土屋孝元のお洒落奇譚。南風は台風で、
日の出前に記憶が蘇りました。

(2012.07.30)

南風、雨が降る前の雨の匂い、
まるで南国の朝。

昨日、夜半からの南風は台風の様に激しいものでした。

今朝もまだ、南風は残り、雨が降る前の雨の匂いと共に庭の梔子(クチナシ)の香りも混じり、まるで南国の朝を連想させ、ハレクラニやモアナサーフライダー、シックスセンス、ザ・スリン、ペニンシュラなどリゾートホテルでの朝食の時のオープンテラスでのあの空気感に近いかと……。

また、この風の強さも、以前何処かで記憶した事があります、ニュージーランド-オークランドでのロケーションで経験した風に似ています。この当時、僕たちスタッフは海岸沿いの有名なホテルの中庭で簡単なセットを組んで撮影をしていました、カメラカーにカメラをセットしての撮影で、連日35度を超える真夏の8月に東京を出発して到着した南半球のニュージーランドでは真冬、風も強くて1Mにつき1度体感温度が下がると言われていますので、この現場では風速10数メートル、体感温度は書くまでもなく最初は身体が寒さに慣れずにいたのを覚えています。東京でも冬には北風が強いので、同じ様なものかと思っていましたが、現地のスタッフに聞くとオークランドは風の街と呼ばれていて一年中風が強く、人口比に対してヨットの数が世界一だとか、ヨットは風がないと動きませんから、納得です。

この時アメリカズカップの練習に、詳しく言うと前哨戦のルイヴィトンカップのため各国(アメリカチーム、フランスチーム、イタリアチーム、ニュージーランドチーム)がマリーナに専用のドックや倉庫を持ち毎朝練習に沖へ出ていくのを見かけました。秘密管理は徹底しているようでヨットの船底にはカバーをかけ、海に入れるまで外さないのです。この部分がヨットでは特に重要らしいです、撮影の合間に何となしに見ていると、港から出るフェリーや遊覧船とは速さが驚くほど違い、あっという間に距離が離れていくのです、クルマで言えば、軽自動車と12気筒のスポーツカーのようでした。

真冬で港に近い湾内なのに海の色が綺麗なことにも驚きでした。色で言うと絵の具にもあるボンダイブルー(シドニーのボンダイビーチの海の色)という色でしょうか。

わかりやすい色ではエメラルドブルーにグリーンが少し入ったようなと言えば近いですね、日本では暖かい海の色の代名詞ですが、真冬の海でもこんな色があるとはと、記憶しています。

思い出したロングアイランド
サウスハンプトンの海の色。

海の色で連想し、思い出したのはニューヨークマンハッタン島よりクルマで フリーウェイを飛ばし3時間くらいのロングアイランド、かのグレートギャッツビーの舞台、ポロックのアトリエのあったサウスハンプトンの海の色でしょうか、白い砂に瀟洒なロングアイランドスタイルの家々が建ち並び、エメラルドブルーよりは少し濃いブルーの海でした。

僕が滞在したのはサンクスギビングデーの前でしたが秋と言ってもこの時はまだまだ暖かく、Tシャツやポロシャツでもいられるくらいの日差しの強さでした。昼間はこの暖かさですが、数日過ぎると寒波がやって来て夜になると冷え込み東京の真冬ぐらいになりました、カエデが真っ赤に色ずくのはこのためかと一人納得でした。この温度差で自分の前後1メートル先も見えないくらいの霧がでるのです、ただの霧とはバカにできないくらいで、クルマでライトを点灯すると霧全体に光が当たり、余計に見えにくくクルマは最徐行です。

また この辺りの家には共通に灯台が付いていて不思議な風景です、映画でもスプラッシュなどでは印象的な風景として描かれていたと記憶しています。


ロングアイランドモントーク灯台。ニューヨーク州アメリカでも古い灯台です。

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ちょっと脱線しますが、この地方の名物、バッファローウイング、鳥手羽先の唐揚げですが、独特の香辛料と味付けでとても美味しいものでした、最近はアメリカンなフーターズなど日本でも食べられるようですが、20年前には無かったと思います。お店により、各家庭により味付けは違うようで、よく食事ではシェルクラブの唐揚げとバッファローウイング、ボストンタイプのクラムチャウダー、いかにもアメリカンですね、身体にはよくないかもしれないです、ね、もう時効ですから良いでしょうか、今は魚を中心に緑茶を飲む生活で気をつけていますが……。


バッファローウィング。アメリカ東部の名物料理でバッファローで生まれたと聞きました。

紫色からブルー、一瞬ピンク色と暖色系、
夜明け後は綺麗なス。カイブルー。

ロケハンでこのサウスハンプトンあたりをいろいろと見てみると、島や入江が複雑に入り込み、車や自転車ごとフェリーで渡る場所なども多く、夜明けや日没後に船から見る風景は何とも言えない景色でした。

紫色からブルーに変わる空のグラデーション、日の出前には一瞬ピンク色と暖色系の色で海も含めた風景全体が染まり、夜が明けてから綺麗なスカイブルーに変わるまでの空の変化、絵にもかけないとは、このことでしょうか。


ロングアイランドハンプトンの夕焼け。入り組んだ入り江が多くとても綺麗な風景でした。

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何故、夜明け前に外にいるのかといえば、僕達撮影スタッフは日の出の前と日没後数分のハッピーアワーに撮影をするために準備を整えロケハンをして、カメラ位置を決めて活動しているのです、ホテルを出るのは午前2時ぐらいで現場には午前3時には到着してスタンバイ、朝食も暗い中で冷たいサンドイッチ、まったくの暗闇の中での作業ですから注意しないと危険ですね、暖かさを感じるのはポットに入ったアメリカンコーヒーだけ、この頃には夜と言うか朝の冷え込みは尋常ではなく、その中で一日中外にいると身体中が冷えきり、手袋をしていても手が動かなくなるなんてこともありました。この時の僕の服装はウイルス&ガイガーのハンティングシャツにカシミヤセーター、マフラーを巻きアビレックス社製のB3タイプのボマージャックの完全装備でした。靴はもちろん登山用の靴でビムラムソウル。

そうそうこの時のホテル、モーテルというのでしょうか、シャワーのお湯がお湯ではなくぬるま湯でシャワーを浴びるとよけいに寒くなる、こんな状態のため10日を過ぎるころには靴下を二重、三重に履いたまま、服を着たままベットで横になる、疲れが溜まり着替える時間も惜しいのでそのまま休んでいました。

こんな撮影はコンピュータやデジタル化で、もう無いでしょう、フィルムを使う撮影自体なくなってしまいました。記憶のはるか彼方になりつつあります。

昨夜半からの強い南風でその時の事を鮮明に思い出しました。


ソフトシェルクラブ。ワタリガニの脱皮直後のもので殻ごとすべて食べられ、とてもおいしいです。