ワイン・ランキング キャンティ・クラッシコの実力を知る
レジェンドワイン10本

(2014.08.20)

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誰もが認めるイタリアワインの美質のひとつに、コスト・パフォーマンスのよさがある。安いワインにもいいのがあるということだが、卓越したワインが安く飲めるのも事実。イタリアではトップクオリティのワインが、3000円から手に入る。その代表がキャンティ・クラッシコだ。現代のキャンティの水準を語る10本を選んだ。
キャンティ・クラッシコとは何か
キャンティとは、トスカーナ地方で造られるサンジョヴェーゼ主体の赤ワインだが、もともとはフィレンツェの貴族が領地を持つフィレンツェからシエナまでのキャンティ地区が起源、そこで造られるキャンティを他と区別してキャンティ・クラッシコと呼ぶ。ミディアムボディが中心のキャンティと違って、多くはフルボディの長熟型のワインとして造られる。

キャンティには600年の歴史があり、19世紀には世界的なメジャーワインとなったが、量から質への転換が遅れ、市場で評価を落とした時期もあった。サンジョヴェーゼに白ブドウを混ぜるという19世紀の法律に縛られ、クオリティ志向のワイン造りができないことが問題だった。その時期、意欲的な生産者はキャンティに見切りを付けて、テーブルワインの格付けでワインを造った。それが、1980年代に台頭したスーパータスカンである。

そうして、キャンティはしばらく負のイメージを引きずっていたが、この20年で大きな変貌を遂げた。法律の改正と改革の機運の高まりによって、続々とハイクオリティのキャンティが生み出された。ここでは、キャンティ・クラッシコ・ルネッサンスの流れの中で、名声を高めたエポックメイキングなワインを紹介する。

マルケージ・アンティノーリ/キャンティ・クラッシコ・リゼルヴァ・バディア・ア・パッシニャーノ
改革者アンティノーリのキャンティ
キャンティの改革をリードしたのは、フィレンツェのワイン貴族アンティノーリだ。ピエロ・アンティノーリは、エノロゴのジャコモ・タキスとともに、サンジョヴェーゼをフレンチオークのバリックで熟成させ、外来種のカベルネ・ソーヴィニヨンをブレンドするという手法を試みた。それが1971年ヴィンテージからのスーパータスカン「ティーニャネッロ(Tignanello)」である。香りと品格はあるが厚みの出にくいサンジョヴェーゼにカベルネでヴォリュームを付けるという手法は、以後トスカーナのトレンドとなり、さらにボルドーのテイストになれた海外市場でも評判となった。

当然、アンティノーリは、主力のキャンティにもいち早く手を付けている。70年代半ばには白ブドウの混醸を中止、サンジョヴェーゼ×カナイオーロのワインから始めて、サンジョヴェーゼ100%、カベルネとのブレンドなど、数種の新しいワインを仕上げている。このキャンティ・クラッシコは、「ティーニャネッロ」「ソライア(Solaia)」と同じサン・カッシャーノ・イン・ヴァル・ディ・ペーサ地区にあるバディア・ア・パッシニャーノ農園で造られるサンジョヴェーゼ100%のワインだ。香り高いキャンティ・クラッシコの美質が詰まっている。

Chianti Classico Riserva Badia a Passignano/Marchesi Antinori
Chianti Classico Riserva Badia a Passignano/Marchesi Antinori
ファットリア・ディ・フェルシナ/キャンティ・クラッシコ・リゼルヴァ・ランチア
単一畑のキャンティ・クラッシコ
キャンティ・クラッシコの再生には、異業種から参入した新興のワイナリーも大きくかかわっている。フェルシナはラヴェンナの海運業者が趣味で購入した農園だが、エノロゴのフランコ・ベルナベイの協力を仰ぎ、早い時期に生産するキャンティをすべてサンジョヴェーゼ100%のワインへと切り替えた。中でも、最も質の高いブドウが採れる区画を選んで瓶詰めしたのが「キャンティ・クラッシコ・リゼルヴァ・ランチア」、ファースト・ヴィンテージは1983年、良年のみに生産される。

フェルシナのあるカステルヌオーヴォ・ベラルデンガという地区は、キャンティ・クラッシコエリアの南端にあたり、石の中に粘土質が混ざるガレストロ・アルベレーゼから、粘土質のクレータ・シネーゼという地質に変わってくるところ。従来のキャンティ・クラシコよりミネラルに富み、ブルネッロのような濃縮感あるワインに仕上がっている。このワイナリーには、同じくサンジョヴェーゼ100%のスーパータスカンの銘品、「フォンタローロ(Fontalloro)」もある。

Chianti Classico Riserva Rancia/Fattoria di Felsina
Chianti Classico Riserva Rancia/Fattoria di Felsina
テヌータ・フォントーディ/キャンティ・クラッシコ・リゼルヴァ・ヴィーニャ・デル・ソルヴォ
新興ワイナリーの情熱の結晶
トスカーナの特産品であるテラコッタの生産者が興したフォントーディも同じくキャンティの改革をリードしたワイナリーである。こちらもミスター・サンジョヴェーゼと異名をとるフランコ・ベルナベイにコンサルティングを依頼し、早い時期から白ブドウの混醸をやめ、キャンティはサンジョヴェーゼ100%に、クリュワインの「ヴィーニャ・デル・ソルボ」は、カベルネ・ソーヴィニヨンを10%ブレンドし、バリックで20ヵ月熟成するというワイン造りに挑んだ。同時に、「フラッチャネッロ・デッラ・ピエーヴェ(Flaccianello della Pieve)」というサンジョヴェーゼ100%のスーパータスカンも仕上げている。

フォントーディは、キャンティ・クラッシコエリアのど真ん中、グレーヴェ・イン・キャンティのエリアのパンツァーノの村の外れにある。その下に広がる畑は、コンカ・ドーロ(黄金の貝)という呼び名で、昔から知られていた畑である。南向きで、日照のいい斜面で、貝のように微妙に湾曲したその傾斜地に由来した名前である。標高470メートルと、キャンティ・クラッシコエリアでも高いところで、ガレストロ土壌でやせており、キャンティらしさが十分に表現されたワインである。

Chianti Classico Riserva Vigna del Sorbo/Tenuta Fontodi
Chianti Classico Riserva Vigna del Sorbo/Tenuta Fontodi
カステッロ・ディ・フォンテルートリ/キャンティ・クラッシコ・カステッロ・ディ・フォンテルートリ
ボルドースタイルへの転換
フォンテルートリのフランチェスコ・マッツェイによれば、「そもそもキャンティのエリアは、高低差がある上に地質の違いも大きく、ミクロ・クリマのゾーンである。畑ごとにかなり性格が違い、その特徴を出すためにブルゴーニュ式に、畑名ワインを造ってきた。しかしながら、どれも少量で、市場で充分にアピールしたとはいえないのではないかと考えた。そこでフォンテルートリは、まず土地のよさを生かすワインを造ること。次にたくさんの種類のワインを造るのではなく、数を絞ってひとつのワインに集中し、いいものを量造ると決断した」という。

フォンテルートリは、カステッリーナ・イン・キャンティ地区のいろんな場所に少しずつ持っていた畑を4カ所に集約。畑ごとのブドウの性格を分析し、それらを混ぜて過不足を補いあうことで、新しいふたつのワインを造り上げた。サンジョヴェーゼ100%の「キャンティ・クラッシコ・フォンテルートリ」と、カベルネ・ソーヴィニヨンを10%ブレンドしたリゼルヴァの「カステッロ・ディ・フォンテルートリ」である。

フランチェスコ・マッツェイは、「キャンティはこの20年、カベルネやメルローを試したり、ブルゴーニュばりにクリュのワイン造りを試したりしてきたが、やはりこの地域のアイデンティティであるサンジョヴェーゼ主体、キャンティ・クラッシコ主体に戻っていく」と語っている。

Chianti Classico Riserva Castello di Fonterutoli/Castello di Fonterutoli
Chianti Classico Riserva Castello di Fonterutoli/Castello di Fonterutoli
カステッロ・ディ・アーマ/キャンティ・クラッシコ・カステッロ・ディ・アーマ
クリュワインからボルドー式へ
カステッロ・ディ・アーマは、ガイオーレ・イン・キャンティ地区のアーマという集落にある。ワイナリーを開いた当初から、ボルドー的な考え方が導入され、シャトー・ムートン・ロートシルトの醸造責任者として有名なパトリック・レオンの指導を受け、マルコ・パッランティが、畑の区画整理やブドウの植え替えを行った。醸造設備も当然最新式のものが設置され、熟成でも早い時期からバリックの使用を始めている。

アーマでは、80年代には「ベッラヴィスタ」「カズッチャ」「サン・ロレンツォ」「ベルティンガ」という4つのクリュワインを造っていたが、90年代になって、畑全体の質が上がってきたことから、ふたつのワインをやめ、「ベッラヴィスタ」「カズッチャ」も生産年と本数を限定して、「カステッロ・ディ・アーマ」というグランヴァンの育成に集中することにした。畑による個性を売るのではなく、カステッロ・ディ・アーマというブランドをボルドーのシャトーもののように位置づけ、ハイクオリティである程度量のあるワインとしてリリースすることにした。その看板の「カステッロ・ディ・アーマ」は、サンジョヴェーゼ80%に、カナイオーロ、マルヴァジア・ネーラ、メルローなどのブレンド。濃く、力強く、長熟型ながら、エレガントさも感じるワインとなっている。尚、このワイナリーは、外来種であるメルローの銘品「ラパッリータ(L’Apparita)」でも名声を得ている。

Chianti Classico Castello di Ama/Castello di Ama
Chianti Classico Castello di Ama/Castello di Ama
バローネ・リカーソリ/キャンティ・クラッシコ・カステッロ・ディ・ブローリオ
復活した名門
19世紀半ば、鋼鉄の男爵と呼ばれイタリア首相を務めたバローネ・ベッティーナ・リカーソリは、キャンティのブレンド比率を決めたキャンティの発明者でもある。実はリカーソリのワインは、長らく低迷するキャンティを象徴する銘柄でもあった。1990年代まで、リカーソリの商標ブローリオと書かれたキャンティは、紫外線対策もない無色透明のガラス瓶に入れられ、スーパーマーケットで780円で売られていた。そのワインは、経営難に陥ったリカーソリ家がワイナリーを手放し、最初はシーグラムに、その後さらに別の外資に売り払われた不幸な時代の産物だった。

そのワイナリーは1993年にリカーソリ家に経営権が戻り、新生ブローリオとして再出発した。この復活劇の立て役者は、32代目の当主フランチェスコ・リカーソリ。彼は長年コマーシャル・フォトグラファーとして活動していたが、1991年に残っていた農園の管理に入り、惨状を目の当たりにして、一族の名誉のためにワイナリーの買い戻しを決断。そして、コンサルタントにエノロゴのカルロ・フェッリーニを起用し、事業を立て直した。彼らの新しいキャンティは「カステッロ・ディ・ブローリオ」と名乗り、1997年ヴィンテージからトレ・ビッキエーリワインとなり、見事に復活を果たしている。セパージュは、サンジョヴェーゼ90%、カベルネ、メルローあわせて10%。ガイオーレ・イン・キャンティの典型的な特徴を持ちながらもモダンなワインとなっている。

Chianti Classico Riserva Castello di Brolio/Barone Ricasoli-Castello di Brolio
Chianti Classico Riserva Castello di Brolio/Barone Ricasoli-Castello di Brolio
サン・ジュスト・ア・レンテンナーノ/キャンティ・クラッシコ・リゼルヴァ・レ・バロンコーレ
土に生きるワイン貴族
このワイナリーは、もともとリカーソリの土地で、力強いワインを生むといわれるガイオーレ・イン・キャンティ地区にある。相続によりリカーソリの分家筋のマルティーニ・ディ・チガーラ家が運営を行っているが、こだわりのワイン造りで名を馳せている。特に、サンジョヴェーゼ100%の「ペルカルロ(Percarlo)」、そしてメルロー100%の「ラ・リコルマ(La Ricolma)」は銘酒の誉れ高く、当然キャンティ造りにも一家言ある。

このワイナリーのキャンティは、サンジョヴェーゼとカナイオーロのブレンド。自らメルローを栽培しながらも、カベルネやメルローなど外来種のブレンドには批判的である。キャンティは1984年以来、カベルネやメルローなど外来種とのブレンドが認められ、インターナショナルな味わいを生むとしてトレンドにもなっているが、反対意見もある。このワイナリーも、外来種の入ったキャンティでは土地のティピカルな表現ができないとして、反対の立場。あくまで土地の個性にこだわる姿勢を見せている。

Chianti Classico Riserva Le Baroncole/Fattoria San Giusto a Rentennano
Chianti Classico Riserva Le Baroncole/Fattoria San Giusto a Rentennano
カステッラーレ・ディ・カステッリーナ/キャンティ・クラッシコ・リゼルヴァ・ヴィーニャ・イル・ポッジーアーレ
クラシカル・エレガンス
キャンティ・クラッシコ地区は、いわゆるトスカーナ平原のイメージとは異なる高低差のある山間の土地が多いが、このワイナリーのあるカステッリーナ・イン・キャンティの村は美しく優しい表情を見せる。このワイナリーも小鳥のエチケットで、なにかキャンティ本来のなつかしいエレガントさみたいなものを表現しているが、その通りのワインである。

このワイナリーは、地元の5軒の農家が始めたプロジェクトだが、そこにパオロ・パネライという雑誌編集者がある哲学を持ち込み飛躍を遂げた。ワイン造りはミラノ大学やフィレンツェ大学との提携により最新の技術が導入されているが、キャンティの伝統にかなったやり方を基本とする。ブドウ品種も土着のものを使い、サンジョヴェーゼの原種として知られる小粒で濃縮感の出るサンジョヴェートに、カナイオーロとチリエジョーロなどをブレンド。自然との共生を掲げ、あらゆる浸透性農薬の使用を排除した無農薬でのブドウ栽培を行っている。毎年変わるエチケットの小鳥も実は絶滅危惧種であり、自然との共生を訴えるものだという。キャンティの良心のようなワインである。

Chianti Classico Riserva VignaIl Poggiale/Castellare di Castellina
Chianti Classico Riserva VignaIl Poggiale/Castellare di Castellina
ラ・マッサ/キャンティ・クラッシコ・ジョルジョ・プリモ
味わいのヴァラエティ
キャンティ・クラッシコに味わいの面で新たな変革をもたらしたのが、ラ・マッサの「ジョルジョ・プリモ」である。ラ・マッサは1992年に設立されたまだ若いワイナリーだが、すでに揺るぎない評価を得ている。オーナーはワイン好きが高じて、数軒のワイナリーで修行を積んだ後、カルロ・フェッリーニと一緒に畑探しから始めたという。グレーヴェ・イン・キャンティ地区のパンツァーノで造る「ジョルジョ・プリモ」は、サンジョヴェーゼ93%にメルロー7%のブレンドで、濃厚なキャンテ全盛の中、エレガントでスタイリッシュなスタイルで新境地を開いた。

「ジョルジョ・プリモ」はファースト・ヴィンテージからトレ・ビッキエーリを取得して評判となり、私もメルローとのブレンドのエレガントさに感銘を受けたものだが、このワイン、いつのまにかボルドータイプのワインに変質してしまった。聞けば2002年ヴィンテージを最後にキャンティ・クラシコであることをやめ、翌ヴィンテージからカベルネ60%、メルロー35%、プチヴェルド5%のボルドータイプになったという。本来、このランキングに挙げるべきでないかもしれないが、9年連続トレ・ビッキエーリを獲得したエポックメイキングなワインでもあり、あえて選んだ。記憶にとどめたいワインである。

Chianti Classico Giorgio Primo/Fattoria La Massa
Chianti Classico Giorgio Primo/Fattoria La Massa
レ・コルティ/キャンティ・クラッシコ・ドン・トンマーゾ
名門貴族のモダンなキャンティ
キャンティ地区で、ここに挙げたような新しいクオリティワイン造りの流れができてくると、腰の重い貴族たちも本腰を入れてワイン造りに取り組むようになる。レ・コルティはフィレンツェの貴族コルシーニ家のワイナリーである。アンティノーリ家より格が高いといわれる名門中の名門で、1991年まで収穫されたブドウはオリーブなどとともにそのまま売り払っていた。それをこのままではもったいないと、若い当主が農園に移り住み、カルロ・フェッリーニを迎え、惜しみない投資をして、ワイン造りをスタートさせたのだ。

元々、サン・カッシャーノ・イン・ヴァル・ディ・ペーサ地区の銘醸地、結果はすぐに現れた。彼らの「キャンティ・クラシコ・ドン・トッマーゾ」 は、サンジョヴェーゼ90%、メルロー10%のエレガントなワインで、1999年ヴィンテージでついにトレ・ビッキエーリの仲間入りを果たした。

これまで述べたように、キャンティ・クラッシコは劇的に品質が上がってきた。イタリアでは、ワインは産地よりも造り手で決まるというのが常識だが、わずか数年で見違えるようなワインができる、この地域の潜在力は特筆すべきである。キャンティ・クラッシコは、その上に、畑ごとのテロワール、さらにはセパージュなどワイナリーの考え方との組み合わせで、多彩なワインが生み出されている。そのヴァリエーションを楽しむのがキャンティ・クラッシコの魅力である。

Chianti Classico Don Tommaso/Le Corti
Chianti Classico Don Tommaso/Le Corti
この記事は、ワインカルチャーを語るWEBマガジン「Wine & Story」から記事提供を受けて掲載しています