from 岐阜 – 20 - 長良川母情 第20話 ~ふたを取れば昭和の彩り、アルミの弁当箱~

(2009.11.16)

毎朝すれ違う小学生。うなだれ気味にランドセルを背負い、重そうな足取りで行く。だが今朝はいつもと違う。バックパックを軽々と背負い、足並みも軽快そのもの。満面に笑みさえ浮かべ。「そうか!」。見上げれば雲一つない秋晴れ。絶好の遠足日和だ。

「お父ちゃんの弁当箱借りて、ご飯におかずと果物も詰めたるで、残さんように食べるんやで」。小学4年の遠足の朝。母は新聞紙に包んだ弁当箱を、ナップザックの中へと仕舞い込んだ。目的地は歩いて片道2時間の、隣り町にある大きな観音様。だが、誰一人ブツクサ言ったり、弱音を吐く者はいない。なぜなら、最大の楽しみである弁当の時間が待っているからだ。誰もがそんな幻想に魅入られ先を急ぐ。それもそのはず。弁当の持参は、運動会に遠足と決まっていたから、もうそれだけで立派な一大事件なのだ。軽快な足取りで、11時頃には目的地に到着。「昼まで自由時間!」。教師の声と同時に、境内の外れにある林へと駆け込み、枝を拾ってさっそくチャンバラゴッコ。ナップザックを背負ったまま、斬って斬られてスッテンコロリン。「さあ皆、昼にするぞ!」。皆、教師の掛け声に歓喜の声を上げ、ぼくも弁当箱を取り出した。

「………」。何と包み紙の新聞紙がベトベト。水筒のお茶でもこぼれたかと、鼻を近づければ煮汁の匂い。アルミニウム製の弁当箱を開けてビックリ。当時、汁物を入れるような密閉容器は、それ自体がかなりいい加減な物で、おまけに使い込んだせいか、肝心のゴムパッキンも緩々(ゆるゆる)に伸びきっていた。だから密閉容器に入っていたはずの、筑前煮のレンコンや人参がご飯の上に溢れ返り、その間(はざま)にケチャップを掛けたマルシンハンバーグ、そして真っ赤な蛸足ウィンナーや、デザートのウサギリンゴまでが、煮汁でツユダクの状態の中に浮かんでいるではないか。何とも例えようのない、不思議な味の弁当。だが残すわけには行かない。残して母の逆鱗に触れるよりはましと、不思議な見た目と味の弁当に、ぼくは勇敢にも立ち向かったものだ。

「羽島はやっぱりレンコン。筑前煮や酢レンコン。これから一番美味しい時期やでねぇ」。羽島市竹鼻町のれんこん料理の竹扇、女将の馬場修子さん(63)は、名物のれんこん蒲焼き丼を差し出した。「すりおろしたレンコン揚げて、タレ付けて焼いたるんやで体にええよ」。同町生まれの修子さんは、23歳で文親(ふみちか)さん(65)と結ばれ一男一女が誕生。そして結婚から10年を迎えようとした時だった。

「会社員だった主人が、1ヶ月ほど食も細って元気がなく、どこか悪いんかと。そしたら脱サラして店出したいんやと。そんなことやったら何とでもなるわ、どうせ貧乏育ちなんやでって。主人の背中押したったんやわ」。それからはや30年。「毎日大変やったけど、店始めて良かったわ。周りの皆に支えられて楽しいし。やっぱりレンコンの産地やで、先が見通せたんやろか?」。修子さんは泥まみれのレンコンを、望遠鏡のように掲げ持ち、穴の向こうを覗き見ながら大笑い。笑う門に福来る!

*岐阜新聞「悠遊ぎふ」2009年10月号から転載。内容の一部に加筆修正を加えました。

 

Googleマップ: 20 岐阜県羽島市竹鼻町 れんこん料理の竹扇


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*地図のポイントは、「岐阜県羽島市竹鼻町丸の内3-17」で検索した場所です。