from 鳥取 – 42 - 素朴だけどステキ! 我が家は小さな美術館

(2010.02.22)

相変わらず灰色の空とにらめっこの鳥取。ですが積雪の心配もほとんどなくなり、いつスタッドレスタイヤをノーマルに替えようか悩むなど、春の訪れをほんの少し感じるこの頃です。

お天気の心配がなくなったのを機会に、今回はちょっと遠出をしてきました。東西に横長の鳥取のほぼ中央、琴浦町です。ここの“光(みつ)”という集落で、なんとも素朴でしかも美しい芸術に出会いました。それは「鏝絵(こてえ)」。「鏝絵」とは左官職人が鏝(こて)を使い描いた漆喰装飾のことで、江戸末期から昭和初期に流行したとされるもの。民家の壁や戸袋、土蔵の扉や戸前の腰壁、妻飾り、窓枠などに描かれています。図柄も色もバラエティ豊か、丸みを帯びた立体的なその鏝絵を見ているだけで、なんだか心がほっと温まる気がします。

“光”は全部で50戸ほどの小さな集落ですが、一歩足を踏み入れると、あちらこちらに「鏝絵」で飾られた蔵や家屋が立ち並び、まるで集落全体が美術館のよう。細くくねった道をゆっくり歩き、しばらくその美しさに浸ります。

よく見ると、どうやら鏝絵には縁起のいい図柄が多いことに気づきました。ナンバーワンは「鶴と亀」。鶴は千年、亀は万年といわれ、お馴染みの長寿の象徴ですね。対で描かれていることもあれば、亀のみ鶴のみもありました。次に多かったのが「鯉」。滝登りをしています。これは中国の故事にならって立身出世を願ったものでしょうか。ほかにも「打出の小槌」「巾着袋」「松竹梅」など、おめでたい図柄尽くめ。色は白1色から、水色や藍色のほか金色に見えるものもありました。
 

“鯉の滝登り&松”という、おめでたいもの尽くし。水しぶきをあげる躍動感のある鯉がすばらしい!
ふっくらとした“打出の小槌”。丸みを帯びた鏝絵は漆喰を盛り上げる技法ならではの、優しい立体感がある。
“立浪”と“亀”の名コンビ。浦島太郎に出てくる亀さんのように、長い尾ひれ(?)が付いていてとっても立派。
美しく羽ばたく“鶴”。頭の朱色や羽の先の黒など、色も鮮やか。この日見た鏝絵の中で一番の立体感でした。

この“光集落”の鏝絵は、昭和30年代頃のものが多く、色あせや形の崩れが気になりました。現代の鏝絵はどうなっているのか、鳥取県左官業協同組合理事・山根さんにお聞きしました。「比較的住環境の変化の少ない鳥取では、多くのすばらしい意匠を凝らした鏝絵が残っています。しかし老朽化が進んでいるのも現状ですね。」主に蔵などの建て替えの際に修復するというスタイルが、最近では少し変化しているそう。「鏝絵の魅力が少しずつですが広まり、新しく描いて欲しいという注文を受けることもあります。」実際に5年ほど前には、金・銀・プラチナなどを贅沢に使った鏝絵を制作したことも。「自分で言うのもなんですが、それは見事でした。先輩職人とふたりで図柄や色などすべて一から考え、1年がかりで完成させました。」

そんな盛り上がりを見せる鏝絵、鳥取県では今年の秋ごろに全国サミットを計画中。ディスカッションや交流会、見学ツアーなどを開催予定で、最新の鏝絵について知ることができる絶好のチャンスになりそうです。また、前述の琴浦町では「光の鏝絵map」を制作。HPからも見られ、詳しい場所や制作年などがわかるようになっています。ただし、個人宅なのでくれぐれもマナーを守って観賞してくださいね。
無病息災・家内安全などを願って描かれたという「鏝絵」。家族を想う優しい心と卓越した技を持つ職人魂が重なり合って、すばらしい芸術が誕生したのでしょう。やっぱり日本ってすばらしい。そう実感できる、身近な芸術散歩でした。

 

お問い合わせ:琴浦町観光協会

 

 

ダカーポ編集部より岩村さんへ

 
松葉かにをありがとうございます!
みんなでおいしくいただきました!