合わせをしました。 翌日の叙任式も第一回という事で業界の注目を集めているようですが、この夜は皆、明日の叙任式の先のIWC Sake部門創設への大きな期待が場の空気を支配していたように思います。ハロップ氏は2年前に来日した時に伺った「祇園丸山」のお料理もとても喜んでいて、その様子を見て私もとても嬉しかったのですが、その晩の千花のお料理をいただきながら、やはり「日本料理は世界のトップレベルだ。間違いない。」とつぶやいていました。素晴らしいお料理がその晩を盛り上げてくれたのは言うまでもない事ですが、その晩の私達は、日本酒に開こうとしている世界への窓という大きな夢も食べていたのかもしれません。

 

京都の世界遺産下鴨神社で酒サムライ叙任式!

 
いよいよ当日、初めて見るハロップ氏のスーツ姿です。
表情も昨日とは違った緊張感を感じます。
叙任式は幹部の蔵元さん方は紋付き袴、その他の蔵元さんはスーツの上にそれぞれの法被(はっぴ)を着ています。その他の参加者も皆正装です。
下鴨神社は伊勢神宮に次ぐ格式のある神社だそうで、東京ドーム3個分もの広さのある糺の森(ただすのもり)の中にあります。 糺の森は原生林も残る自然な森で厳粛な叙任式を行うには素晴らしい舞台と思えました。
 
関係者は社務所に集まり叙任者の方々と顔合わせをしました。 
第一回目のこの日、酒サムライとなってくださった方々は6名。
知り合いのフードライターの方が第一回の酒サムライ叙任者の方々のお名前を見て言ってくれました。「へぇ~、これはまた、なんて趣味の良い人選。」
普段大変辛口な彼が呟いたこの言葉に頬が緩みました。その方々とは、

 

「桶仕込み保存会」の創立メンバーで、木桶の復活と現代的な活用法に力を注ぐ。
上芝雄史(うえしばたけし)氏

 

元国税庁長官、パーティにマイ猪口持参で日本酒を盛り立て、税制改正でも日本酒の文化的側面のサポートに尽力いただいた大武健一郎(おおたけけんいちろう)氏

年末恒例となっている「ほろ酔いコンサート」全国ツアーは各地の酒造会社の協賛を得、観客と舞台が一体となっておいしい日本酒と歌に酔いしれ、もっとも人気あるコンサートとして名高い歌手の加藤登紀子(かとうときこ)氏

 

日本在住で、アメリカ人の日本酒伝道師として広く知られ日本酒輸出協会理事、海外への日本酒の輸出に関するコンサルティング、国内外の雑誌や新聞等への寄稿、講演活動、メールマガジン「Sake World Newsletter」の発行。日本人以外では初めて「純粋日本酒協会」より「きき酒名人」表彰を3回受けている。
JOHN GAUNTNER(ジョン・ゴントナー)氏


 

海外で初めての日本酒専門店「True Sake」をサンフランシスコでオープン、日本酒に関する著書「Sake-A Modern Guide」を著し、月刊の酒ニュースレターをネット上で配信している、
BEAU TIMKEN(ボー・ティムケン)氏


 

イギリスを中心に活躍するニュージーランド出身のワイン・コンサルタントで、ロンドンで日本酒の蔵元の日本酒講座に参加したのをきっかけに来日。そしてインターナショナルワインチャレンジのCo-Chairmanに就任当時から、同大会に本格的に日本酒部門をつくり、広く世界に日本酒を紹介する事を計画している、SAM HARROP.MW(サムハロップ MW)氏 
第一回叙任者詳細はこちらを。)


緊張のせいなのか、やや硬い表情の叙任者の方々、時間となり、宮司さんの先導で本殿まで一列になって歩きました。 誰もがしっかりと前を向いて黙々と歩を進めていきます。 静かな境内に大勢が踏む玉砂利の音がずんずん本殿に近づいていきます。

日青協会長、副会長、来賓の中央会会長、叙任者の方々が一人づつ本殿に玉串を捧げます。
当初の見込みを上回る報道陣。業界関係の報道記者のみではなく、TV、新聞各紙等がカメラ片手に取材に訪れていました。
本殿を取り囲んだ取材陣や蔵元関係者のカメラのシャッター音が続けざまに聞こえるのですが、正式参拝の儀式の厳かな雰囲気は揺るぐ事がありません。

場所を叙任式典会場である下鴨神社の中にある重要文化財の1つでもある三井神社の舞殿に移して、下鴨神社の巫女さんによる神楽の奉納は、十二単を着た優雅な舞でその場が和らいだと同時に、いにしえの儀式の様子が想像されました。

そしていよいよ叙任式、酒サムライ会長の佐浦さんより叙任者に叙任状、記念品の授与。式典はこれが初めてとは思えないほどスムーズに運び、内容も素晴らしくて、式典部会責任者の岐阜県「長良川」の金武さんと、石川県「天狗舞」の車多さんが何度も何度も打ち合わせされていた様子が思い出されました。

叙任状を手にして佐浦会長と取材陣に向かった時の叙任者の皆さんの誇らしげな表情が、この日を迎えるにあたり尽力された蔵元の皆さんにどれほど嬉しいものだったか、察してあまりあるものがありました。

叙任式の様子はこちら

叙任式のあとに記者会見があり、そのあとに下鴨神社のこちらも重要文化財の1つの「供御所」で鏡開き、引き続き日本文化を楽しむ酒宴と続きました。もちろんお料理は下鴨茶寮から。(主催者側は参加自己負担)

叙任式の緊張から解放されて、純和風の宴会で、舞妓さん・芸子さんの踊りを堪能し、舞妓さんからお酌をしてもらって大喜びのハロップ氏が満面の笑みで 「今日の事は決して忘れられない素晴らしい経験だ。日本酒と日本文化は本当に素晴らしい。 トシ、本当に有難う。」 と言ってくれました。 彼の異文化に触れた純粋な喜びと興奮、そして敬意のこもった気持ちがストレートに伝わってきました。

その彼に私もそっくりそのまま、「有難う。」という気持ちでした。
あまりにも身近にあった日本酒と、それを取り巻く日本文化が、国や人種を超えて訴える力のある私達が誇れるものだという事を確信させてくれたからです。

 
 

第1回酒サムライ叙任式記念写真 最前列右から 酒サムライ叙任者 上芝雄史氏、大武健一郎氏、加藤登紀子氏、日本酒造青年協議会会長佐浦弘一氏(宮城県 浦霞)、酒サムライ叙任者叙任者 ジョン・ゴントナー氏、サム・ハロップ氏、ボー・ティムケン氏。2列目右から 滝澤英之氏(埼玉県 菊泉)、石川太郎氏(東京都 多満自慢)金武直文氏(岐阜県 長良川)、桝田隆一郎氏(富山県 満寿泉)、セーラ・マリ・カミングス氏(長野県 桝一)、来賓、日本酒造組合中央会辰馬章夫氏(兵庫県 白鹿)、米澤仁雄氏(兵庫県 明石鯛)、遊佐勇人氏(福島県 人気一)。最後列右から 盛川知則氏(広島県 白鴻)、市島健二氏(新潟県 王紋)、関谷健氏(愛知県 蓬莱泉)、車多一成氏(石川県 天狗舞)