from パリ(河) – 14 - シャンパーニュ地方を訪ねて。ランス(Reims)編。

(2010.10.13)
ランス大聖堂。

エぺルネからランスまでは電車で約20分。途中、シャンパーニュのグラン・クリュ17村の1つとして有名なアイ(Aӱ)村を通過します。ランスは、シャンパーニュのグラン・メゾンが集中しているだけではなく、大聖堂、トー宮殿、サン・レミ教会という3つの世界遺産、そしてマルス門という古代ローマ遺跡を擁する、古い歴史を誇る街です。特に大聖堂は、歴代のフランス国王が戴冠式を行った由緒あるもので、英仏百年戦争の英雄、ジャンヌ・ダルクがシャルル7世を戴冠させたことでも有名。日本人画家のフジタはここでキリスト教に改宗した後、老舗シャンパーニュ・メゾン、マム社の敷地内に今も残る、美しいチャぺルを建てました。

フランスの急行列車、TER。エぺルネからランスにはこの電車で移動。「鉄ちゃん」向けに1枚。
ランス大聖堂は、フランス3大ゴシック聖堂の1つ。
大聖堂内にあるシャガール作のステンドグラス。「シャガールの青」が見事に表現されています。

このランスには、ポメリー、ヴーヴ・クリコ、リュイナール、テタンジェ、マムなどの国際的な大手メゾンが勢揃いしていますが、今回見学したのは、L.V.M.Hグループに次ぐ、世界第2位のメゾンであるポメリー社。1834年創業のポメリー社の華麗なる歴史は、夫の急死により、39歳の若さで事業を引き継いだポメリー夫人の時代に始まります。商才にたけたマダム・ポメリーは、シャンパーニュの輸出先としてはロシアが主流であった時代に、英国市場に着眼。当時、シャンパーニュと言えば、デザートワインとしての「甘口」が常識でしたが、若い未亡人は英国人ブルジョワの嗜好を鋭く察知し、世界初の辛口シャンパーニュを考案しました。1879年に登場した「ポメリー・ナチュール」は、現代の辛口(ブリュット)の原型とも言えるシャンパーニュで、マダム・ポメリーは「シャンパーニュは辛口」という今日のイメージを築いた功績者として、シャンパーニュの歴史に名を残す人物です。

ポメリー社の華麗な社屋。

ポメリー社はその宮殿のような華麗な社屋も圧巻ですが、最大の見所は地下のカーブ。ランスの地下には、ガロ・ロマン時代のローマ人が街造りをするときに掘った、石の採掘跡が数多く残っていて、シャンパーニュ・メゾンの多くは、これらの採石跡の洞窟をシャンパーニュ熟成のカーブとして利用しています。ポメリー社も例外ではなく、深さ20m以上の石の洞窟に、瓶内熟成中のシャンパーニュが眠っています。適度な湿度があり、約10℃前後の一定した温度が保たれる洞窟は、まさしく後世のシャンパーニュ造りのために用意されていた、ローマ時代の遺産と言っても過言ではないでしょう。

マダム・ポメリーのマーケティングの才は、現在も受け継がれています。例えば、1人用の小さなボトルをストローで飲む、という斬新なスタイルを考案したのはポメリー社。「POP」というブランド名で、ファッション業界やおしゃれなクラブなどで大ヒットしました。また、季節性のあるシャンパーニュを初めて提案したのもポメリー社。春はピノ・ノワール種を多く使った、春風のように爽やかなロゼの「スプリング・タイム」、夏はシャルドネ種100%のすっきりとした酸味が清々しい辛口白の「サマー・タイム」、秋は森の湿った香りのする柔らかな味わいの「フォール・タイム」、冬は黒ぶどう品種のみを使った、熟したフルーツの香り漂うふくよかな「ウィンター・タイム」、と季節に合わせて、スタイルの違うシャンパーニュを提案しています。

見学後のテイスティングでは、ポメリーの定番である「ブリュット・ロワイヤル」だけでなく、これらの季節性のある4種のシャンパーニュも選ぶことができます。それから、ポメリーの最高傑作である、葡萄の出来が良い年しか造られないヴィンテージ・シャンパーニュ、「キュヴェ・ルイーズ」を選ぶコースもあります。私は思い切って「キュヴェ・ルイーズ」のコースを選びました。ポメリー夫人の愛娘、ルイーズの名を冠するこのシャンパーニュは、黄金色を帯びた、蜂蜜の風味と上品な酸味が一体となった華やかなシャンパーニュでした。

今回は大手メゾンに搾りましたが、次回、シャンパーニュ地方を訪れる時は、小さな造り手を訪問したいと思います。

お薦めのシャンパーニュの本:『シャンパーニュ&スパークリングワイン』(須藤海芳子著/
主婦の友社)

写真が良くなくてわかりづらいのですが、これがローマ時代の採石場を利用した地下カーブ。下から見上げた図です。
ポメリー社の地下カーブ
モナコ王国がリザーブしている「キュヴェ・ルイーズ」の保管コーナー。
過去のシャンパーニュのサンプルを保管したライブラリー。右手前が世界初の「辛口シャンパーニュ」。
カーブ内の岩肌に直接掘られた彫刻。ワインの神様である「バッカス」の宴がテーマ。
テイスティングルームにて。ポメリーのシャンパーニュが勢揃い。好きなシャンパーニュを2種類選ぶことができます。但し、「キュヴェ・ルイーズ」は1種類のみ。