from 大阪 – 6 - 大阪産(もん)の誇り。
八尾えだまめ

(2013.08.01)

大阪の食を支える街、八尾

「黒豚の黒ビール煮込みと八尾えだまめのソースを使ったパスタ」大阪市内のとあるレストランでみかけたメニュー。八尾の枝豆をパスタのソースに? そんなに美味しいものなのかな…。半信半疑でオーダーするも、残念ながらこの日は品切れで食べられず。以来「八尾えだまめ」に対する好奇心がずっと自分のなかでくすぶり続けていたんです。

さっそく八尾について調べてみました。戦後は都市化が進み大阪のベッドタウンとして発展してきた八尾市。しかし昔から農業が盛んな土地で、住宅地のすぐ隣が畑という光景も珍しくないとのこと。代表的な農作物としては若ごぼう、菊菜、いちご、そして枝豆。一大消費地である大阪市に近く、収穫後すぐに鮮度が良い状態で出荷できるため、「八尾の枝豆は旨い」と、徐々に評判は高まったそうです。

しかし八尾でなぜ枝豆が作られるようになったのでしょうか。おいしさの秘密は?どんな人が作っていて、八尾という街のなかで枝豆はどういう存在なのか。これはもう行ってみるしかないと思い近鉄電車で八尾へ。ミナミから電車でおよそ20分足らず、枝豆の名産地はすぐ近くにありました。

美味しい枝豆は畑での手間ひまから

今回友人のツテで紹介していただき訪問できたのは、ゆうき農園の結城拓也さん。枝豆・菊菜のマイスター(財団法人・日本特産農産物協会)という称号をお持ちなのですが、柔和な笑顔が素敵なたいへん気さくな方でした。

さっそく畑まで案内していただき、お話を伺います。八尾で枝豆が盛んに栽培されるようになったのは、やはり消費地大阪が近いということ、また若ごぼうを収穫したあとに枝豆を植えると、土壌成分的にもとても都合がいいとのことでした。しかしただ消費地が近いから、という理由だけではここまで名声は高まらなかったでしょう。「おいしいものを食べてもらいたい」という気持ちがこもった、畑での細かい作業と手のかけ方が最終的な品質に直結するはず。

畑の隅には井戸が掘られ適切なタイミングで井戸水を散布し作物のストレスを軽減。虫が少ないので農薬はほとんど使わずにすみますし、研究を重ねた独自の堆肥を畑に撒くことで順調な成長を促します。そして小規模農家だからこそ可能な、適切な収穫時期の見極めと迅速な出荷体制。枝豆の美味しさの決め手であるアミノ酸や糖分は収穫後2日で半減してしまうため、まさに鮮度が命。丹精込めて作った枝豆を、ベストのタイミングで、なるべく鮮度を落とさずに消費地へ届ける。このサイクルがきちんとできる農家さんが結城さんをはじめ八尾にはたくさんいた結果「八尾えだまめ」という産地ブランド形成が推進されたのではないでしょうか。


左:愛情を持って畑を見守る結城さん
右:これからまだまだ成長していく段階の枝豆

左:えだまめ自動脱莢機
右:ゆうき農園の「八尾えだまめ」として出荷されます
八尾えだまめを用いた八尾のレストラン

畑で採って生のままいただいた八尾えだまめ。じんわり広がる甘みと旨みに頬を緩めましたが、これが飲食店でプロの手にかかったらどうなるんだろうかと興味津々。というわけで近鉄八尾駅からほど近いイタリア食堂『ラ・リサータ』さんを訪れました。

事前に電話で予約をした際に「八尾えだまめを使ったお料理をお願いできますか?」とリクエストしておいたのですが、この日いただいたのはカサレッチェというパスタに小エビと八尾えだまめ(結城さんが作ったものでした!)のソースをあえたもの。前菜には八尾産トウモロコシのスープ、「八尾ではトウモロコシも作ってるんですか?」と聞くと「八尾ではいろんな農作物を作ってますよ。採れたてで鮮度抜群だし、なにより作ってる人の顔が見えるのが嬉しいです」と笑顔で話してくれたオーナーシェフの山田直良さん。八尾愛に満ちたシェフの想いが、一皿一皿に宿っていました。

なんでも作る八尾市ですが、さすがにお酒は造っていないとのこと。いやしかし待てよ、厳密にはお隣の柏原市になりますが、すぐ近くで大阪産ワインが造られていました! カタシモワイナリーのたこシャン、大阪産デラウェアを用い瓶内二次発酵で仕上げた本格派のスパークリング。豊かな果実香に八尾えだまめの甘い香りがぴったりとあわさって、それはもう夢心地なひととき。これがランチであることを忘れてしまいそうです。


縁に盛られたフランス産唐辛子が枝豆の甘みを一層引き立てます

イタリア国旗をあしらった提灯がユニーク。住宅街のなかにひっそりと存在します
こんな食べ方もあり? 納豆えだまめ

夜は八尾えだまめを用いた創作料理をいただける、ということで近鉄八尾駅から徒歩8分のところにある『炭火焼鳥かちがらす』八尾店さんへ。キリン・ブラウマイスターでのどを潤し、さあ枝豆をと手を伸ばしてみたら、一品目はなんと納豆えだまめでした。

実を取り出した枝豆に納豆をあわせて納豆菌をつけ、よくかき混ぜて納豆を取り除いたもの。八尾えだまめの甘みとコリッとした食感に、あの納豆独特の粘りとコクがあわさってなんとも言えない深みのある味わいに。鰹節、白髪ねぎ、海苔が薬味として供されたのですが、海苔との相性がとくによかったような気がします。

シンプルに塩茹でされた八尾えだまめも、やはり王道の旨さ。さらにアンチョビバターであえた枝豆も登場、これもまたクセになるおいしさでした。ワイン、とくにシャンパーニュがあれば最高かと。枝豆とシャンパーニュ、美女と野獣みたいな組み合わせですが試してみる価値ありではないでしょうか。


店頭にはWE LOVE YAO の文字が

いくら食べても食べ飽きない八尾えだまめ。備長炭で焼く焼鳥もお酒がすすむ美味しさ

朝昼晩と八尾えだまめにかかりっきりだった一日。もともと枝豆は大好きでよく食べていましたが、ここまで真剣に、思いを込めて作られた枝豆はやはり、食べたときに何かを感じずにはいられません。朝早くから畑に出向き、状態を確認しながら枝豆の成長を見守る農家さん。そしてその丹精込められた枝豆を、誇りをもって取扱う飲食店の方々。あるいは八尾えだまめを特産物として育てようとした行政や各団体の方々。そして自分たちの地元で採れた枝豆を、愛情をもって語る八尾の人たち。

お世話になったいろんな方たちの顔を思い浮かべながら。一人一人がそのまま私にとっての八尾えだまめのイメージとなり、ひいては八尾という街に対する印象に繋がるのかもしれません。

大阪へお越しの際には、ぜひ八尾えだまめを。大阪市内の飲食店でも扱っているところは結構あります。ただ夏の間だけですが…。それ以外のシーズンには八尾をはじめ大阪府下各地で採れた野菜や果物などの食材があります。大阪でグルメというとたこ焼きや串カツというイメージが先行しますが、造り手の顔がみえる大阪産(もん)の食材にふれて、よりディープな、人間くさい大阪を感じていただけたら嬉しいです。

イタリア食堂 ラ・リサータ
住所:八尾市北本町1-5-15
TEL:072-990-6606
営業:12:00~15:00(14:00 LO)、18:00~23:00(21:00 LO)
定休日:火曜日のDinner・水曜日
近鉄八尾駅より徒歩7分

炭火焼鳥かちがらす八尾店
住所:八尾市北本町2-10-42
TEL:072-997-8299
営業:17:00~翌3:00(翌2:30 LO)
定休日:月1回不定休
近鉄八尾駅より徒歩8分