とやま再発見!  食・農・アートの地を訪ねて。

(2010.12.15)

私は富山県出身です。でも「富山ってどんなところ?」と聞かれても、「富山けぇ、なんもないからねぇ~」と言ってしまいがち。そんなことではいけない! と、このたび「TOYAMA再発見ツアー」なるものに参加してみました。ツアーといっても行き先は立山、五箇山などの、いわゆる観光地ではありません。富山の地で様々な取り組みをしている人々を訪ねました。

“土に遊ぶ野原”と書いて「土遊野(どゆうの)」。
まず訪れたのは、富山市街から車で約30分の里山に広がる土遊野農場です。ここでは30年前に関東から富山へ移り住んだ橋本さんご一家が、枯れた棚田をよみがえらせ、自給自足の生活と持続可能な農業を実践されています。まさにDASH村を地で行くような場所が富山に!?

自分たちで打ったそばでお腹を満たした後、養鶏場と棚田を見学。鶏小屋の前に立って驚くのは、嫌なニオイがほとんどしないこと。ここで育つ鶏たちの餌は、田畑から出たくず米、野菜くず、近所の学校からもらう給食の残飯などを原料にしているため、糞が臭くないそうです。その鶏糞は田畑の肥料に投入。田んぼではアイガモが草を食べ、水かきで土に酸素を送り、糞が養分となる。ヤギも畔草を食べて田んぼのお手伝い。農業と畜産がぐるぐると循環して無駄がない!

平飼いの鶏。餌は輸入に頼らず自給または県産、国産のもの。
平飼い卵。この卵を使ったシフォンケーキはふわふわ!
お昼に食べた絶品卵かけごはん。やみつきになります。
棚田風景。晴れた日は立山連邦が一望できます。
春に生まれたヤギのさつきちゃん。畔草を食べるために訓練中。
橋本家の自家発電用水車。一軒分の電気がまかなえるそうです。

「絞りたてのミルクや産みたての卵はとても温かい。命を戴いていることを感じながら食べてほしい」と橋本さん。言われてみれば冷えたミルクや卵しか知らないワタシ。言葉が心にしみます。

その日の夜は富山市街のイタリア料理のお店『CUORE(クオーレ)』へ。『クオーレ』は、シェフの杉浦さんが自家畑で育てた野菜や地元産食材を使い、素材の味を生かしたイタリアンが楽しめる店。この日は土遊野農場から届いた野菜やお肉を使った料理もたくさん!

丸ごとかぶりつける野菜たち。
地鶏とフリッジ トマトソース。
野菜を作った人(橋本さん)と料理を作った人(杉浦さん)。

昼間の農場で採れた野菜や卵が、新たな人の手を介し、料理として再び目の前にあらわれる。畑からテーブルまでつながっていることを、目と舌で感じた一日でした。

1日目のテーマを「農と食」とすれば、2日目は「アート」。
午前中に訪問した『富山県水墨美術館』は神通川のほとりにある和風美術館。折しも紅葉の真っただ中で、黄・赤のグラデーションがキレイ! 美術鑑賞するのもいいし、茶室でお抹茶をいただくのも、庭園をのんびり歩くのもいい。いつもよりスローペースで過ごしたい場所です。

近代日本の水墨画の流れを紹介する全国的にもユニークな美術館。
富山は何処でもとにかく広い! 駐車場もほとんど無料。
季節のお茶菓子。「奥山に 紅葉ふみわけ 鳴く鹿の~」ですね!

昼食は一軒家レストラン、『ビストロ ヨシダ』でフランス家庭料理を堪能。市中心部の住宅街にありながら、室内のピクチャーウインドウからは田園風景がどこまでも続くように見えるから不思議です。「砺波の散居村のような昔ながらの建物の雰囲気が好き」というオーナーの吉田さんが、周りの景観にとけこむようにと建てたこちらのレストラン。2008年とやま景観広告賞を受賞されました!

白壁と木を組み合わせた温かみのある建物。
フォークと「ヨ」を掛けたマークが目印。
肩ロース肉のコンフィ マスタードソース お肉がホロホロ!

午後はツアーの最終目的地、富山市大山地区にある『VEGA』へ。『VEGA』は、この地で生まれ育ったプロデューサーの貫場さんが、自宅の納屋を新たなカタチでよみがえらせた、ギャラリーでもサロンでない何にも分類されない空間。「素の間」「土の間」「紙の間」「木の間」「風の間」と名付けられた空間を案内していただきました。

神秘的だったり、温もりがあったり、空間が変わると空気まで変化。しかしどの空間にいても、外とのつながりや時の流れを感じます。光、音、自然、いろいろなものに包まれて自分がいる!そんな発見にも似た感動を得て、何とも不思議な気分。この場所で感じることは人それぞれ違うのだろうな…。

『VEGA』のある大山地区は9割が森林という自然豊かな地。
決して広くはないこの空間に無限のものを感じました。
「おおっ!」と感嘆の声があがった瞬間。「土の間」にて。

『VEGA』に隣接するしゃれた建物。なんだろう? と思ったら地区のコミュニティセンターでした。大山地区では「木と出会えるまちづくり」に取り組んでおり、そのスタートとして完成したのが、ここ福沢地区コミュニティセンターだそうです。

住民のサードプレイスとして大活躍の福沢地区コミュニティセンター。
木を使った自然にとけこむデザイン。壁の塗替は地域の人の手仕事。
つい座ってくつろぎたくなる椅子が館内のあちこちに。

この日は、ラジオ体操クラブの集まりがあるとのこと。昼過ぎから続々と人が集まってきました。持ち寄りのお惣菜やらお菓子やらで、テーブルはすぐにいっぱいに。「これ、食べてみられ」とおばあちゃんが作ったミョウガのお寿司を頂き、親戚の家にでも来たかのような気分に。
こんなに気持ちいい空間を、我が家のように使えるなんて本当にうらやましい!おしゃれな美術館もいいけれど、こうして人が使うことで、なお生き生きと輝き出す空間って“本物”だなと思います。

茶飲み会、コンサート、子どもの勉強など住民が自由に利用。
交流会の準備中。室内には外の光があふれています。
実家に帰ると必ず出る、なじみあるお惣菜がずらり。

盆正月の帰省とは別に、あえて「旅」というスタイルで地元に帰り、新たな発見がたくさんありました。自分の住む土地と向き合い調和しながら生きる姿は本当に格好いい。一方で様々な苦労もあり、それでも乗り越えられるのは揺るがない強い意志であり…。地元の人々の底力をひしひしと感じ、とてつもないパワーをもらったと同時に、本当の豊かさって何だろう?そんな疑問が頭を過った旅でした。

 

土遊野 http://doyuuno.net/
クオーレ http://www17.ocn.ne.jp/~cuore01/17.html
富山県水墨画美術館 ://www.pref.toyama.jp/branches/3044/3044.htm
VEGA http://ww3.ctt.ne.jp/~vega/index.html
ツアー企画:acoico http://acoico.net/pc_index.html