from バスク – 7 - 社会科見学でシードル醸造所へ

(2009.12.14)

バスク地方が面するカンタブリア海沿いの地域でよく生産されるお酒といえば、りんご酒のシードル。スペイン語ではシードラ(sidra)といい、バスク語では「りんごのワイン」という意味のサガルド(sagardo)という。日本では、少し甘くて炭酸が少し入ったフランスのシードルが有名かもしれないが、バスクのシードルは酸味が強く、炭酸も入っていない。

もしかするとスペインやバスク地方を訪れたことがある人は、その注ぎ方をみたことがあるかもしれないけれど、ビンを頭よりも高くあげ、そこから腰よりも下に持った口の広いグラスに注ぐというもの。これは、シードルを空気にたくさん触れさせ、また高くから注ぐことで泡が立ち、その泡が残っているうちに一気に飲みほすのが本当の飲み方だ、と知り合いのおじさんに教え込まれました。

高いところからグラスに上手に注ぐのがなかなか難しくて、バルのお兄ちゃんは簡単そうに入れているけれど、素人がやるとこぼして周りをべちゃべちゃにしてしまうこともよくある。上手く注ぐための栓だったり、その代用としてコルクを切る方法だったり、結構シードルにはルールが多くて、それだけにシードルにはうるさい人も多い。

ホースの水で洗いながら、写真の手前から子どもたちのいる方に向かってりんごを流し、その奥にある圧縮機に流れ着く仕組み
ピーク時には、りんごがこんなに山盛りになるという。きっと一日中ひっきりなしに機械が稼動して、シドレリーアはすっぱいりんごの香りで満たされるんだろう。
試飲も大事な社会科見学の一部。でも、子どもたちはアルコールを飲めないので、甘いモストを飲んでいた。モデルになってくれたのはイニゴくん。

さて、そんなシードルは10月~12月にかけて醸造作業が始まる。ホームステイをしている家庭のお母さんが小学校の先生をしていて、隣村のエルナニ(Hernani)にあるシードル醸造所(シドレリーア)へ社会科見学として行くということだったので、特別にぼくも参加させてもらった。お邪魔したのはセライャ(Zelaia)というシドレリーアで、門をくぐるとさっそく目の前にはたくさん集められたりんご。

ホストマザーの学校は、イカストラ(ikastola)と呼ばれるバスク語のみで教育をする私立の学校で、そのため説明は全てバスク語で行われた。バスク語を勉強しているとはいえ、まだまだ初級なので、好奇心が旺盛そうな男の子を2、3人つかまえて「バスク語分からないから助けてね」と言って通訳をしてもらった。

日本の4年生にあたる学年の子どもたちで、みんな真剣に説明を聞きながら自分のノートにメモをとったり、機械をのぞき込んだり、手を上げて質問をしたり、とても素直な子どもたちだった。そんな素直な子どもたちは、ぼくにも一生懸命に説明してくれて、3人同時にも説明をしてくれたりしたけれど、聖徳太子じゃないのでちょっと困った。

大きな樽は人が中に入って洗う。小さな入り口に動物脂を塗ることで摩擦を減らして入ることができるらしい。ちょっと太っちょだったこのおじさんがするりと入った瞬間「あの人でも入れるの~!」と子どもたちが驚いていた。
シードルの栓チョチ(txotx)。すごく小さな爪楊枝ほどのこの栓が、大量のシードルの栓というから面白い。「チョチ!」という合図で栓を抜いて、勢いよくでてきたシードルをグラスで受けるのが飲み方。
これは4月に行った飲み放題。樽それぞれに名前がついていて、仲間同士で「どれが美味しかったか」と評価し合うのが飲み放題でのやりとり。ちなみにアルコール度は6%程度で、グラスに少し注いで飲む程度なので、酔っ払う前にいろいろ試すことができる。

この醸造所には、栗の木で作った10,000~18,000ℓの木樽が24、非酸化性の14,500ℓの樽が4つの計28つの樽があり、それを6人の職員で切り盛りしている。10,000ℓのシードルを造るのに15,000kgのりんごが必要だというから、想像できないほど莫大な量のりんごが使われているわけだ。

りんごはノルマンディー産のものと、地元エルナニのりんごを使用していて、酸味のあるりんご、苦味のあるりんご、甘味のあるりんごの3種類を混ぜ合わせて造っている。圧縮機で潰したりんごの汁をモストといい、これをだいたい3ヶ月間樽の中で寝かすことでモストの糖分がアルコールになってシードルになるとのこと。立派なシードルになったものは、瓶詰めされてバルやレストランで飲まれるものもあれば、シドレリーアで樽から直接飲むこともできる。これは、春先にいろいろなシドレリーアがシードル飲み放題のレストランとなり、たくさんの人でにぎわう春の名物のひとつ。だいたい30~45ユーロで料理がついてシードルが飲み放題。樽を寝かせていた場所に長机が何脚もならび、その横には樽が10ほどある。好きな樽を選び栓を開けてもらうとシードルが勢いよく飛び出し、それをグラスで受け止めるかたちで注ぐのだ。

料理は前菜からメインの肉魚から食後のチーズとクルミまでたっぷりと出てきて、シードルも飲み放題で30ユーロ。これだったら十分元はとれるでしょう。春にバスク地方を訪れる人は、ぜひシドレリーアでシードルの飲み放題を味わってみてはどうだろう。セライャへ行って「この記事を読んだ」と言えば10%割引になる!!…なんてことはないけれども。

セライャ(Zelaia)のホームページ(バスク語 / スペイン語 / 英語 / フランス語)