from ナパヴァレー - 1 - ワイン・トレインはワイン・カントリーのタイム・マシン。
(2009.05.13)最後尾車両のオープンデッキ ©Wine Train |
ワインを片手に食事をしながら、ナパヴァレー29号線に沿って葡萄畑の中をゆっくり北上するレトロな列車。ナパヴァレー・ルネサンスと呼ばれ、大人も子供も楽しめるリゾート地として今日のナパヴァレーを甦らせるその一役を荷ったのは「ワイン・トレイン」ではないでしょうか。
それは現代のダイナミックでテンポの速い社会に生きる私たちの心を癒し、子供心に引き戻してくれるスローなタイム・マシンの様なものです。それゆえ夫婦や恋人、家族の記念日にと親子三代で楽しんでいる人々など、車内は遊園地のような雰囲気で満ち溢れています。しかも、このタイム・マシンにはナパヴァレーの楽しさのエッセンスがコンパクトに詰め込まれていて、日帰りツアー、あるいはナパヴァレー・ビギナーの入り口としてお勧めです。
ワイン・トレインについては、著書『ナパヴァレーのワイン休日』で紹介しましたが、紙面の都合で書けなかったことやその後の進化について書かせていだこうと思います。
歴史
ワイン・トレインの歴史は、1864年に設立された「ナパヴァレー鉄道」にさかのぼります。当時サム・ブラナンという人物は、アメリカ先住民の統治場であったHot Springsをリゾート開発しカリストガと名づけますが、ここにサンフランシスコ(SF)の富裕層を招き入れるためにナパ市とつなぐ交通手段として招致したものです。その後サザンパシフィック鉄道の一部に組み入れられますが、1905年にはSFから同湾沖ヴァレホ港を経由してナパ川でナパ市までの蒸気船が就航することにより、カリストガへの交通網が完成します。しかし、禁酒法の施行と経済恐慌の勃発により観光客が激減、1929年7月に一旦その生涯を閉じることとなります。
その後ワイナリー・リゾートとして再び人々から脚光を浴びはじめた1987年、人気パスタで成功を収めSFのギラルディ・チョコレイト社等も傘下にもつ人物ヴィンセント・デドメニコは、鉄道の権利を買いとりナパヴァレー・ワイン・トレイン社を設立します。これにより、ナパ市からセントヘレナの町までの区間約34Km(ナパヴァレー南北の約3/4位)を往復し、食事しながら観光できる列車が誕生するのです。
車両
使用している車両を大別すると、1915~17年製ブルマン社車両を復元したアンチークな風貌の車両と、同社1952年製のビスタドーム車両で、動力車両は同社1950年製のものです。
更に前者には、レトロな車内の落ち着いたテーブル・コーディネイトでコース料理を楽しめる「グルメ車両」、ゆったりとした回転シートの「ラウンジ車両」、心地よい自然風を楽しむ為あえてノン・エアコンとした「シルヴァラード車両」、「ワイン・テイスティング車両」、それに厨房車両があります。「ビスタドーム車両」は二階にある展望ドームからナパヴァレーの町や葡萄畑一帯を見渡せ、一階厨房から運ばれてくる出来立てコース料理を楽しめる車両です。
通常これらは、シルヴァラード車両(1両)、グルメ車両&プチグルメ車量(2両)、厨房専用車両(1両)、ラウンジ車両(3両)、ワイン・テイスティング車両(1両)、ビスタドーム車両(1両)、これにメイン&サブ二台の動力車両が接続され、全11車両編成で運行されます。
料理
料理について当初私は飛行機の機内食的なものをイメージしていていました。しかし、一度乗車してからはその認識を新たにしました。
ビスタドーム車両のコース料理を例にとると、前菜はキャビアをのせたスモーク・サーモンかゴート・チーズを錬り込んだラビオリかの一択、ファースト・コースは野菜サラダかスープの一択、メイン料理は牛・ラムチョップ・鶏・鳩・シーフード・野菜料理等六品から一品を選び、デザートもスイーツとコーヒー・紅茶等と、バラエティーある本格的な3コース料理です。
ドレッシングは数種、パンは焼きたてのものが布にくるまれて運ばれてくるし、肉料理は焼き具合を聞いて厨房で料理を始めます。ウエイターは頃合いを計って食べ終えたプレートを下げ料理を運んでくるし、ワインは各料理にマリアージュするグラス・ワインが用意され、ボトルで飲む向きにもライトからフルボディなモノまで各種取り揃えがあり、もう立派なレストランです。
一方、シルヴァラード車両では、単品から盛り合わせ料理、コース料理まで選べるカジュアルな車両です。運行中は他の車両や厨房を見学するのも自由ですし、車両後部のオープンデッキに行ってみるのも楽しいものです。ツアー後には運転席も見せてくれます。
オプション・ツアー
ワイン・トレインにはワイナリー見学がセットされたオプショナル・ツアーがあり、ドメイン・シャンドン・ツアー、ガーギッチ・ヒルズ・ツアー、アンバサダー・ツアーの三つです。
ドメイン・シャンドン・ツアーは往路でコース・ランチを楽しみ、折り返し駅セントヘレナでラウンジ車両に移りデザートを。その後ヨントヴィル駅で下車、スパークリング・ワインで有名なドメイン・シャンドン(Domaine Chandon)でワイナリー見学とテイスティングを楽しんだ後、専用バスでナパ駅へ戻るツアー。
ガーギッチ・ヒルズ・ツアーは往路でコース・ランチを楽しんだ後ガーギッチ駅で下車、シャルドネなどで定評あるガーギッチ・ヒルズ・ワイナリー(Grgich Hills Estate)で約1時間のワイナリー見学を。その後、セントヘレナ駅から折り返してきた復路のラウンジ車両に戻り、デザートを楽しみながらナパ駅まで戻ります。
アンバサダー・ツアーは基本ツアーを楽しんだ後、専用バスでセントヘレナ地区ジンファンデル・レーンにあるレイモンド(Raymond Vineyard)と、ラザフォード地区シルヴァラード沿いにあるジー・ディー(ZD Winery)の二つのワイナリー巡るツアーです。
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ドーム車両のコース料理(メイン) ©Wine Train |
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オプションのワイナリー・ツアー(ガーギッチ・ヒルズ・ワイナリー) ©Wine Train |
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カジュアル雰囲気のシルヴァラード車両 ©Wine Train |
乗る&朗報
SFには気軽に行けるが、ワイン・トレインへの道のりと交通に不安がるという人々に朗報です。
SFに行って必ずといってよいほど出くわすのがマーケット・ストリートですが、この終着点にフェリー・プラザがあります。ここはSF湾内の主なる港をつなぐBaylinkフェリーのターミナルで、今SFでも最も人気のあるスポットの一つです。ここでヴァレホ行きのフェリーに乗り、着いた港からはワイン・トレインのバスが送迎してくれるというオプションがあるのです。しかも、このルートはワイン・トレインの原点、SFとカリストガをつなぐルートをたどることになり、フェリーではBay BridgeやGolden Gate Bridge、それに元刑務所のあったAlcatraz島等を海から眺められる楽しい旅となります。これは私のアドバイスで誕生したものですが、要予約です。
*ナパヴァレーまでの交通手段やルートについては、『ナパヴァレーのワイン休日』P167~に詳しく掲載しています。
ワイン・ストア
出発約30分前にワインを飲みながらガイダンスを聞き、ツアー終了後に利用するのもワイン・トレインのナパ駅で、このロビーにあるワイン・ショップがお勧めです。ここには他では買えない希少ワインから有名ワイナリーのものまで約400種類以上のナパヴァレー・ワインが取り揃えられていて、おまけに安価なことから時間の節約とともに穴場のワイン・ショップと言えます。同ギフト・ショップには『ナパヴァレーのワイン休日』が販売されています。
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グルメ車両 ©Wine Train |
運行
季節と状況により運航がかわりHPでのチェック等がお勧めですが、概要は下記の通りです。
ランチ・ツアー:3月中旬~12月の間はほぼ毎日運行、他の月は金・土・日曜の運行が基本。10時30分集合後ワイン片手にガイダンス、11時30分出発、2時半頃戻る。
ディナー・ツアー:3月中旬~5月と11・12月は金・土・日曜、6月~10月は月・木・金・土・日を中心に運行。特別企画のムーンライト・エスケイプは月一回運行。
但し、定員に満たない場合の振替や、繁忙期や団体客には追加運行もあるとのことで、詳細はお問い合わせ下さい。日本語を話すスタッフもいます。
ワイン・トレインは様々な面で進化を遂げています。その一つが環境対策で、2008年3月よりメイン・エンジンの燃料を軽油から天然ガスに切り替えたとのことです。
*ナパヴァレーの環境活動への取り組みは『ナパヴァレーのワイン休日』P51~54、124~129に掲載されています。
Napa Valley Wine Train, Inc.
1275 McKinstry Street, Napa, California 94559
Tel:+1-707-253-2111 +1-808-427-4124
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