『アマルフィ&カプリ島 とっておきの散歩道』人はなぜ、ここに惹かれるのか?
南イタリア、アマルフィ、カプリ。

(2011.11.01)

風景良し、空気良し、食べて良し、
そして歴史ありのアマルフィ、カプリ。

南イタリアといえば、アマルフィ、カプリ、そしてシチリアあたりが、観光のメッカでしょう。海と太陽と異国情緒のイメージ。でも、それ以上のこととなると急に姿が茫洋としてくるのです。それでも行ってみたい、とにかく行ってみたいと思わせる何かがそこにあるような、そしてそれはいったいなんなのだろう? が、この本をつくりたいと思った動機の一つです。

たとえば、青の洞窟。カプリといえば青の洞窟ですが、イタリアにその名前がつく洞窟はあちこちにあるのに一番知られているのはカプリのそれ。どうしてこの青の洞窟ばかりが有名なのだろう?と。

また、アマルフィは、映画のタイトルともなってそれこそ名前が一人歩きしてしまったような、とにかくその名前の響きの良さも相まっての人気観光地ですが、果たして本当に魅力的なところなのか?と。

「帰れソレントへ」の歌を音楽の授業で聞いたがために、カンツォーネ=ソレントのイメージが定着してはいるけれど、実際のところ、ソレントがどんな街で、歌われるほどの素晴らしいところなのか?と。

このようにやや斜に構えた姿勢で訪れたのですが、実際に行ってみると、なるほど、と納得すること頻り。風景良し、空気良し、食べて良し、そして歴史あり、とくれば、惹き付けられるのも当然です。

 

アマルフィ~ポジターノに至る
アマルフィ海岸。独自の世界観を味わう。

ナポリとは内海を挟んで対岸にあるソレント半島。その北側のソレント、そして南側のアマルフィ〜ポジターノに至るアマルフィ海岸。ソレントから高速船に乗って20分ほどで着くカプリ。それぞれに歴史があり、自然との共存から生まれた独特の街並があり、そして陸路から遮断されていたがゆえの独自の世界観を持つ。それらを味わうにはやはり歩いてみるのが一番で、それも駆け足で有名な教会やモニュメントをチェックするというのではなく、路地に迷い込んでみたり、カフェで何をするでもなくぼんやりと景色を眺めて、そこの空気に自分を溶け込ませるくらいの感じの旅が理想。だから、本当は、二泊三日でソレント半島周遊+カプリ観光、ではなくて、少なくとも一週間は費やしたいと思うのです。

本書では、ポジターノを皮切りに(なんといっても街の景観が素晴らしく、本当はアマルフィから始めたかったのですが、アマルフィ海岸らしさを代弁するポジターノの魅力に抗えず...)、四大海運共和国の一つとして地中海世界を縦横無尽に駆け巡ったアマルフィ、古代ローマの貴族たちがその絶景をことの外愛したという高台の街ラヴェッロ、ナポリ王国時代の高貴な人々の保養地として栄えたソレント、古代ローマ皇帝から現代のジェットセッターまでが別荘を構えるカプリ島と、5章に渡って“散歩”を楽しみます。

もちろん、散歩旅を一層楽しいものとするための食事処、宿の情報もちりばめました。実は当地は、ハイレベルなリストランテが集中するゾーンですが、本書ではあえてそちらには触れていません。気兼ねない、気負いもない旅にしたいという意図から、地元の人が行く手頃な食堂や、旅行者がお客の大半を占めるけれど、だからこその味わいがあるところを選んでいます。

観光とはなんだろう? と問い、見聞を広めることが目的であったグランツーリズム時代と21世紀の現代ではその意味は変化しているのだろうか、と考えつつの本作りでしたが、結局のところ、この本を手に、「自分ならこう旅を組み立てよう」と思ってもらえたら、あるいは、「いつか行ってみよう」、「行けないけれど行った気分を味わえた」と思ってもらえたなら、一介の旅好きの者としては何よりも嬉しいことであります。



 

『アマルフィ&カプリ島 とっておきの散歩道』

地球の歩き方gem stoneシリーズ051
写真・文/池田匡克 池田愛美
ダイヤモンド社 定価1860円 2011年9月30日発売