from パリ(河) – 13 - シャンパーニュ地方を訪ねて。エぺルネ(Epérnay)編。

(2010.09.02)
エペルネ周辺の葡萄畑。

8月後半の天気の良い週末に、シャンパーニュ地方へ出かけてきました。目的はもちろん、シャンパーニュ・メゾンのカーブ巡り。ウェブ・ダカーポの読者、執筆者、編集者の方々には、かなりのワイン通、シャンパーニュ通の方が多いとは思いますが、シャンパーニュとは何か、について、まずはさらっとおさらいを。

日本では「シャンパン」という呼び名が定着しているシャンパーニュは、パリの北東約145㎞に位置する、シャンパーニュ(Champagne)地方で造られる発泡性ワインです。葡萄の栽培地区、生産方法はAOC(原産地統制呼称制度)で細かく規定されており、この規定に準じて造られた発泡性ワイン(白とロゼ)だけが、「シャンパーニュ(Champagne)」という呼称の使用を認められています。フランスの他の地域でも、発泡性ワインは造られていますが、「シャンパーニュ」という呼称を使うことはできず、「ヴァン・ムスー」、「クレマン」、「ヴァン・エフェルヴサン」などの呼称が適用されます。

シャンパーニュに使われる主なぶどう品種は、黒ぶどうであるピノ・ノワールとピノ・ムニエ、そして白ぶどうであるシャルドネの3品種。通常、造り手はこれらの3品種を独自のノウハウで調合(アサンブラージュ)して、各メゾン固有のスタイルのシャンパーニュに仕立てます。造り手によっては、シャルドネ種のみを用いた、ブラン・ド・ブラン(白葡萄による白のシャンパーニュ)や、黒葡萄品種のみを用いたブラン・ド・ノワール(黒葡萄の果汁からできる白のシャンパーニュ)などを提案しているところもあります。

ワインといえば、「○○年のものが良い」、という表現を良く耳にしますが、シャンパーニュはワインと違い、この産年(フランス語ではミレジム、英語ではヴィンテージ)を表示しないものが一般的です。というのも、シャンパーニュは通常、毎年一定した味わいを保つために、複数の産年のワインを調合して造られるからです。このシャンパーニュは、「ノン・ミレジメ」と呼ばれます。ただ、ぶどうの出来が特別に良い年は、その年の葡萄のみで造られることもあります。これは「ミレジメ」と呼ばれますが、毎年造られているわけではない、特別かつ高級なシャンパーニュです。

さて、基礎的な説明はこれくらいにしておいて、シャンパーニュ地方のカーブ巡りのお話を。今回の訪問は、有名な大手メゾンに的を絞りました。まず向かったのは、シャンパーニュを代表する3つの葡萄の丘に囲まれたエペルネ村。パリ東駅から、TERという急行列車で1時間ちょっとで行けるので、日帰りも可能。小さな教会を中心に、シャンパーニュ・メゾンやカーブが並ぶ、シャンパーニュ一色の小さな村です。傍らにはマルヌ川が静かに流れています。ここには、あのモエ・エ・シャンドン(Moët et Chandon)の本社があります。
 

エペルネの教会。
数年前に、パリ−ストラスブール−ドイツを結ぶTGVが開通して以来、すっかりきれいにリニューアルされたパリ東駅。

 

モエ・エ・シャンドン本社前。「シャンパーニュの父」と謳われるドン・ペリニョン師の像。実際にはシャンパーニュを発明してはいないとしても、後のシャンパーニュ造りに大きな貢献をもたらした同師は、エペルネ村から少し離れたオーヴィレール村の修道院の修道士でした。モエ家は、1797年からこの修道院と葡萄畑を管理するようになり、1936年から「ドン・ペリニョン」の名を冠する最高級シャンパーニュを造っています。日本では1980年代に全盛を極めたシャンパーニュですね。

 

LVMHグループに属しているモエ・エ・シャンドンは、1743年創業の老舗メゾン。創立者はクロード・モエ。その孫で、「モエ」の名を世界に広めたジャン・レミーの娘が、ピエール・ガブリエル・シャンドンと結婚し、彼が経営に加わったことから、社名が「モエ・エ・シャンドン」となりました。そして現在、年間の出荷量は約25,000本に達し、世界の売上量の17%を占める世界最大のメゾンへと発展しました。

カーブは夏でもひんやりして肌寒い。ここで瓶内二次発酵、瓶内熟成が行われます。瓶内熟成は、「ノン・ミレジメ」で15カ月以上、「ミレジメ」は3年以上。
カーブの長さは28kmにもおよぶ。
3か月間かけて、1/8ずつ回転させて澱を瓶口に集めます。この工程は動瓶(ルミアージュ)と呼ばれます。その後、瓶口に溜まった澱を凍らせて、栓を抜いて一気に取り除きます。
見学後のテイスティング。背後の美女は、イメージ・モデルのスカーレット・ヨハンソン。
マトリョーショカ的ボトルのディスプレイ。左から3番目が一般的な750mlフルボトルサイズです。
ポップ・アートの巨匠、アンディ・ウォーホールにインスピレーションを得た、限定版のドン・ペリニョンで全6色。ミレジムは2000年です。(写真がぶれててすみません……)

エペルネにある本社では、一般見学を随時受け付けています。一族の歴史に関する簡単な説明を受けた後、いよいよ地下のカーブへ。全長28㎞に及ぶという巨大なカーブは、まさに圧巻。ここには数千万本に及ぶシャンパーニュが眠っているそう。アサンブラージュ後、瓶に詰められたワインは、温度と湿度が一定に保たれたこのカーブで、瓶内二次発酵(この工程で発泡します)と、瓶内熟成を迎えます。

モエ・エ・シャンドンでは、必ず、前述した3つの品種をアッサンブラージュしています。ピノ・ノワールはシャンパーニュに「骨格」を、ピノ・ムニエは「丸み」を、シャルドネは「爽やかな酸味とミネラル感」を与えるのだそう。糖分をアルコールに変える工程である一次発酵には、一貫してステンレスのタンクが使われています。「造り手によっては、木樽を使っているところもありますが、葡萄本来の果実味を引き立てたい我が社のスタイルには、ステンレスが適しています」、と案内役のニコルさん。

一通りの説明を受けて、最後はテイスティングで締めくくり。いろいろなコースがありましたが、私が訪問したのは朝10時だったので、「ここで酔っぱらっては後が続かない」、と思い、とりあえずオーソドックスな「モエ・エ・シャンドン・ブリュット・アンペリアル」1グラスのコースを選びました。「アンペリアル(impérial)」とは「皇帝の」という意味ですが、これは、3代目のジャン・レミー・モエ氏が、親交の深かったナポレオン皇帝に敬意を表して、商標として登録したのが始まりです。以来、モエ・エ・シャンドンの定番として、世界中の人々に親しまれている銘柄です。

午後は世界遺産の宝庫でもあるランスへ移動。次はポメリー(Pommery)社の見学です。(つづく)

 

エペルネ周辺の葡萄畑。この村の北と東には、ピノ・ノワール種が主に栽培されているモンターニュ・ド・ランス地区、南にはシャルドネ種が栽培されているコート・ド・ブラン地区、西にはピノ・ムニエが栽培されているヴァレー・ド・ラ・マルヌ地区が広がっています。
色づき始めたピノ・ムニエ。今年の葡萄の出来はどうなのでしょうか?